40年前(!)からはずし続けていることが、記事になっています。
はじめはワシントンポストの記事です。
英語ですが、わたしがつたない訳をしてみました。
「Japan’s birth rate problem is way worse than anyone imagined」
「日本の出生率問題が、想像以上にひどかった件」(わたしの訳)
ワシントンポストの記事とはおそらくまったく別個に、
ツイッターでも話題になり、こちらも記事になっています。
「日本政府の無能さが分かる1枚の画像」
(はてなブックマーク)
日本政府の出生率予想は、出生率の低下を一時的な落ち込みと考え、
そのうち回復するという楽観視を続けてきたのでした。
実際にはご存知のように、出生率の低下は長期的な傾向であり、
2005年まではほぼ単調に下がり続けています。
2002年でさえ、規模は小さいとはいえ、落ち込んだ出生率は
いずれある程度は回復するという、楽観的予想をしています。
2006年になってようやく、予想年より出生率が上昇しない
という予想をして、実際の値のほうが大きくなります。
あまりにお粗末なので、ワシントンポストの記事は
"almost comically(ほとんど失笑するくらい)"と書いています。
ネットジークの記事は「無能と呼ばずしてなんと呼ぼうか」
なんて、もっと酷評をしています。
現実から眼をそらしているとしか言いようのない楽観的な予測を、
日本政府が40年前から延々と繰り返してきたのはなぜなのかは、
調査と考察を必要とするところだと思います。
1度や2度のはずれならいざしらず、毎回出生率予測が
楽観的すぎたとあからさまにわかる結果になのに、
日本政府はそれをなんら顧みることなく、
おなじように楽観的な出生率予測をして外す、
ということを繰り返してきたことになるからです。
じつは日本政府も楽観的すぎることはわかっていながら、
より正確な予測が出されても握りつぶしていたという指摘があります。
日本政府はより正確な予測を「なかった」ことにしてでも、
出生率は回復するとあえて思いたかったことになります。
政府が出生率予測を何度も外した事をして無能とする記事。これな、日本政府も分かってた。民間で正確な予測出すと、国に呼び出され撤回するよう言われた。何故そうなったかを考えると闇やで →日本政府の無能さが分かる1枚の画像 | netgeek http://t.co/HgDKsgUGQs
— dragoner (@dragoner_JP) 2015, 4月 1
ひとつ考えられているのは、守るべき社会保障制度やら
労働力確保やらがさきにあって、それを維持するために
必要な人口を算出して、そこから出生率を逆算したのだろうということです。
「これだけの施策を行なったら、これだけ出生率が上昇する」
という計算のしかたではない、ということです。
@dragoner_JP まず「守るべき」年金制度やらがあって、それを維持するためにどれぐらい人口が必要か逆算して、それから出生率を計算する…って、こう言うのは「地下鉄開業後の利用者予測」とかでもよくあるよぬ
— 林司 @C88金曜日ポ-11a (@Archangel_HT) 2015, 4月 1
現実には効果的な出生率回復政策は、ろくに行なわなかったのだから、
予測(というより願望)通りの出生率上昇などするはずないということです。
まさにポケットに手を突っ込んだまま畑を眺めて
「おいしい実がなるといいなあ」と思っているだけですよ。
ほかに考えられるのは、効果的な出生率回復政策が、
既得権益を削ることになったり、ジェンダー問題や外国人問題といった、
日本社会が差別してきたことにかかわるので
向き合いたくないといったことがありそうです。
日本の大手メディアは、外国メディアやネットのメディアで
取り上げられた、日本政府による出生率予測が
はずれまくったことについて話題にする気配は、
いまのところないようです。
現時点では、少子化対策の過去の無策や愚策について、
後悔や反省をする論調はぜんぜん見られないです。
それで日本政府による楽観的すぎた出生率予測のことも、
触れる気にならない、ということなのかもしれないです。
過去の愚策や無策についてなにも言わないのは、
「後悔先立たず」ということはあるのだろうとは思います。
それでもあまりになにも言わなさすぎると、
必要は反省もなされないのではないかとも、わたしは思います。
40年前というとむしろ日本は人口抑制の方向だったんじゃないですかね。
日本に限らず世界的にオイルショックで石油は足りなくなる、もう世界的にいろいろな意味で成長は目指すなという背景にあったと思います。
