『健康な生活を送るために』に「女性の妊娠しやすさは
22歳がピーク」ということをしめす図が載せられたのですが、
これがじつはまちがっていたことが、話題になっていました。
(いや「まだ話題になっている」かもしれない。)
以下に状況についての記事をご紹介します。
「「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか
高橋さきの / 科学技術論・ジェンダー論」
(はてなブックマーク)
「文科省の「22歳をピークに女性の妊娠のしやすさが低下」は、
科学的を装った恣意的な曲解」
(はてなブックマーク)
「【第1089回】 締め切り過ぎ仕事の続き(2015年8月24日)」
(はてなブックマーク)
「2015-08-23 「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程」
(はてなブックマーク)
文部科学省の副教材の「22歳妊娠適齢説」についての検証は、
毎日新聞で記事になった8月21日に始まったのですが、
9月に入ったころには収拾が付いていました。
いまからこの話題について調べたいかたは、
上記のリンクを見ればじゅうぶんと思います。
(とくにひとつ目のシノドスの記事。)
わたしも「22歳妊娠適齢説」が批判されているなとは
思っていたのですが、リアルタイムでじゅうぶん情報を
追っていなくて、あとから調べ始めたしだいです。
ここでは概要を簡単にお話することにします。
問題は保健体育の副教材『健康な生活を送るために』の
20節「健やかな妊娠・出産のために」に出てくるつぎの図です。
横軸が年齢、縦軸が「妊娠のしやすさ」で、
22歳がもっとも妊娠しやすいとしています。
出典が「オコナーら、1998年」となっているので、
原論文を探すとつぎの図に行き当たります。
文部科学省の副読本で「妊娠のしやすさ」とされていた縦軸は
「みかけの受胎確率(apparent fecundability)」だったものです。
縦軸の意味が書き換えられていたことになります。
「K. A. O’Connor et al. Maturitas 30 (1998) 127 – 136」
図3. いくつかの出産抑制されない集団の
出産間隔データを組み合わせて作った受胎確率の年齢依存。
ウッド[1]のデータを描き直した。
横軸: 年齢(歳)
縦軸: みかけの受胎確率(22歳を1.0とした)
オコナーの論文の図にある「みかけの受胎確率」とはなにかですが、
オコナーの研究のもとになったウッドの論文の要旨には
「性交頻度が原因(due to coital frequency)」という記述があります。
「みかけの受胎確率」とは、性交の頻度に依存する値であり、
「セックスしなけれなば妊娠しない」という、
当たり前の寄与を含んでいるということです。
「Fecundity and natural fertility in humans.」
The age pattern of fecundability shows low levels
in adolescence with a rapid rise to a peak of 25 years
and declines thereafter due to coital frequency.
受胎確率の年齢依存は思春期には低いレベルであるが、
そのあと急速に上昇し25歳でピークとなり、
それ以後は性交頻度が原因で減少する。
妊娠や流産には、本人にも気づかないうちの妊娠や流産もあります。
こうした知らないあいだの自然流産が多くなった場合も、
みかけの受胎確率は下がることになります。
http://minato.sip21c.org/bulbul2/20150824.html
受胎の中には本人も気づかないうちに自然流産する
早期胎児損失(EFL=Early Fetal Loss)もかなりあるので,
女性が妊娠に気づくまで生きていた受胎の月当たり確率を
見かけの受胎確率(apparent fecundability)と呼びます
性交頻度が25歳のままならピークが25歳で落ち方も緩やか
というモデルもFig. 7.10に載っています。
Fig.7.10は,それでも見かけの受胎確率が落ちていくのは
EFLの増加によることも示しています。
オコナーの論文の図は、もともと「みかけの受胎確率」から、
いかにして「実際の受胎確率(total fecundability)」を
推測するかという議論の中で出てくるものだったのでした。
性交頻度や気がつかないうちの自然流産や、
