「左派・リベラルこそ金融緩和を重視するべき」という、
経済学者・松尾匡氏へのインタビュー記事です。
「左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授」
(はてなブックマーク)
「左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授(朝日新聞デジタル)」
このエントリでは「アベノミクス」の第二の矢である、
財政政策について見て行きたいと思います。
松尾匡氏はつぎのようにコメントしています。
「ひどい不況の時、金融緩和で作ったお金は、
直接には使われず銀行にため込まれてしまう。
だから、そのお金が世の中に回る仕組みをつくるために、
安倍政権は旧来型の公共事業を第2の矢として実行し、それが効いた。
質はともかく、景気が拡大する方向への力が働いているのだと思う。
本来は、公共事業よりも、介護や福祉の働き手を増やすために使うべきではあるが」
財政政策による「資源配分の調整」によって雇用を増やすなら、
現在の状況を考えれば公共事業よりも、介護や福祉のほうが
よいだろうというのは、多くのかたが考えると思います。
今後の少子高齢化を考えれば、介護や福祉は必要性が増えるからです。
介護や保育士の年収は低水準ですから、さらにこれらの職種の
収入の引き上げをうながす政策も、合わせて行なうのがよいでしょう。
待遇がよくなれば人材を確保できるのはもちろん、
介護や保育の待遇改善に国が投資することで、
財政政策による「所得の再分配」に結びつくことになるからです。
「いくら稼げる? 129職業の年収ランキング」
「保育士の給与はなぜ低いのか 待機児童問題から考える」
「金融緩和で作ったお金は、直接には使われず銀行に
ため込まれてしまう」という心配は、10月23日エントリで触れた、
ピケティのインタビュー記事でも同じような
懸念をしめすコメントがありました。
「資本主義を生かすために 富の透明性高め格差縮小(1/2)」
「資本主義を生かすために 富の透明性高め格差縮小(2/2)」
これはインフレの必要条件だが、十分条件とはいえない。
お札を刷るだけでは、消費や設備投資に回る保証はない。
消費者物価の上昇だけでなく、資産インフレを招きかねない。
安倍政権の経済政策『アベノミクス』は
株式や不動産のバブルを生むリスクをはらんでいる。
肝心の物価の上昇を実現するには、金融を緩和すると同時に
賃金の上昇を果たす必要がある。
もしデフレに終止符を打ち、インフレに転換したいなら、
政府は民間の後を追うのではなく、率先して公務員の賃金を上げるべきだ。
消費税増税の分を除いた消費者物価上昇率が1%を
下回っているというのはやはり低い。思い切った措置が必要だろう。
ピケティは対策として賃金の引き上げを主張しています。
さらにわたしはここから、公務員の非正規の賃金を引き上げることが
とくに効果的だろうと、お話したのでした。
非正規の年収はきわめて低水準なので、収入を引き上げることで、
財政政策による「所得の再分配」となるからです。
「男女&雇用形態別年収分布」
「アベノミクス」が公共事業に重点を置くのは、
簡単に言えば「自民党政権だから」だと、わたしは思います。
自民党の支持基盤は、地元選出の自民党の代議士が、
公共事業を引っ張ってきて、それによって地元の産業が成り立つという、
「政治家城下町」とでも言えるものです。
「政治家城下町」
公共事業を増やしたのは、政権の支持を取り付けるための
既得権益層向けということもあったものと想像します。
コイズミ改革や民主党政権で公共事業が削られましたから、
なおさら既得権益層は公共事業を待ち望んだものと思います。
公共事業を増やせば、ある程度のデフレ脱却対策になるでしょうが、
公共事業による雇用創出に、もっと懐疑的な意見もあります。
2013年3月16日エントリで、ご紹介した記事で少し触れています。
「政治と経済の失われた20年 ―― データから語る日本の未来」
わたしは自民党が掲げる金融政策はまっとうだと思う一方で、
デフレを脱却するために公共事業をすると
語られている点についてはあまり評価していません。
現在、インフラの整備などの公共事業には
高度な技術や資格が必要とされています。
昔のように頭数を集めて、体力勝負で行う事業はなかなかない。
つまり公共事業に予算を投じても、あまり雇用に結びつかないのですね。
公共事業はメンテナンスや防災のために必要ではあるが、
景気対策としての効果は疑問視されているわけですね。
これは2014年12月26日と12月27日エントリでお話した、
人口ボーナス期の物量にものを言わせた生産スタイルから、
現在の人口オーナス期に対応した質を重視の
生産活動に転換が必要、というお話とも関連すると思います。
「人口ボーナス・オーナス」
「人口ボーナス・オーナス(2)」
「政治家城下町」という既得権益の存在を考えれば、
自民党政権であるかぎり、財政政策がある程度以上公共事業に
振り向けられるのは避けがたいと、わたしは思います。
介護や福祉職を増やしたり、待遇を改善したり、
非正規雇用の賃金上昇といったことに重点を置いてもらうことは、
自民党政権ではあまり期待できないでしょう。
(安倍政権は家事や介護の支援のために、
外国人労働者を受け入れることを推進しているくらいです。)
財政政策を福祉の充実や非正規雇用の待遇改善に、
振り向けてもらうには、これらに対してより理解のある
民主党などいまの野党が政権を取って、彼らに金融緩和や経済成長を
理解してもらうことになるのだろうと思います。