それで、今の時点でも2050年の予測のようなものも目にしますが、いろいろなこと、日本も他国の動きも分かったものではないと思います。
それで前にも書かせて頂いたと思いますが、経済発展と出生率は関係ない。むしろ逆であることが証明済みです。
それと学歴の上昇も出生率と逆行しますね。
そこで言えるのは日本は全体に学歴が高く基礎学力もトップレベルであり、経済も豊かで最低限として求める生活レベルが高いので出生率の上昇に期待できない。保育所を増やしても保育所の利用が増えるだけで出生率アップになりません。
結婚したり子供ができると生活レベルが落ちると思う人が多いのは、いかにその人の今の生活が恵まれているかという証しでもあります。
好きになった相手や子供のためなら自分が苦労してもいいという気持ちが男女ともに希薄になっていることは生物学的に退行なのか進化なのかは微妙ですが。
ただ昔は自分が独身で子供をつくらなくても他の多くの人がそうしてくれるとの他力に期待できましたが、今は他力に期待する側が多数派になっていることもあるでしょうね。
いや〜ひどすぎて笑っちゃいますね。
事業でもなんでもそうですが、こうあってほしい、という楽観的な数字でフォーキャスト作ってしまうと、傾いてしまいます。
ていうか、こんな下手な数字作るなんて、ありえないです・・。ましてや国家です。すべての制度設計に影響します。年金も破たんするわけだ〜こりゃあ。
以下の資料表18を見ていただければ、国連のバカさ加減も一目でお分かりかと思います。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/sH2401r.html
欧州各国については欧州連合統計局(EUROSTAT)推計が、日本については社人研がより実態に即したものでしょう。
出生率予測について、日本政府は今世紀に入ってからさほど大きく外してはおらず、少なくとも国連よりは賢くなったと思います。
先進国の出生率は、碌に対策もなく下がったままになってしまっている国(日本、イタリア、ギリシャなど)、対策によって回復させた国(フランス、スウェーデン、ノルウェーなど)、対策したのに回復が芳しくない国(ドイツ)、碌に対策もないがさして下がらず回復した国(アメリカ)とに分かれていますから、将来の政治動向や他の社会的要素(相対的に高齢者向け福祉が充実していると出生率が下がるフリーライダー説や移民効果)を踏まえて予測するほどの知恵はなかったということでしょう。
以下資料の図表13にある通り、ドイツはそれなりに少子化対策していて、アメリカは放置状態です。
http://www.nira.or.jp/past/newsj/kanren/130/134/honbunz.pdf
家族・子供向け支出の対GDP比と出生率との相関は.279と低く、家族・子供向け支出と高齢者向け支出のウェイト費と出生率との相関は.613と高めの値になります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1580.html
http://lacrima09.web.fc2.com/teardrops/hall/welfare-balance.html
別館でたんぽぽさんも取り上げておられますが、アメリカは高齢者向け福祉も低く、移民出生率が高いために出生率は高止まりしやすく、ドイツは高齢者向け福祉も充実していることから出生率を上がりにくくなっています。
アメリカの民族系統別出生率
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8650.html
出生率予測がことごとく外れてしまった原因の半分くらいは政治動向によるものと言えましょう。
前世紀は天井知らずな世界的人口爆発、資源の枯渇によって人類の文明が破局を迎えることが非常に危惧されていた時代であり、むしろ人口抑制策の方が至極当然とされた時代です。
1974年のオイルショックにより一段と危機感が高まり、岸信介元首相を会長とする国際人口問題議員懇談会が設立され、人口抑制を推進する政策を決定し、そこから政策転換したと言えるのが1991年の育児休業法設定です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100215/212778/
それ以降はご存じのとおり遅々とした対策となっています。
1980年代までの予測は、何もしないと出生率が人口置換水準にまで回復してしまうという「悲観的予測」でしたし、主に後開発途上国で出生率がなかなか下がらないことは現在においても重大な懸念事項です。