相手の男性との年齢差などの影響を含まない、
「実際の受胎確率」を推測したいということです。
オコナーの論文の共著者のウッドは、これをつぎのように推測しています。
(a)と(b)のふたつの推測方法を示しています。
どちらも20代から40代の始めまで、
受胎確率はほぼ一定ないし増加傾向にあります。
22歳が妊娠しやすさのピークではないことになります。
図2.13 性交頻度が一定で、女性の生殖機能に関するパラメータが
変化できるとした場合の、実際とみかけの受胎確率の年齢依存のモデル予測。
(a) 性交頻度が最大、もしくは毎日性交
(b) 合衆国の25歳の既婚女性の統計値レベルで性交頻度を一定とした場合。
図2.8(b)を補間(ワイゼンシュタインら、1988より)
横軸: 妻の年齢(歳)
縦軸: 受胎確率
白丸: 実際
黒丸: みかけ
上: 性交頻度が最大
下: 25歳の性交頻度で一定
この推測では性交頻度の補正に、とくに注意が払われています。
「女性の生殖機能に関するパラメータ」は気づかないうちの自然流産や
相手の男性との年齢差などの影響だろうと思います。
文部科学省の副教材の図でしめされる「妊娠のしやすさ」とは、
「みかけの受胎確率」であり、「たくさんセックスすれば
妊娠しやすい」ということを言っている、ということです。
http://blogos.com/article/130288/
この元ネタのグラフの意味するところは、「性行為の頻度によって
25歳をピークに急激に上昇し、その後低下する」ということであって、
「妊娠する確率=セックス頻度」を示しているに過ぎない。
セックス頻度が減れば、そりゃ妊娠はしにくくなるさ(^_^)
セックスの頻度は社会的、経済的、文化的要因に強く依存するでしょう。
シノドスの記事で
http://synodos.jp/education/15125
生理学とかではなく、社会経済文化コミコミのグラフじゃないかと書いているのは、この性交頻度依存が入っていることです。
文部科学省の副教材では、これを「医学的に」と解説しています。
性交頻度に依存する数値を「医学的」としたらおかしいです。
付記:
オコナーとウッドの図で示されている「出産抑制されない」とは、
宗教上の理由などから、避妊や中絶を行なわないということです。
半世紀以上前の台湾と、半世紀以上前のアメリカ合衆国の
ハテライトのデータを使っています。
http://synodos.jp/education/15125
問題のグラフは、16歳〜24歳は半世紀以上前の台湾、
25歳以上は同じく半世紀以上前の米国のハテライト
(宗教上の理由から避妊・中絶を行わない)といった、
出産の抑制を行わないグループのデータをもとに、一本の曲線が描かれている(注)
http://minato.sip21c.org/bulbul2/20150824.html
当該グラフはWoodのテキストではFig.7.5にありますが,
16-24歳は台湾,25歳以上は北米ハテライトという,
2つの出産抑制をしていない集団における出産間隔データから推定された,
見かけの受胎確率のモデルです。
オコナーの見かけの受胎確率のデータがピークとなっている年齢付近の傾斜がなだらかな八ヶ岳型グラフとなっているのに、文部科学省のそれはピークとなっている年齢付近の傾斜が急な富士山型のグラフとなっていて、何らかの政治的意図のもとでデータを改竄しているものと思われます。
ただ、性交頻度が変数として影響していると、それを一定とした場合を推定しようにも、どうしても恣意的部分が入らざるを得ないため、生理学上のデータ抽出は極めて困難でしょう。
以下のデータは参考になるかもしれません。
年齢別妊娠確率まとめ 妊娠率・受精率・着床率・流産率
http://www.e-tamago.biz/probability/
「年齢別にみる自然妊娠確率」は25歳で25〜30%、40歳で5%となっていて、40歳は25歳の1/5〜6ということですが、「人工受精の妊娠確率(AIH)」では26歳で41%、40歳で24%ほどあり、40歳は26歳の概ね6割くらいのレベルを保っています。おそらく、この二つのデータに大きな差ができる主要因は性交頻度の年齢差によるものでしょう。
人工授精なら、性交頻度は関係ない話になりますが、これが”女性全体に関する生理学上の特性を示すデータ”と言えるかというと、なお問題があり、人工授精を行う女性(標本集団)が、人工授精を行わない女性も含めた女性全体(母集団)と比べて統計的偏りがない無作為抽出によるものだと示す必要があるのですが、標本集団と母集団との比較調査は社会倫理上許容され難いため、明確な生理学上のデータを出すのは困難です。
