ほかの欧米諸国とくらべて、ジェンダー平等の分野で
遅れを取りつつあるという記事があります。
これはちょっと意外かもしれないです。
「働く女性の割合が1位のフランス 理由は「手厚い子育て政策」」
(はてなブックマーク)
「2015年大統領経済報告」というホワイトハウスが
2月に連邦議会に提出した資料に、つぎのグラフが出ています。
1991年から2013年までも、女性の就労率の推移の国際比較です。
「就労適齢期女性の就労率推移。1991年から2013年まで」
2000年まではアメリカ合衆国の女性の就労率は伸び続け、
ほかの欧米諸国とくらべて大差はなかったのでした。
ところが21世紀に入ってから下降傾向をしめすようになっています。
2013年のアメリカ合衆国の女性の就労率は70数パーセント程度で、
ほかの欧米諸国との差が目立ってきています。
そして日本の女性の就労率が追いついているのですよ。
ジェンダーに関することで日本と同程度になったら、
かなり悲観する必要があるだろうと、わたしは思います。
現在のアメリカ合衆国の女性の就労率は、
主要国の中では下から数えたほうが早くなっているのでした。
仕事を持つアメリカ人女性の割合は1990年以降ゆるやかに下降しており、
現在の順位はOECDに加盟する民主主義国22カ国の中で17位だ。
アメリカ合衆国の女性の就労率が下がり出したのは、
政府による女性の労働環境の改善の取り組みがふじゅうぶん
ということが、原因の約3分の1を占めると考えられています。
ほかの欧米諸国や日本は女性の労働環境の改善を続けたので、
女性の就労率が上昇を続けているのだと思います。
コーネル大学の研究者たちによると、仕事を持つ女性の割合の
アメリカと他国との差は、約3分の1は、政府の働く女性を支える支援策が
不十分であることに起因しており、残りは高齢化によって
労働市場から女性の数が減ったことと、不況に原因があるという。
ハフィントン・ポストの記事では、アメリカ合衆国の育児環境が
あまり整備されていないことに触れています。
アメリカ人には12週間の産前産後休暇を「無給で」とる権利しかない。
政治雑誌ニュー・リパブリックへの寄稿「地獄のようなアメリカの託児所」の中で、
アメリカの託児所で優良施設だといえるの(は)
わずか10%であることを示すデータを紹介している。
おまけにアメリカの託児料金はとても高い。
前に長谷川豊氏という元アナウンサーが、「アメリカ合衆国は
育児環境が劣悪でも出生率が下がらない」などと言っていたのでした。
ところが育児環境がふじゅうぶんなことは、
やはり女性の労働力率の伸び悩みを起こしているということです。
「アメリカの保育事情」
現在女性の労働力率がいちばん高いのはフランスです。
2003年あたりからトップとなり、2013年現在84%程度です。
ここにはフランスの家族政策が充実していることがあります。
子どもを持つ親が仕事を続けやすい環境が整備されているということです。
フランスの家族政策は子育てをするすべての母親と父親が羨むほど手厚い。
産前産後の休暇は有給であり、保育所に預けるときには手当が出る。
加えて親は1年間の育児休暇を取得でき、
政府からは育児手当が入るほか復職も保証されている。
フランスの家族政策については、前にお話したことがあります。
フランスはもともと家族を重視する社会風土があるので、
1990年代以降の少子化の時代に、適切な対処ができたということです。
いまや日本にとっても、家族政策について学ぶところの多い国ですね。
「フランスの家族政策」
「フランスの家族政策(2)」
日本は1991年から2013年にいたるまで、欧米諸国とくらべると、
ずっと女性の就労率が低い状態が続いています。
それでも欧米諸国と同程度の上昇は続けていて、
前述のように2013年にはアメリカ合衆国に追いついたのでした。
ほかの「良妻賢母嗜好の国」と言われたドイツは、
女性の就労率に関しては、ほかの欧米諸国とくらべて大差ないです。
「マンマの国」のイタリアは、上昇は続けていますが、
日本よりもさらに低い数値のところを走っていて予想通りです。
アメリカ合衆国はウーマンリブの国であり、1970-1980年代は
女性の権利に関しては先進国だったのでした。
21世紀に入ってそれが陰ってきて、ほかの欧米諸国とくらべて
遅れが眼につくようになってきたようです。
フランスは女性参政権が認められたのは、
ヨーロッパの中では遅かったですし、第二次世界大戦くらいまでは
先進国の中では女性の権利が遅れている、という印象がありました。
