資本収益率(r)と経済成長率(g)の関係は、
自然状態では r > g となるので、格差が拡大するというものです。
「ピケティ「21世紀の資本論」1pごとの要約〜はじめに」
「『21世紀の資本』がバカ売れするワケ」
「21世紀の資本 講演スライド - cruel.org」
「ピケティ『21世紀の資本』訳者解説 v.1.1」
(はてなブックマーク)
「ピケティ『21世紀の資本』を読む(1) [本]」
従来の経済学では、資本がすこし増えれば格差が大きくなるが、
さらに資本が増えるとひとりでに格差が小さくなる、
すなわち r < g になると考えられたのでした。
横軸に経済力、縦軸に格差を取ると、
Uを逆さにしたかたちになるという「クズネッツ曲線」です。
なぜこんな認識が定着していたのかというと、
20世紀前半が実際に r < g だったからです。
現在の経済学が発展したのもこの時代でした。
それで20世紀のデータだけ調べて、経済が発展すれば
ひとりでに r < g になって格差は小さくなると、結論したのでした。
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「重要なのは、経済学の常識では『r>g』の状態は
続くわけがないとされてきたこと。
『r≦g』が見られた20世紀後半は、経済学が発展した時期と重なる。
自分たちの周囲だけを見て、理屈をつけていたが、
ピケティが300年遡ってみたら、過去にそんなことはなかったし、
今もそうでないことがわかった。
働いても大して稼げないわけだから、当然、不満を持つ人が増えていく……
民主主義社会の前提となる価値観が、大きく揺らいでいるのです」
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つぎの図を見ると、古代よりずっと r > gであり、
今後も r > g になることが予想されるのであり、
20世紀に r < g だったのは特例的だったことがわかります。

「経済が発展して資本家がどんどんもうけて富が増えれば、
末端の労働者にもひとりでに富が流れてゆたかになるよ」なんて、
既存の経済学の常識にかかわらないできたかたにとっては、
なんとも牧歌的な認識に見えるのではないかと思います。
20世紀の感覚だと、格差社会というのは貴族や資本家が
野放しにされた、19世紀の遺物だったでしょう。
「社会が発展すれば格差問題も解決する」という感覚と、
うまくすり合ったこともあるのかもしれないです。
20世紀に r < g で格差縮小という、特例的な事態になったのは、
1. 二度の世界大戦
2. 積極的な政策介入
が大きいと言えます。
1. については言うまでもないかと思います。
戦争によって資本や蓄積された富が失われたので、格差が縮まったということです。
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格差は自然に縮まったのではなかった。r>gを緩和逆転させる方策が意図的に講じられた。
-高い経済成長
-インフレによる資産価値激減
-戦争と接収による資本の激減
-きつい累進所得税導入
つまり政策介入があったので資本収益率が下がり、格差は低減した。
そして近年の資本集中と格差復活は、こうした介入が80年代に弱まった結果。
19世紀の状態に戻りかねない。
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2.については、たとえばヨーロッパの多くの国ぐにで、
第一次世界大戦に前後して、旧来の特権的な貴族や資本家に対して、
高額の課税をするよう税制が改められたことがあります。
日本では第二次世界大戦後の農地改革と財閥解体がこれに相当します。
これによって、かのロスチャイルド家も、大邸宅の相続税や
維持費が払えなくなり、取り壊したり競売にかけたり
ワッデスドン館のようにナショナル・トラストに寄付して
文化財扱いにしてどうにか維持したり、ということになったりしています。
こうしてみると、20世紀というのは格差解消のために
かなり熱心だった時代だったのであり、積極的な政策介入も
どしどし行なっていた時代だったと言えると思います。