これはヒトという動物が、文化社会的影響が強い動物である以上、致し方ありません。
ちなみに、男性の性衝動の生物学的条件との整合性について、男性が若い女性を好む傾向にあることと、ウッドの性交頻度補正値(25歳あたりから40歳くらいまでほぼ一定かやや上昇している)は一見矛盾しそうですが、ファーティリティ(妊孕性:妊娠可能性)よりフィカンディティ(これからどのくらい子供を産んでくれそうか)の方が影響度合いが高いと仮定すれば特に矛盾はないでしょう。
こちらにもコメントありがとうございます。
>オコナーの見かけの受胎確率のデータがピークとなっている
>年齢付近の傾斜がなだらかな八ヶ岳型グラフとなっているのに、
>文部科学省のそれはピークとなっている年齢付近の傾斜が
>急な富士山型のグラフとなっていて
オコナーの論文と文部科学省の副教材とで、
なぜか曲線の形状が違っているのですよね。
https://twitter.com/litulon/status/634950919143092224
文部科学省の副教材がマスコミで話題になったとき、
最初に指摘されたのが、この曲線のかたちのことでした。
それはすぐに訂正していました。
そのあと「性交頻度の寄与を含むみかけの受胎確率」を
性交頻度に関係ない「医学的」な「妊娠のしやすさ」とするという、
もっと深刻かつ本質的な間違いが見つかることになります。
なぜカーブのかたちが変わったのかは、よくわからないです。
副教材以前に、カーブのかたちが違ったグラフはありました。
「22歳妊娠適齢説・図の由来」
http://taraxacum.seesaa.net/article/426477162.html
「22歳妊娠適齢説・図の由来(2)」
http://taraxacum.seesaa.net/article/426480870.html
>年齢別妊娠確率まとめ 妊娠率・受精率・着床率・流産率
>http://www.e-tamago.biz/probability/
こちらはご紹介ありがとうございます。
図表の出典がはっきり書かれていないのが、ちょっと気になりますが。
>ヒトという動物が、文化社会的影響が強い動物である以上、致し方ありません
オコナーの論文の推測も、どこまで妥当かわからないですし、
人間には文化や尊厳があるので調査が困難であり、
正確なところはわからないということになるのでしょう。
>ファーティリティ(妊孕性:妊娠可能性)よりフィカンディティ
>(これからどのくらい子供を産んでくれそうか)の方が
>影響度合いが高いと仮定すれば特に矛盾はないでしょう。
こちらはフォローどうもです。
妊娠、ね。性衝動が妊娠やら子供を産めるかどうかが前提って、どこの寝ぼけがほざいていやがるんですかね。
自分の友人、性産業従事の彼女ですが,彼女、子供を産んだ時に難産して、次子は望めないそうなんです。なんかの拍子にそのことを客に言っちゃったらしいんですね、うかつなことに。
そうしたら
「じゃあ中 出しできるね」
って言われたそうです。
妊娠できるかどうかなんて関係ありませんよ、むしろできない相手にこそ性衝動を起こすクズ野郎もいるんですよ。
日本産婦人科学会の生殖補助医療(ART)が出処ですね。
http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/data.htm
こちらも、データを読むときには生殖補助医療を受ける女性(標本集団)と女性全体(母集団)との間には何らかの偏りがあるものと考えざるえを得ませんし、サンプル数から判断して生理学的要素以外の条件がほぼ一定となるような統計処理が行われた形跡はないため、当然のごとく文化社会的要素が含まれていると考える必要がありますね。
性交頻度が受精確率に影響するのは当然ですし、受精卵が無事着床して受胎する確率、胎児が途中で流産や死産などせず無事出産する確率、卵子の質や母体環境の女性側要因のみならず、精子の質という男性側要因もあります。
男性の加齢に伴う精子の運動性低下は受精確率を引き下げますし、加齢に伴う遺伝子変異の蓄積による精子や卵子の染色体異常は受精卵の受胎確率を引き下げ、胎児の流産確率を引き上げてしまいますし、女性の年齢と相手男性の年齢が強く相関するのは言うまでもないことで、相手男性の年齢は全き文化社会的条件といえます。
不妊要因の半分くらいは男性側要因だということは生理学上の常識ですが、妊娠後の流産・死産の少なからぬ要因が男性側にあるのだという事実については、特に男性は妊娠後のことを他人事視しやすいこともあり、意外に思う人の方が多いかもしれません。
