女子高校生に三角関数を教えても意味がないという
主旨のことを言ったことの続き。
「女子教育「コサイン教えて何になる」 鹿児島知事、撤回」
(はてなブックマーク)
「「サイン、コサインを女の子に教えて何になる?」
鹿児島県知事の発言を乙武洋匡氏が批判「時代錯誤」」
(はてなブックマーク)
数学にかかわる人とジェンダー問題にかかわる人の両方を、
敵に回したような発言だと思います。
鹿児島県知事の発言には、なぜ女子高校生なのか?という、
もうひとつの問題があることになります。
鹿児島県知事は三角関数を社会で使ったことがあるかと
女性に訊いているのですが、男性には同じことを
訊かなかったのかと思います。
「サイン、コサイン、タンジェントを社会で使ったことがあるか
女性に問うと、10分の9は使ったことがないと答える」
ここにあるのは、女性が学問、とくに科学技術の知識を
身につけることへの偏見や不都合だと思います。
「女が賢くなるのはなまいき」「理工系は女の子らしくない」という
古典的な感情的反発がひとつにあるのでしょう。
さらには女性が知識や技術を持つと、経済的・社会的に
自立できるようになるから、男たちが女たちを支配できなくなって
都合悪いという「実利的」な反発もあると思います。
私が高校生の時、大学に進学したいと言ったら父が
「女は出産したら家に入るから学歴はムダだ」と答えたんだけど、即座に母が
「私みたいに学歴が無いせいで一人で生きていけなくて、離婚もできない女にはしたくないから大学に行かせる!」って言ってその場が凍りついたのを久しぶりに思い出した。
— 昂季子 (@miyakiko0422) 2015, 8月 28
いまでも経済的事情などでリソースが限られていると、
教育にかける投資を、娘より息子を優先させる
家庭は少なくないだろうと思います。
私も親から「女だから大学いかなくていい」って言われたもんな。「弟二人は男だから大学いかせなきゃだけど」って。@北海道 https://t.co/7HRYB2Je2l
— 泉 鈴蘭 (@izumi_suzuran) 2015, 8月 28
こうして女子生徒は男子生徒より進学に制限がかかりやすく、
高校入試では一般に女子のほうが成績がいいのに、
大学進学率は男子のほうが高くなる事態にもなることになります。
「学校で下駄を履く男の子」
「入試で下駄を履く男の子」
鹿児島県は女子の大学進学率がいちばん低い県です。
29.2%で47都道府県のうち唯一3割を超えないです。
そのせいで進学率のジェンダー差は、北海道についで2番目に大きいです。
「県別・性別の大学進学率(2015年春)」
「女に三角関数はいらない」という鹿児島県知事の発言は、
かかる状況とも関係していることは考えられるでしょう。
「女子に高等数学は必要か」という知事の発言が,わが郷里における
青年期のジェンダー的社会化の存在を示唆しているように感じます。
前のエントリで触れましたが、
数学は現代の科学技術文明の基礎を支えています。
三角関数くらいの知識は、科学技術に支えられた現代社会における
労働者の立場として、役に立つ場面も少なくないです。
「日常生活では役に立たない」と言ったとき、「消費者として役に立たない」というのは事実かも知れない。しかし、人間は消費者であり、残念ながら現在の社会システムでは労働者でもある。労働者としては、sinやcosは武器になるだろう。女性も男性も知っていて損はない。
— 小鳥遊りょう(jagurimath) (@jaguring1) 2015, 8月 28
労働者としての立場は、男性も女性も同程度に
なることがあるのですから、三角関数ひいては数学の知識は、
男性も女性も同様に役に立つことになります。
ことさら女子高校生に対して三角関数の知識の
必要性を懐疑するのは、現代の科学技術文明における
女性の立場を不利なものとすることになるでしょう。
今の時代にこんなことを言う男性が存在するとは思いませんでしたよ。
私くらいの世代だと、確かに
「女の子はお嫁に行くから、特に高学歴は必要ない」
という考えの親は珍しくなったです。
息子と娘がいると、娘のほうが成績が良くても、息子は大学進学させるけど、娘はうちにそこまで余裕が無いから高卒で、なんて話は結構あって。
私のかなり近しい人にもそういう家庭がありまして、それで親子仲きょうだい仲がギクシャクしたケースは多いです。
勉強だって出来ないわけじゃ無し、親も進学費用を用意していたのに進学しなかった男性の中には、結構、そういう親に対する反発という人、何人か知ってるんですよね。
で、私は50代ですから、親世代というと昭和一桁です。
悪いけど、鬼籍に入っている割合が高い世代。
そのくらいの世代だと、確かに女の子は職業婦人にでもならない限り、お嫁に行って子どもを産み育てる以外の選択肢は無かったと思いますが。
今、平成ももう四半世紀以上たってるんですよ。
なに、昭和の亡霊みたいなこと言ってるんだろ。
ところで、エントリーの主題とはずれた話題ですが、グラフを見ると、唯一大学進学率が女子のほうが高いのが徳島県ですが、これはどうしてだろう?
