人種隔離政策を推奨したコラムが、話題になっています。
これ自体が差別的もはなはだしいのですが、
曽野綾子氏の黒人のライフスタイルに関する認識が
「どこのお話?」と言いたくなる怪しいものでもあるのですよね。
「黒人は基本的に大家族主義だ」と書いていて、
「夫婦と子供2人くらいが住むはずの1区画に、
20-30人くらいが住みだした」などと言っているのです。
これを検証した記事があるので、見ていきたいと思います。
「曽野綾子氏の言い分について」
(はてなブックマーク)
「南ア永住の日本人より曽野綾子さんへ」
(はてなブックマーク)
>危機と貧困が作る大家族
わたしがもっとも重要だと思ったポイントは、
「大家族」というのは危機や貧困が作る、という指摘です。
貧しかったり社会的な危機下にあれば、民族・人種や
国・社会・文化とは関係なく、大家族が多くなるということです。
暮らしが貧しかったり社会的な危機に見舞われると、
少人数では経済的にも心理的にも孤立しやすく、
負担を減らすためにできるだけ身を寄せ合って生きようとするからです。
日本も1950年代くらいまでは、1世帯の構成人数は5人程度でした。
これは高度経済成長前で、国民全体が貧しかったこともあるわけです。
近年でも阪神大震災や、東日本大震災で被災したかたが、
身を寄せ合って暮らしたということがあります。
まさに危機下にあるがゆえに、身を寄せ合った例だと言えます。
http://tinyurl.com/ly99mcc
阪神大震災をぼくは直接経験していないが、
被災の経験を持つ人たちに話を聞くと、
「家を失って親戚の家に身を寄せた」という話はよく聞く。
いや、2011年の東日本大震災の何百人もが大挙し、
ダンボールだけで仕切られた避難所のことだって記憶に新しい
最近は「シェアハウス」が貧困層の住居として注目されてきています。
家族ではありませんが、これも暮らしが貧しいゆえに
できるだけ身を寄せ合って生活することで、
経済的負担や心理的孤立を減らす効果があると言えるでしょう。
人種隔離政策があったことの南アフリカ共和国はといえば、
黒人は法的に差別され、職業も居住地も制限されていて、
まさに慢性的に貧困と危機のもとにあったのでした。
となれば、おたがいに身を寄せ合って暮らそうとして
大家族になることは必然と言えます。
白人専用だった高級マンションに入居できるような
黒人がいたとしたら裕福層で社会的エリートになるでしょう。
そうした彼らは身を寄せ合う必要がないので
先進国のエリートと同様核家族であり、「大家族」ではないわけです。
http://yoshimura-mineko.sorairoan.com/?eid=43
都会のマンションを選ぶような黒人は、
かなり現代的で高等教育も終えているエリートでしょう。
そういう黒人は日本や米国のようなエリートたちと同じで、
ほとんどが都会では核家族で住んでいるのです。
そして故郷には親兄弟のために立派な家を建てているはずです
>ほかの曽野綾子氏の事実誤認
1. 国民の大部分が黒人であるシエラレオネでは、
1家族の平均人数は5.9人。
「曽野綾子氏の言い分について」
6人近いのですから、日本とくらべたら大家族と言えますが、
10人とか20人もいないことはたしかです。
曽野綾子氏のいわゆる黒人社会は、どこのことなのかと思います。
2. 人種隔離政策が終わったことの南アフリカ共和国では、
白人専用のマンションに入居できるような
裕福な黒人はほとんどいなかった。
「南ア永住の日本人より曽野綾子さんへ」
これも重要なポイントだと思います。
人種隔離政策によって貧困を余儀なくされていたのですから、
考えてみれば当然のことだと言えます。
3. 裕福な黒人がいたとしたら、彼らはマンションではなく
一軒家の邸宅を選ぶ。
4. 都市部にたくさんマンションが必要になったのが最近。
2013年現在、南アフリカ共和国の人口密度は
1平方キロメートルあたり43.46人、日本は336.96人です。
20年前の南アフリカ共和国の人口密度も、
日本よりずっと低かったでしょうから、
集合住宅なんて都市部でも必要がなかったのでした。
「世界の人口密度ランキング」
5. 南アフリカ共和国の「高級マンション」は、
ひとつの階がひとつの物件という広いものであること。
人口密度が低いゆえに、全体的に家が広いのでしょう。
高級マンションであれば、10人以上の家族がいても
余裕で入居できるくらいあるということです。
>現在の南アフリカ共和国
2015年現在、南アフリカ共和国では国内外から来た
白人、黒人、アジア人などがひとつの家で共同生活する光景があります。
曽野綾子氏が推奨する人種隔離自体が、南アフリカ共和国では
すでに存在しない過去のものとなっているわけです。
http://yoshimura-mineko.sorairoan.com/?eid=43
彼女の住む共同住宅用としての一軒家は、
一人一部屋は日本でいう8畳くらい、そのほかに7名の
他の同居人と共有で使うラウンジ、キッチンがついています。
その一軒家には、南アの黒人女性1名、白人女性1名、
カラードの男性1名、ジンバブウェからの白人女性1名、
ザンビアからの黒人女性1名、スリランカからの男性1名、
韓国からの女性1名、そして日本人の私の娘が、
何の不都合もなく、共同生活をしています。
全員がケープタウン大学の学生やその関係者です。
これが現在のケープタウンのあるひとつの生活の風景です。
日本で移民を受け入れようとしている人たちは、
こうした現在の状況にならう必要があるというものです。
じつはこの件について、ちょっと思い出したことがあって。
自分の祖母なのですが、彼女が幼い頃、大陸から農奴として連れてこられた朝鮮人が、畑から大根を盗んで食べていたのをよく見かけたそうで、それ以来、ずっと彼女は朝鮮人は生の大根が好きなんだなと思い込んでいたそうです。
実際に彼らが大根を好きかどうかは知りませんが、少なくともそのときに彼らが大根を盗んで食べていたのは、大根が好きだったからではないでしょう。
曽野綾子さんもうちの祖母と同じレベルの見識の方なようですね。
>少なくともそのときに彼らが大根を盗んで食べていたのは、
>大根が好きだったからではないでしょう
すぐに食べられるものが畑の大根だった、というだけですね。
農奴として連れてこられた朝鮮人の境遇が
理解できなかった、ということなのでしょう。
「幼い頃」だというなら、無理もないことかもしれないですが。
問題は高齢になってもわからないらしい曽野綾子氏ですね。
こういうレベルの人は、日本にどれくらいいるのかと思います。
曽野綾子氏がなぜに「黒人は大家族主義」なんて認識を持ったのか、
エントリでリンクした記事のかたが推測していますね。
http://yoshimura-mineko.sorairoan.com/?eid=43
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あなたがその20年〜30年前に南アを訪問されたとき、
きっとあなたたちを案内した現地の人間(白人を想定しています)がいたでしょう。
そして、きっと、こんなことをささやいたのではないでしょうか。
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現地の人でさえ思い込みと偏見で言っていた可能性が高いわけで、
それをちょっと見聞しただけの外国人が
さらに思い込みを増幅させた、というところなのでしょう。