日本産婦人科学会の不妊に関するページに、男性も加齢によって妊娠(させる)確率や精子の質が低下することが書かれています。
http://www.jsog.or.jp/public/knowledge/funin.html
相手男性の年齢帯を一定としたデータ抽出を行えば、女性の加齢に伴う妊娠率、出産率の低下はもっと緩やかになるでしょうから、このデータもまた文化社会的影響が多く含まれるといえるでしょう。
>妊娠、ね。性衝動が妊娠やら子供を産めるかどうかが前提って、
性衝動は繁殖可能性が高いかどうかで起きるとのことですが、
繁殖にいたる前の性的接触にとどまる場合でも、
繁殖可能性が高いかどうかで衝動が起きるということだと思います。
「性衝動の生物学的条件」
http://taraxacum.seesaa.net/article/441720838.html
知らない男の示威行為のおかずにされると
たいていの女性は感情を害するというのも、そういうことだと思います。
おかずにされるだけで妊娠することはないですが、
それでも女性が性衝動を起こす条件の2.や3.に反するので、
忌避感を覚えるということでしょう。
「知らん男にオカズにされる」
http://lacrima09.blog.shinobi.jp/Entry/1189/
人間は社会や文化の影響が強いので、
生物学的条件にさまざまなバイアスや補正がかかると思います。
どの動物にもあることなのでしょうけれど、
人間はこの度合いがとくに大きいだろうと思います。
相手の女性は不妊症とあたまでわかっていても、
男性が性衝動を起こす条件のA.やB.をその女性が満たせば、
性衝動は起きるということだと思います。
>日本産婦人科学会の生殖補助医療(ART)が出処ですね。
http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/data.htm
ごていねいにご紹介ありがとうございます。
>こちらも、データを読むときには
オコナーの論文の「見かけの受胎確率」と
同じようなことになっていそうですね。
>精子の質という男性側要因もあります。
>相手男性の年齢は全き文化社会的条件といえます。
相手の男性の条件も一定ではないですね。
年齢の高い女性の相手の男性も年齢が高いでしょうし、
男性が高年齢であるゆえに、受胎確率が下がることも
じゅうぶんありますね。
>不妊要因の半分くらいは男性側要因だということは生理学上の常識ですが
少なくない男性は、それを理解していないですね。
不妊治療でも夫婦揃って受けないと効果がないのに、
なぜか男だけ検査を受けるのを渋ったり、
ということもまだまだあるみたいです。
>http://www.jsog.or.jp/public/knowledge/funin.html
こちらもご紹介ありがとうございます。
ふつうに書いてありますね。
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■男性側の理由 → HUMAN+ p64
男性側に理由がある割合と、女性側に理由がある割合は、ほぼ半々だと言われています。
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>相手の女性は不妊症とあたまでわかっていても、
>男性が性衝動を起こす条件のA.やB.をその女性が満たせば、
>性衝動は起きるということだと思います。
まぁそうですよね、そうでなければ、これほどまでに性産業が発展・普及なんてしませんよね。
ようするに、そういう場所を積極的に利用するような連中は基本的に妊娠を目的としていない、故に生物学的な条件を満たすことを拒否した、異質な存在に変化しているという理解でよろしいのでしょうか。
そうであるなら、人間ではないものを相手にせざるを得ない彼女たちはどうしたら救われるんでしょうね。
すみません、最近,自分おかしいんです。ごめんなさい。
>そういう場所を積極的に利用するような連中は
繁殖にいたる前の段階の性的接触であっても、
「性衝動の生物学的条件」によって性衝動が起きる
ということだと思います。
>故に生物学的な条件を満たすことを拒否した、
拒否していないと思いますよ。
むしろ生物学的欲望に忠実なくらいではないかと思います。
男性の場合「やればやるほど」繁殖可能性が高まるので、
A.やB.を満たすなら、つまり若くてきれいで清楚な女性なら、
本当に妊娠するかどうかをいちいち考えずに、
「どんどんやったほうがいい」ということです。