露骨な「産めよ増やせよ」政策を採ったのでした。
それはまさに「お国のために産め」の行き着くところをしめしています。
聞いたことがあるかたもいらっしゃると思いますが、
一度くわしく見ておいてよいだろうと思います。
「チャウシェスクの罪と罰」
「『4ヶ月、3週と2日』― ルーマニア社会主義共和国で 1987年 ―」
「ルーマニア」
「1989年12月22日 「ルーマニア・チャウシェスク政権が崩壊した日」」
「“生理警察”とかマジかよ…かつてルーマニアで
行われていた少子化対策が恐ろしすぎる」
チャウシェスク政権は1966年から、「国力の増強は人口を
増やすことだ」と確信し、人口増加政策を導入することになります。
この年に中国を北朝鮮を訪問して大歓迎を受けたのですが、
そこで人口が多いことが国力の源だと誤信したのでした。
より具体的には、国の労働力を確保するために、
人口2300万人から3000万人まで増やそうというものです。
それから個人(とくに女性)の性やライフスタイルに、
国策でどんどん介入することになります。
子どもを5人以上産むことが強く推奨され、
14-15歳の中学生にも出産が奨励されました。
子どもを5人以上産んだ人に、多くの子育て支援が受けられ、
さらに10人産んだ人は「英雄」とされ、
あらゆる交通機関が無料となりました。
性教育や避妊が禁止され、コンドームの販売も禁止になります。
「独身税」が導入され、子どもが4人以下の家庭にも課税されます。
いつまでも妊娠しない女性には、高い「禁欲税」が課されました。
人口政策にかかわる政府関係者は、定期的に女性がいる
職場をまわって妊娠検査をしていました。
ルーマニアのチャウシェスク政権の「少子化対策」は究極だと思う。「独身税」の導入、子供が4人以下の家庭には課税、避妊と妊娠中絶の禁止…今の日本政府のおじさん、おばさんたちの中にも、本音じゃ「これくらいやらないと」って思ってる人いそう。絶対やだけど。
— 北条かや (@kaya_hojo) 2014, 9月 30
とりわけ熾烈なのは、1966年から妊娠中絶が禁止されたことでした。
45歳までの女性は4人子どもを産むまで中絶が禁止されます。
違法中絶には厳しい厳罰が科されました。
例外的に中絶が認められたのは共産党の高い地位の女性だけです。
これによって中絶ができないために死亡したり
重病におちいる女性がたくさん出てきました。
危険な闇の中絶も横行することになります。
『4ヶ月、3週と2日』という映画は、チャウシェスク政権下で
ともだちの闇の中絶のために奔走することに
なった女子学生を描いたものです。
http://www.ahni.co.jp/kitazawa/sei/kitazawaseikyouiku52.htm
このように、国家や宗教、独善的モラル、民族的慣習などが、
本来、女性自身が自己決定すべき性(妊娠・出産・中絶)に
強制的に介入することが許されてはならない、と私は考えます。
しかし、世界では意図しない妊娠や望まない妊娠に直面し、
「安全でない中絶」によって生命にかかわる影響を
受けている少女や女性は、年間1900万人にのぼり、うち7万人が死亡。
何十万人もが安全でない中絶手術の後障害で、生涯苦しんでいるといいます
子どもを産んでも経済的に育てられず、
子どもを捨てる親もたくさん出てきました。
たくさんの捨て子が餓死寸前で孤児院に送られました。
栄養補給のために輸血が行なわたのですが、
その血液の中にエイズウィルスが潜んでいて、
エイズの子どもたちが街にあふれることとなりました。
1989年にチャウシェスク政権が崩壊すると、
それまであった子育て支援が出せなくなります。
いよいよ親から捨てられる子どもが増えることになります。
そうした行き場のない子どもたちは、首都ブカレストの
下水道の中などで暮らすことになりました。
彼らは「マンホール・チルドレン」と言われて、
政権崩壊後四半世紀経ったいまも、
たくさんの子どもたちが下水道で暮らしています。
「ルーマニアの闇、下水道で暮らす「マンホール・チルドレン」と
呼ばれるチャウシェスクの孤児たち」
(はてなブックマーク)
>ファシズムの国の人口政策
一般にファシズムの国は、富国強兵の必要から
「産めよ増やせよ」政策を導入し、国策で個人の性や
ライフスタイルに、積極的に介入しようとします。
ルーマニア・チャウシェスク政権の人口政策は、
ファシズムの国のそれと同種の発想であると言えます。