ちょっと気になりました。
>今の時代にこんなことを言う男性が存在するとは思いませんでしたよ
わたしも同意見です。
とんだ時代錯誤ですよ。
>私くらいの世代だと、
>「女の子はお嫁に行くから、特に高学歴は必要ない」
>という考えの親は珍しくなったです
そうだろうと思います。
1980年代というと、女子の大学進学率は3分の1くらいでしたから、
女子大生はそれほど珍しくはなくなっていましたが。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3927.html
>息子と娘がいると、娘のほうが成績が良くても、
>息子は大学進学させるけど、娘はうちにそこまで余裕が無いから高卒で、
>なんて話は結構あって
リソースに限界があると、息子優先になるのですよね。
あるいはひとりっ子でも、娘だと進学させるのをあきらめるけど、
息子ならちょっと無理してでも進学させようと考えたり。
残念ながらこの傾向は今後拍車がかかる可能性があります。
不況続きで国民全般の年収が減っている上、
大学の授業料は高いまま、奨学金は貧しいままなので、
大学に入ることに対する経済的負担は、大きくなると考えられるからです。
>グラフを見ると、唯一大学進学率が女子のほうが高いのが徳島県ですが、
これはわたしにもわからないです。
ジェンダー格差は、都市部だからどうとか、
どこ地方はこうといった、地域依存がないみたいなのですよね。
単なる偶然ということも考えられます。
数学、本当に苦手なもので…。
正直、学生時代に聞いていたら、かなりうれしかったかも(^・^;)
でも、良くないですね。
「女に(三角関数に代表される)教養はいらない」
と言った時、予想されるのは、
「だから、女だけ免除してやろう」
勉学の機会を”与えない”ではなく、許してやるという考え方に傾くこと、
「なぜなら、女には、いくら教えても理解できないから」
という軽蔑の視線が生まれること。
そもそも勉強とは、出来ても出来なくても、平等に与えられるべきものですからね。
個々の理解度には関係無く、です。
>三角関数…、サイン・コサイン・タンジェント、ですね。
>もう、概念すら思い出せません
そういうかたもたくさんいらっしゃるとは思います。
三角関数は高校1-2年生で習うし、
文系に進むと決めていると数学に見切りをつけるころなので、
おとなになるころには、ほとんど忘れている
というかたも結構多いだろうと思います。
>「なぜなら、女には、いくら教えても理解できないから」
>という軽蔑の視線が生まれること。
「女に教養は不要」という発想のもとは、
「女には理解できない」という蔑視感なのですよね。
「男と女は違うのだから、能力は違ってとうぜん」という
前時代の差別思想に、戻っていく可能性もあると思います。
>そもそも勉強とは、出来ても出来なくても、
>平等に与えられるべきものですからね。
>個々の理解度には関係無く、
まったくもってそうですね。
「女に数学は必要ない」という考えかたは
教育の機会均等にも逆行することになりかねないです。