2015年10月19日

toujyouka016.jpg 33年間無戸籍娘の母に過料

前夫の暴力から逃れるために、べつの男性とのあいだに
産まれた子の出生届けを33年間出さずにいたら、
裁判所から5万円の罰金の請求がきたというニュースです。

「33年無戸籍娘の母に過料 前夫暴力逃れ出生届出さず」
(はてなブックマーク)

娘の出生届けを出すと、前の暴力夫に娘の存在や居場所を知られる
恐れがあると考えて、出生届けを出さなかったのでした。

 
記事は短いので全文引用します。
暴力を振るっていた前夫から逃れるため、別の男性との間に
生まれた娘の出生届を33年間提出せずに戸籍がない状態にしたとして、
神奈川県内に住む母親に、藤沢簡裁(町田俊一裁判官)が
戸籍法違反で過料5万円の決定を出していたことが20日分かった。
母親は異議を申し立てたが退けられ、横浜地裁に即時抗告する方針。

代理人弁護士によると、母親は1961年に前夫と結婚して
九州地方に住んでいたが、暴力から逃げるため籍を抜かないまま
80年に神奈川県内へ移った。
82年に新たな交際相手との間に娘が生まれたが、
前夫に娘の存在や自分の居場所を知られることを恐れて出生届を提出しなかった。

いちばんの原因は暴力をふるっていた前夫だし、
DV男から居場所を知られないようにするのはとうぜんの自衛です。
娘はずっと戸籍がなくて不利益を被っていたのでしょう。
それで罰金を取られるのは納得いかないことと思います。

罰金5万円というのは、届け出を出さなかった場合の過料で、
戸籍法121条にもとづくものと思います。

「見てみたい? 戸籍法」
第121条【催促期間を徒過した者に対する過料】

市町村長が、第44条第1項又は第2項(第117条において
準用する場合を含む。)の規定によつて、
期間を定めて届出又は申請の催告をした場合に、
正当な理由がなくてその期間内に届出又は申請をしない者は、
これを5万円以下の過料に処する。


出生届けを出すと、出産した女性と婚姻関係にある
男性の子になるので、この娘の場合、前夫の戸籍に入ることになります。
なんらかの機会に前夫が自分の戸籍を見ると、
自分に娘がいることがわかるということです。

個人情報保護の観点から、現在の法律では戸籍は原則的に
本人でなければ見られないようになっています。
戸籍の閲覧制度をなくしたのは1976年です。
娘の産まれた1982年は、戸籍は公開が原則ではなくなってはいました。
よって第三者による閲覧はすでに困難になってはいました。

「いつからこうなった?」

現在の法律でも、戸籍謄本は請求できますから、
自分と同じ戸籍にいる人の戸籍を見ることはできます。
また同じ戸籍にいなくても、直系の親族であれば、
理由をしめさなくても、戸籍の請求をすることができます。

「戸籍を請求できる人は誰?」

よって娘の出生届けを出して、前夫の戸籍に入れると、
そのあと娘が前夫の戸籍を抜けてどのように移動しても、
前夫は娘の戸籍を請求できる可能性があるのだと思います。


戸籍に書かれている情報には、出生に関することがあります。
誕生日、出生届けを出した自治体と年月日です。
出生届けを出した自治体から引っ越していないと、
どこの自治体内にいるか、戸籍の情報からわかることになります。
引っ越しがあれば現住所まではわからないです。

「戸籍って何が書かれているの?」
「戸籍謄本抄本に住所は記載されていません。」

「戸籍の附票」には現住所も記載されます。
またいままで住んだことのある住所もすべて記載されます。
なので戸籍の附票を取ると、現住所も引っ越し歴まで含めて
全部わかることになります。
戸籍の附票の申請は戸籍謄本・抄本の申請と同じ条件です。

「「戸籍の附票」って何だぁ?」
「Q.戸籍の附票とは何ですか。取得方法、郵送取り寄せ、委任状、見本の解説」

住んでいる自治体がわかると、その自治体の役所へ
行くことができて、そこで住民票の申請ができます。
住民票にはもちろん住所が町名番地まで記載されています。
ただし請求のためには、住所を申告する必要があるので、
住所がわからないから知りたいときは、申請できないです。

「住民票の交付請求」


こうしてみると、出生届けを出して娘を前夫の戸籍に入れると、
前夫に娘の存在や居場所を知られるのでないかという懸念は、
いちおうもっともということになるでしょう。
その気になれば、娘の現住所を探し当てられそうです。

弁護士に相談していたらうまく手配してもらえたか、という問題があります。
1982年だとプライバシー保護に対する意識も薄いし、
DVもほとんど認知されていないでしょうから、
うまく手配する弁護士を見つけられないかもしれないです。

役所もプライバシー管理やDV被害者に対して、
いまのように注意を払うことがなかったでしょうから、
思いがけないところで情報が漏れる可能性もあります。


現在の戸籍法は個人情報管理には神経質になっていますが、
それでも親族間のプライバシーは守りにくいと言えそうです。
それゆえこのニュースのケースのような、
DV男からの個人情報保護が難しくなるのだと思います。

戸籍というのは、例の家族思想が信仰になっている人たちの
家族観を書類で表現したものだと言えます。
それゆえ「家族のぬくもり」も素朴に信じられ、
家族観の不和が意識されないので、家族観でプライバシー保護が
必要なケースも想定されてないのだと思います。

posted by たんぽぽ at 22:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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