ヒトラー・ナチスは女性の役割を「子どもを産むこと」であるとして、
女性に「母性」を要求してきました。
「独身税」はムッソリーニ・ファシストが導入したこともありました。
日本でも太平洋戦争中、「女の幸せは結婚して子どもを産むこと」
ということを、教育を通して普及させたのでした。
「ナチスが迫害したレズビアン」
「独身税という少子化対策」
「大政翼賛会の母性の保護」
チャウシェスク政権の「産めよ増やせよ」政策は、
これらファシズムの国より、さらにえげつないかもしれないです。
国の役人が妊娠検査をして回るというのは、
現代の民主主義国家の感覚ではとても受け入れられない、
国家によるライフスタイル管理だろうと思います。
>過去の日本
日本もファシズムの国だったのであり、太平洋戦争中は、
「戦時人口政策」という「産めよ増やせよ」政策を導入したのでした。
チャウシェスク政権の人口政策は、日本も他人ごとではないと言えます。
日本の「戦時人口政策」は、高額の子育て支援を行ない、
さらに子どもの多い家庭に対しては表彰を行ない、
物資の優先配給も行なうようにしています。
避妊や中絶を制限し、教育を通してこれらを
「不健全思想」として国民が忌避するようにしました。
多子家庭に対する経済的インセンティブや国による優遇、
そして避妊や中絶の制限は、まさにチャウシェスク政権と
同じ発想にもとづく施策を行なっていたことになります。
日本が戦争に破れ、子育ての経済的支援が行なえなくなると、
たくさんの新生児たちで街があふれることになりました。
戦後のベビーブームです。
優生保護法が改正され、中絶の要件を緩和することになりました。
捨て子も増え、孤児院がたくさん建てられることになりました。
政権が崩壊して経済的インセンティブが続かなくなって、
育てられない子どもが増えることになったのも、
チャウシェスク政権と同じ展開をたどったことになります。
>現在の日本
チャウシェスク政権の人口政策は、いまの日本においては
すっかり過去のものとなったとは言えない状況にあります。
少子化対策の話題になると、チャウシェスク政権の政策と
同じような発想をする人が結構いるからです。
「穴開きコンドームを配れ」なんて言う人もいます。
性教育は「純潔思想」の信奉者たちが忌避し、なくそうとします。
中絶を禁止にしようという意見が出ることもあります。
「独身税」を支持する人も少なくないです。
「お国のために産め」という考えかたは、
個人とくに女性のライフスタイルに強く介入することになります。
『4ヶ月、3週と2日』のような悲劇を招くことにもなるでしょう。
そして政策が破綻すると育てられない子どもであふれる、
という悲運に終わることになります。
チャウシェスク政権の人口増加政策は極端ゆえに
「ディストピア」として反面教師になると言えます。
「お国のために産め」政策の末路がいかなるものなのか、
現代の日本社会においても示唆的だろうと思います。
健常女性と同じく、45歳までなら4人子どもを産むまで中絶が禁止されたのですか?
おそらく同時代の日本では、優生保護法により、女性障害者(特に精神障害者・知的障害者)は「不良な子孫の出生防止」のため中絶というより不妊手術を強制されていたと思うのですが。(日本のみならずヨーロッパの先進国でも行われていたそうです)
このエントリにコメントありがとうございます。
>チャウシェスク時代のルーマニアでは、
>障害のある女性の出産についてはどう考えていたのでしょうか?
それは残念ながら、わたしにもわからないです。
日本語でそこまで書いてある文献はなさそうに思います。
(国力増強のための人口政策であって、個人の福祉ではないので、
障害者に対して風当たりが強いことは予想されます。)
闇の中絶手術のせいで障害を負ったり、
亡くなったした女性がいたことはたしかです。
(こういう女性がその後どうなったかはわからないです。
存在がうやむやにされた可能性もありますね。)
>同時代の日本では、優生保護法により、
>女性障害者(特に精神障害者・知的障害者)は
>「不良な子孫の出生防止」のため中絶というより不妊手術を
>強制されていたと思うのですが
ここに少し出ていますね。
お恥ずかしながら知らなかったです。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/law/josei_chiikihoken1306/index.html