文部科学省の副教材に出てくる「22歳妊娠適齢説」の図は、
どこから出てきたのかという問題があると思います。
出典はオコナーとなっていますが、縦軸が「みかけの受胎確率」から
「妊娠しやすさ」に変わっているし、カーブの形状が違っています。
グラフの由来について調べたのがつぎの記事とまとめです。
「「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程」
(はてなブックマーク)
「TANAKA Sigetoさんによる”「女性の妊娠のしやすさと年齢の関係」
文科省副教材”の出典検証と解説」
(はてなブックマーク)
現在見つかっている中で、最初に同様の図が登場するのは、
吉村泰典氏のブログの2013年6月25日エントリです。
「卵子の老化―続報― 女性の年齢と妊孕力との関係」
ここに載せている図は、9月18日エントリでしめした、
出典がオコナーの1998年の論文となっています。
すでにここで縦軸は「妊孕力(にんようりょく)」という
生物学的能力となっていて、オコナーの論文の図にあった
「みかけの」という記述はなくなっています。
カーブのかたちはオコナーの論文に出てくる図のものと
同じではなく、小さめの値を取っています。
副教材に載った「妊娠しやすさ」の図は
これとカーブが同じですから、ここから採ったらしいとわかります。
出典がオコナーとしておきながら、なぜにオコナーの論文と
カーブの形状が違っているのかはわからないです。
8月25日の毎日新聞を見ると、文部科学省の副教材用の
資料は吉村泰典氏が提出したとあります。
それで吉村泰典氏のブログの図が副教材に載ったのでしょう。
「文科省:妊娠副教材で誤った数値掲載」
グラフの資料は、内閣府の結婚・子育て支援検討会の座長を務めた、
吉村泰典・元日本産科婦人科学会理事長が、内閣府を通じて文科省に提出した。
オコナーの論文との図の違いについて、
吉村泰典氏はつぎのような釈明しています。
「誰が作製したのか分からない」し、ネットではなさそうですから、
出典を探すのはほとんど無理かもしれないです。
「産婦人科では長年広く使われてきたグラフ」というのは、
のっぴきならないことだと思います。
ウェブに載せられているものは最近のものばかりであり、
数もかなりかぎられているようです。
もちろんウェブ以外でずっと使われていた可能性はあるでしょう。
http://mainichi.jp/select/news/20150826k0000m040058000c.html
吉村氏は「誰が作製したのか分からないが、産婦人科では
長年広く使われてきたグラフだったので誤りに気づかなかった。
確かに誤りがあり遺憾だ」と話した。
両府省は「チェックがおろそかだった」と釈明した。
ほかに特筆することは、22歳のところに縦の破線が入っていて、
「もっとも妊孕力が高い」ことが強調されていることだと思います。
これもオコナーの論文の図にはなかったものです。
(「実際の受胎確率」を推測するための「みかけ」の値なのだから、
「みかけ」のピーク値をしめすことに意味はない。)
付記:
2006年に産科婦人科学会が、事実婚夫婦にも体外受精を認めたときに、
わたしのブログで吉村泰典氏について取り上げていました。
「このかたは事実婚や婚外子に対する理解が薄い」
という主旨のことを、わたしは書いていました。
「事実婚にも体外受精」
「事実婚にも体外受精(2)」
2014年に体外受精を非婚の親でも認めるようになったときも、
吉村泰典氏のコメントを引用しています。
「未婚親の体外受精容認」