2015年03月07日

toujyouka016.jpg ピケティ・21世紀の資本(2)

2月28日エントリで、ご紹介したピケティの格差研究書
『21世紀の資本』について、すこしくわしく見ていくことにします。

「ピケティ「21世紀の資本論」1pごとの要約〜はじめに」
「『21世紀の資本』がバカ売れするワケ」
「21世紀の資本 講演スライド - cruel.org」
「ピケティ『21世紀の資本』訳者解説 v.1.1」
(はてなブックマーク)
「ピケティ『21世紀の資本』を読む(1) [本]」

ピケティの理論の中心は、資本収益率(r)と経済成長率(g)のあいだに、
r > g という関係があると格差が増大するというものです。

 
企業が生産活動を行なって、拡大再生産すると利潤が生まれます。
この利潤のうち、つぎの投資に回されるお金が資本収益率(r)です。
労働者の賃金として支払われるぶんが、経済成長率(g)です。

以下のページでは、rは株主に配当としてわたされるとありますが、
通常はすぐに配当を出さず、もっと増えることを期待して、
つぎの投資に回すお金とするので(内部留保)、
rは資本に回るお金と見なせることになります。

経済成長をすると労働者全般の所得が上がります。
よってgは「所得成長率」と連動すると考えることができるので、
労働者の賃金に回るお金と見なせることになります。
資本収益率rは企業の取りぶん、経済成長率gは労働者の取りぶんを
表わしていると、簡単には考えていいだろうと思います。

http://hbol.jp/16466
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「世の中でモノをつくるには、資本(お金、工場、
会社の建物……など)と労働が必要となる。
そして、みなさんが働くことで生み出されるのが、経済成長です。
インプットしたモノより少し多めにモノをつくることで、
経済は発展していく。例えば、会社なら利潤が生まれる。
利潤の一部は、資本のためにお金を出した株主に渡され、
もう一部が労働者の賃金となる。

このとき、資本に回る分と労働者の賃金となる分が同じくらいなら、
経済成長率、資本収益率、そして労働分配率
(労働者の賃金に回る分)は同じくらいになるはず。
つまり、『r=g』です。ところが、ピケティが明らかにしたのは、
歴史を遡ると、労働者の賃金よりも資本に回るお金のほうが
ずっと多いという事実。つまり、『r>g』だったのです」
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自然状態ではr > gとなるので、格差は拡大するということが、
ピケティによる膨大な調査の結果わかったことです。
現状では資本収益率rは4%くらい、経済成長率gは1.5%くらいです。
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ピケティは、資本収益率(r)は平均4%程度に落ち着き、
先進国の経済成長率(g)は1.5%ほどになることを実証している。
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一般に企業は、労働者に賃金を払うお金はできるだけ減らして、
つぎの投資にお金を回したいと考えるでしょうから、
自然状態でr>gというのは、ごもっともと言えると思います。


r > gになるとなぜ格差が増大するかは、
資本(r)をたくさん持っている人ほど、たくさん投資できるので
より多くの利潤を得やすいという、資本主義の大原則によります。

つまり「お金はあるところにますます集まる」です。
かくして富や資本は、社会全体にバランスよく分散されず、
持てるものに偏在していくので、格差が広がっていくことになります。

http://cruel.org/books/capital21c/APPikettylecture.pdf
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rの中で、どのくらい貯蓄(=再投資)するかで、資本の増え方は変わる。
資本が多ければ収益も多く、再投資もしやすく、資本も増えやすい
(これでもまだ格差が広がるという話にはなってない。
経済の中で資本の占める割合が増える、というだけ。
その資本をだれが持っているかを見ないと、格差にはたどりつかない)

さらに、資本が増えること自体は別に悪くない。むしろありがたいこと。
(みんなが掃除機や冷蔵庫やコンピュータや車や家を
持つようになれば、生活はそれだけ豊かになる!)

問題は、増えた資本がバランスよく社会に分散せず、
資本を持っていた人だけがもっと資本を増やす構造になっていること。
特に、所得や資産保有のトップ1%やトップ0.1%に
極端な富と所得の集中が起きている

また自分の稼ぎから貯蓄/投資するなら大した格差にならない。
でも相続財産が大きくなると、出発点からちがってきて、格差が拡大
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このあたりの事情をしめしたのがつぎの図です。
ドイツ、フランス、イギリスにおける資本/所得比率の年次推移です。
このグラフの傾きがマイナスだとr < g 、プラスだとr > gです。

1910年あたりから、世界大戦で資本や富が失われたり
政策介入によって再分配されたりで、この比率が下がっています。
ところが20世紀の後半からふたたび傾きがプラスとなり、
格差が広がり出していることがわかります。

shihon-shotoku-hiritsu.png


つぎの図は、金持ち国の民間資本の占有状況です。
資本が国民所得の何パーセントになるかをしめしています。
つまり資本がどれだけ企業に集まっているかであり、
労働者の富や所得は相対的にどれだけすくなくなっているかです。
どの国でも占有率は上昇傾向にあり、資本がどんどん企業に
集まっていることがわかります。

shihon-senyuuritsu.png


世界の億万長者の資産と人数の比率の年次推移は、わかりやすいですね。
どちらもだんだんと増えていって、資産が一部の大富豪に集中して
格差が広がっていることをしめしていることになります。

okumanchouja-hiritsu.png


つぎの図はヨーロッパとアメリカ合衆国における富の格差です。
それぞれ上位10%と1%の財産の占有率をしめしています。
1910年以降、グラフの傾きがマイナスとなり、
少数の富豪への財産の集中が緩和されますが、
1970年ごろからふたたび、傾きがプラスとなって
富の集中が始まっていることがわかります。

tomi-kakusa.png


つぎの図はヨーロッパとアメリカ合衆国における所得格差です。
上位10%の所得占有率をしめしています。
これも戦間期に所得のかたよりが緩和されますが、
20世紀の終わりになって、ふたたび一部の高所得者ばかりが、
たくさんの所得を得るようになり始めています。

shotoku-kakusa.png

posted by たんぽぽ at 19:06 | Comment(2) | TrackBack(0) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
簡潔に平易な言葉でまとめてあって、とてもわかりやすいです。
Posted by うがんざき at 2015年03月12日 08:02
うがんざきさま、ご評価くださりありがとうございます。

ない知恵をしぼって一生懸命書いた甲斐がありました。
Posted by たんぽぽ at 2015年03月13日 22:08
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