2015年3月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」の方針でした。
「「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか」
2015年3月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」では、
「学校教育段階において、妊娠・出産等に関する医学的・科学的に
正しい知識を適切な教材に盛り込む」ことがうたわれる。
「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識」についての
理解の割合が、先進諸国の割合が約64%であるのに、
現状(2009年)の日本では34%しかないというのである。
「少子化社会対策大綱」の会議では、補助ブログの9月28日エントリで
ご紹介した、「妊娠・出産に関する知識」の国際比較の図が議論され、
日本人の知識力の低さが問題視されたのでした。
http://synodos.jp/education/15125/2
実は、このグラフは、冒頭で触れた「少子化社会対策大綱」に
至る検討過程でも使用され、「日本は他の先進国に比べ、
妊娠に関する知識の習得度は低い」なる状況認識のもとでの
数値目標設定にあたって根拠として使用されたグラフである。
「少子化社会対策大綱」は、わたしがこのブログの
4月2日エントリと4月3日エントリでお話したものです。
覚えているかたはいらっしゃるでしょうか?
(ほとんど興味を惹かなかったエントリなので、
だれも覚えていないかもしれないが。)
「少子化社会対策大綱」
「少子化社会対策大綱(2)」
リンクした新聞記事を見返したら言及がありました。
以下のくだりが、問題の副読本のことだと思います。
「70%にする」というのは、国際比較の図の数値のことでしょう。
日本人の妊娠・出産に関する知識のスコアが現在40%程度なので、
これを70%に引き上げるということだと思います。
「少子化対策大網を閣議決定 出産後有給、男性の8割目標」
また、妊娠や出産の医学的・科学的に正しい知識について
「学校教育で教材に盛り込む取り組みなどを進める」と明記した。
新たな数値目標として「正しい知識の理解割合」も加え、70%にするとした。
「男性育休取得 8割目標 政府 新少子化大網、あす決定」(2/2)
学校教育段階で妊娠や出産に関する医学的な知識を教える方向も盛り込む
これらの新聞記事のこのくだりも、わたしは読んでいました。
記事は男性の育児休暇取得をメインに取り上げていたので、
わたしのブログでの言及も、やはり男性の育児休暇取得のお話となりました。
妊娠や出産の知識に関する学校教育のことは、
新聞記事の記述だけでは問題があるとは言えないし、
ほとんど気に留めなかったのでした。
>有村治子
責任者である有村治子女性活躍担当大臣のことも、
わたしのブログで何度もお話したことがあります。
国政の決断に迷いがあったとき、靖国神社にお参りするという
オカルト右翼であり、輝く女性のためにトイレをきれいにしよう
なんて言い出すセンスのかたです。
(トイレのことは全国知事会の配布資料にも載せている。)
そういう政治的立ち位置にしてリテラシーだから、
こういうおかしなデータを信用するのだとは、
この件に関しては、わたしはあまり思わないです。
政治的立ち位置が左寄りでも、リテラシーがもっとあるかたでも、
引っかかった可能性はあると、わたしは思います。
後述のように産科の専門家たちが信用していたのですから、
専門家でない大臣が信用するのも無理もないとも言えます。
それでも結論は、因習・反動的な家族・ジェンダー観を
持った人にとって、都合のよいものであったことは、
留意しておくことだろうと思います。
>産婦人科関係9団体
要望書を提出した産科関係の9団体は、なにを思っていたのかとも思います。
なにしろ、
http://synodos.jp/education/15125
当初、私や知人たちは、少しでも生物学周辺分野に関わったことがあれば、という指摘があるからです。
誰でも一目でグラフが「妙」であることに気づくだろうと思っていた。
そして産婦人科などの分野周辺の専門家・関係者であれば、
グラフの間違いをただちに指摘するはずだと考えていた。
「妊娠のしやすさ」の図も、「妊娠・出産に関する知識の国際比較」の図も、
もとは家族計画協会がサイトで掲載していたものです。
彼らがこれらの図を信用していたことになります。
吉村泰典氏が事実婚夫婦の体外受精を、
推奨しなかったこともあるように、産婦人科学会の関係者も、
家族やジェンダーに関しては因習・反動的なほうらしい
ということは、留意することかもしれないです。
(9年前に事実婚夫婦に体外受精を認めたとき、
「あたまが堅いと思っていた学会が意外だ」という
主旨の感想を述べたかたがいらした。)
産婦人科関係のかたたちとしては、知識が不足していて、
妊娠適齢期を過ぎて子どもを持ちたい希望がかなわなくなるかたに、
多く直面していることがありそうです。
「妊娠しやすさ」の図と「知識の国際比較」の図は、
産科関係者が直面するそうした現状の意識に、
ちょうどよく合っていたのだと思います。
それでどちらももっともらしく見えたのもあるのでしょう。
@okisayaka @TaniYoko 「産婦人科医は,40歳を過ぎてから突然不妊治療に来る人に対して,40歳を過ぎると受精もしにくいし胎児死亡の確率も高いので成功の確率が低いという説明をするのも心苦しいし,説明を受けたときに,そんなこと知らなかった……」の部分は如何ですか
— Minato Nakazawa/中澤 港 (@MinatoNakazawa) 2015, 9月 16
また産婦人科関係者であれば、日本の性教育の水準が
国際的に見て遅れていることも、承知しているだろうと思います。
日本は00年代に「純潔思想」の信奉者たちによって
性教育バッシングがなされ、日本の性教育は
大きく後退することになったのでした。
「外国と日本の性教育」
そうした問題意識を持っていると、「知識の国際比較」の図は
そのまま信用しやすいものだったと言えます。
(わたしも「知識の国際比較」の図は、信用した可能性が高いと思う。
初めて見たときがシノドスの記事だったから
引っかからなかったというだけで。)