2015年02月14日

toujyouka016.jpg 3人の親による体外受精

イギリスで、ドナー女性から提供されたミトコンドリアを、
両親からの受精卵に移植するという体外受精技術を認める法案が
下院で可決されたので、ご紹介したいと思います。

「「親3人」の赤ちゃん誕生も、英下院が新たな体外受精技術承認」
(はてなブックマーク)
「「3人の親による体外受精」が英国で承認される」
(はてなブックマーク)

 
正確には、ドナー女性の卵子に両親からの受精卵の核を移植する、
という感じのようです。
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議論を醸した今回の手法は、体外受精を改良したもので、
ドナーの女性から採取した健康なミトコンドリアを、
両親のDNAに組み入れる(受精卵の核を、ドナーから提供され、
核を取り除いた卵子に移植して胚をつくる。
つくられた胚は、受精卵の核の遺伝子と、卵子の細胞質中の
正常なミトコンドリア遺伝子を受け継ぐ)
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この体外受精は致命的な遺伝性疾患を予防するものです。
実の母親の遺伝病のもとになるミトコンドリアを
ドナー女性のミトコンドリアと入れ替えることになります。
遺伝病に悩む家族にとっては、大きな朗報となっています。

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欠陥のあるミトコンドリアが親から子に伝えられると、
赤ちゃんの失明や脳障害、筋肉萎縮、心不全などの原因となる可能性がある

英国当局はこの手法について、致命的な遺伝病に悩む家族にとって
「暗いトンネルの端に見えた希望の光」だと述べている。
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ご存知のように細胞の核の中には染色体があり、
この中に遺伝子の乗ったDNA分子が存在します。
これは父親と母親から半分ずつ受け継ぐものです。
核の遺伝子のほかに、細胞内にあるミトコンドリアという組織が
独自のDNA分子をべつに持っています。
「ミトコンドリアDNA」というものです。

「ミトコンドリアとは何か・・・・・・」

したがってミトコンドリアを移植する体外受精を行なうと、
核にある両親からのDNAのほかに、ドナー女性から提供された
ミトコンドリアDNAを受け継ぐことになります。
つまり産まれる赤ちゃんは、父親、母親とドナー女性の
3人の遺伝子を受け継ぐということです。

産まれる赤ちゃんのDNAの約0.1%がドナー女性から
提供されたミトコンドリア内のものです。
記事の見出しに「3人の親」とあってセンセーショナルな書きかたですが、
赤ちゃんは3人から遺伝子を受け継ぐので、
生物学的な親が3人になるということです。


ミトコンドリアDNAはかならず母親のものを受け継ぎます。
父親からは受け継がれないです。
(なのでミトコンドリアを移植して産まれた赤ちゃんが
女児であれば、移植されたミトコンドリアが
その子孫にもそのまま引き継がれることになります。)

よって母系のDNAをどんどんさかのぼっていくと、
人類の祖先の家系がわかることになります。
その結果、現在のすべての人類は約20万年前のアフリカにいた
ひとりの女性の遺伝子を引き継いでいることがわかり、
自分の遺伝子を残せたこの女性のことを
ご存知のように「ミトコンドリア・イブ」と言うのですね。


下院の採決では382人が賛成、128人が反対でした。
キャメロン首相も賛成票を投じました。
病気の治療のためなので、モチベーションがわかりやすいことも
あるのでしょうけれど、このような法案が
賛成多数で可決するのはよいことだと思います。

ロイターの記事によると上院でも可決される見通しとあります。
ワイアードの記事によると早ければ2016年には、
この体外受精技術を使った出産が、
はじめて行なわれる可能性があるとしています。

カトリックとイギリス国教会の両教会は、
倫理的な問題を理由に反対しているとあります。
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倫理上の激しい議論が生じており、英国のカトリック教会と英国国教会は、
いずれもこの手法の阻止を求める声明を1月に出している。
両教会は、この手法に「胚の破壊」が含まれる限り、
倫理的に問題があり、安全でもないと主張している。
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「親が3人」というのが新聞記事で強調されているので、
家族観にかかわるところもあるのかもしれないです。
こうしたことは、倫理や家族観やイデオロギーの問題に転化させず、
いかにして純粋に医学の問題として扱うようにするか、
ということが大事なのだろうと思います。

posted by たんぽぽ at 22:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 科学一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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