>40年前というとむしろ日本は人口抑制の方向だったんじゃないですかね
ご指摘の件は1974年の日本人口会議のことかな?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100215/212778/
http://www.huffingtonpost.jp/etsuko-topisyu/child-rearing_b_5067283.html
当時、人口増加で資源が不足する危機については、しきりに言われたし、
そのせいか1974年あたりから、出生率は下がり始めていますね。
それでもこの会議のあと、どんな具体的な人口政策がなされたかは、
はっきりしないのですよね。
会議では「子供は二人まで」という大会宣言を採択していますし、
出生率が人口置換水準をどんどん下回ることまでは、
予想していなかったのではないかと思います。
会議から2年後の1976年でも、すぐに出生率は上昇して
人口置換水準まで回復すると、予想していますし。
>経済発展と出生率は関係ない。むしろ逆であることが証明済みです。
>それと学歴の上昇も出生率と逆行しますね
こういう主張を見ると、1980年代あたりの人口転換理論で
認識が止まっているのかなと、わたしは思います。
これは「自然状態で出生率は人口置換水準に落ち着く」という
根拠のない思い込みが仮定されています。
もちろん1990年代以降の少子化の時代は、まったく念頭にないです。
>結婚したり子供ができると生活レベルが落ちると思う人が多いのは、
子どもを持つことが、それだけ負担になる社会だからです。
社会全体で子育てをサポートすることが、解決になるでしょう。
>保育所を増やしても保育所の利用が増えるだけで出生率アップになりません
保育環境の充実は出生率の上昇に結びつきますよ。
すこし広げていますが、高齢者向け公的支出の割合に対して、
家族・子ども向け公的支出の割合が高いと、出生率が高い傾向があります。
http://lacrima09.web.fc2.com/teardrops/hall/welfare-balance.html
>好きになった相手や子供のためなら自分が苦労してもいいという気持ちが
むかしはそういう人が多かったのかどうかを、わたしは知らないです。
むかしもいまとおなじくらい少なかったのではないかと思いますが。
かりにそういう人がむかしより減ったのだとしたら、
未来に希望が持てなくなったとか、自分の生活だけで
精一杯になったといった、社会事情によると思います。
生物学的なことは、なにも関係ないでしょう。
>今は他力に期待する側が多数派になっていることもあるでしょうね
他力本願な人も少ないと思いますよ。
子ども手当てに反対する人たちが多い国です。
「自分が子どもを持たなくても、よその子どもたちのために...」
なんて考える人が多いとは思えないです。
このエントリにコメントありがとうございます。
>いや〜ひどすぎて笑っちゃいますね
こんなお粗末なことになっているとは、わたしも思わなかったですよ。
これはあっけに取られます。
おなじまちがいを何度も繰り返したことが、なにより大きいと思います。
それからツイートで指摘されている、ほかにもっと正確な予測があったのに、
日本政府は握りつぶしたのが事実なら、それはもっと問題です。
将来の出生率減少から意図的に眼をそらしていたことですから。
>事業でもなんでもそうですが、こうあってほしい、
>という楽観的な数字でフォーキャスト作ってしまうと、傾いてしまいます
たぶん守るべき年金制度や社会保障がさきにあって、
そこから必要な人口を逆算しているのだろうと思います。
これだけの政策をしたら、これだけ出生率が回復するという
計算のしかたでないなら、はずれるのも無理もないと思います。
日本政府が人口予測に対して楽観視を繰り返したのは、
人口転換理論も影響しているものと思います。
「自然状態で出生率は人口置換水準に落ち着く」という
根拠のない思い込みが仮定されているのですよね。
もちろん1990年代以降の少子化は、まったく念頭にないです。
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h14/H14/html/E1C01000.html
>以下の資料表18を見ていただければ、
>国連のバカさ加減も一目でお分かりかと思います。
>http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/sH2401r.html
拝見しました。(なるほどねえ...)