1990年代に少子化が先進国共通の課題になってからは、
フランスは着実に対応を続け、現在はジェンダー問題の先進国だと、
アメリカ人からも言われるようになったということです。
それでも、フランスに移住するのに備えて
フランス語を学んでおくのはいい考えかもしれない。
こうした権利に関することは、現在先進国とされている国であれば
10年から数10年単位の時間で、容易に追いつけるということだと思います。
大事なのは社会を改善する努力を続けるということですね。
社会の改善に力を入れればわりとすぐに先進国になれるし、
開き直りをして改善を怠ればどんどん遅れていくのでしょう。
付記:
2010年のEU各国の出生率。
フランスは2.01で第2位。
EU平均は1.6。
フランスにしても分からない面があるのは、
オランド大統領の元パートナー、バレリーさんはパリマッチ誌の記者、編集者でしたが「私は紛争地の取材をやりたかった。でも子供がいたからそれはできなかった」との見解に対して、バレリーさんの後輩女性はその認識に否定的で「そんなことは関係ない。私は出産後すぐ子供を義父に預けて何でもやった。そうしなければ自分は契約記者だったから切られてしまう」とか、時短で働き早い時間に帰宅する人は、仕事を続ける同僚などの目を気にしながら帰る、などフランスでも女性の仕事の姿勢で割れた意見もあるし、時短で働くという選択だと気まずさもある。
という記事が以前、朝日新聞に載っていました。
日本で一方的に持ち上げられるほど実際にはフランスでもごく自然な意識で産休や時短勤務などが行われているわけでもなさそうですね。
それはバレリーさんの個人的事情によるものかもしれないです。
かかる個人的事情については、わたしはあまり興味ないです。
もちろんフランス社会が完全というわけではない、
ということによる可能性もあるでしょう。
家族やジェンダーに関して因習・反動的な人や無理解な人は、
フランスにもいるだろうとは思います。
>日本で一方的に持ち上げられるほど
一方的に持ち上げてはいないと思いますよ。
わたしが見たところ、外国の進んだ事情を紹介されることを
こころよく思わない人が「一方的に持ち上げている」と思っている、
ということはよくあると思いますが。
フランスの政策の優れているところも分かります。
それでフランスが家族を重視することについて、
これは家族、カップルなど、たんぽぽさんが嫌いな家族の価値、夫婦。カップルの在り方が日本より重いですよね。
夫婦同伴、カップル(事実婚など)同伴というフランスの社会背景。
パートナー側の仕事関係のパーティーや夕食会などに夫婦、事実婚カップルで同伴の基本など。
独身者はそういう場に呼ばれなかったり暗黙の了解で出席しなかったり。
家族というか夫婦、パートナーがプライベートでなく社会的認知が必要のような。
日本はそういう歴史も認識もないからホステスのいるクラブなんてものに男同士で接待したり、奥さん同士で食事会などをやっていますが、そういう夫婦やパートナーが仕事関係も含めて社会性を強く持っていることが、日本人からすると鬱陶しくないかとか、独身者が差別、軽視されるような空気はどうなんだろうかと思います。
結婚でも事実婚でも差別がないというのは社会的同伴の義務を果たしている場合ということですよね。そういう価値観に日本人が馴染むのか疑問です。
日本のある種の人に見られる「家族のカチ」と、
フランス人の考える家族の重視は、異質だろうと思いますよ。
日本の「家族のカチ」は、何度もお話しているけれど、
「正しい家族」思想があって、それをすべての人がまっとうするべき、
という「信仰」のようになっています。
だから日本の家族制度は、家族が多様化しても、
それに応じた柔軟性を発揮できないのだと思います。
フランスの家族重視は、おそらく個人の生活基盤としての家族
という考えがあって、家族のかたちが多様化したら、
行政もそれに応じて対応していくものだ、
という考えではないかと思います。
だからフランスの家族制度は、家族の多様化に合わせて
柔軟に変化をしているのだと思います。
>夫婦同伴、カップル(事実婚など)同伴というフランスの社会背景
こちらは、わたしはあまりくわしくないけれど、
フランス(というか欧米諸国)では、配偶者を同伴させるのも、
家族を大事にするという考えかたによるものだと思います。
日本の(旧式な?)男性にありがちな、
「家のことは妻に任せて、自分は遅くまで仕事して飲み歩いて...」
という暮らしぶりと、対極にあるものだと思いますよ。