「自然状態で出生率は人口置換状態に近づく」というのは、
たぶん「種の保存のためには、親とおなじ数だけ子どもが
育つのが自然だ」という思い込みではないかと思います。
>出生率予測について、日本政府は今世紀に入ってからさほど大きく外してはおらず、
2006年から上昇傾向になったのが大きいと思います。
そのおかげで、楽観的予測から抜け切ってないであろう
2002年の予測でさえ、まんざらでもなくなっていますね。
>以下資料の図表13にある通り、ドイツはそれなりに少子化対策していて、
>アメリカは放置状態です。
>http://www.nira.or.jp/past/newsj/kanren/130/134/honbunz.pdf
ご紹介ありがとうございます。
日本はBランクなのですね。
アメリカ合衆国やイタリアよりは、対策がなされているのね。
ドイツと北ヨーロッパ諸国が、例によって対策が充実しているわけですが。
>http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1580.html
>http://lacrima09.web.fc2.com/teardrops/hall/welfare-balance.html
わたしのつたないコンテンツを参照してくださり、ありがとうございます。
この「家族・子ども向け公的支出」と「高齢者向け公的支出」の
相関を調べるというのは、かなり有効な理論のようですね。
少子化対策がそこそこ充実しているドイツで
出生率が伸び悩んでいることも理解できますし、
少子化問題の例外とされてきたアメリカ合衆国も、
かならずしも例外ではなくなって、ある程度説明できるようになってます。
>アメリカの民族系統別出生率
>http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8650.html
補助ブログのほうもご覧くださりありがとうございます。
アメリカ合衆国で例外的に出生率が高いのは、
ヒスパニックの影響が大きいですね。
近年になってヒスパニックの出生率が下がり始めているので、
近い将来事情は変わってくるかもしれないですが。
>出生率予測がことごとく外れてしまった原因の半分くらいは
>政治動向によるものと言えましょう
人口転換理論が幅を利かせていたことが大きいと、わたしは思います。
経済発展にともない、多産多死から多産少死を経て、
少産少死にいたるという、1980年代の人口問題の本に
書いてあったであろう理論です。
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h14/H14/html/E1C01000.html
当時の人口学のスタンダードな知識だったし、権威があったのでしょう。
(「反フェミ」な人で、少子化対策に反対したい人は、
いまだにこの理論レベルの認識を振り回してきますし。
それもたいていは自信たっぷりに。)
これは1990年代以降の少子化がまったく念頭にないですね。
前述の「自然状態で出生率は人口置換水準に落ち着く」という
根拠のない思い込みも、仮定されているのですよね。
>1974年のオイルショックにより一段と危機感が高まり、
>岸信介元首相を会長とする国際人口問題議員懇談会が設立され、
>人口抑制を推進する政策を決定し、そこから政策転換したと言えるのが
>1991年の育児休業法設定です。
>http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100215/212778/
これは寡聞にして初耳でした。
こんなものがあったのですね。
いつもいろいろと貴重な情報をご紹介くださり、ありがとうございます。
(記事の最初しか読めないのが残念です。)
こちらの記事にも、人口問題会議について解説がありますね。
http://www.huffingtonpost.jp/etsuko-topisyu/child-rearing_b_5067283.html
1974年の人口問題会議で「子どもはふたりまで」という
宣言が採択されてはいますが、それ以前に高度経済成長期に、
「子どもはふたりくらいがいい」という産児調整が、
企業利益のためですが、普及しているのですよね。
実際1950年代の後半には出生率は2くらいになっています。
この会議以降、どんな人口抑制政策がなされたのか、
方針に継続性があったのかは、よくわからないのですよね。
それでもこの時代、人口増加で資源が不足することは
しきりに言われていて、国民のあいだに影響を与えたようですが。
>主に後開発途上国で出生率がなかなか下がらないことは
>現在においても重大な懸念事項です。
いわゆる先進国と開発途上国とで、
人口問題はまったく別問題として扱う必要が出てきましたね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/233914338.html