2015年11月06日

toujyouka016.jpg 夫婦別姓・世論調査の歴史

11月4日エントリで、民法改正とくに選択的夫婦別姓についての、
かなり気合いの入った朝日の記事をご紹介しました。

「どうして夫婦同姓なの 民法の規定、最高裁が初の憲法判断へ」
「どうして夫婦同姓なの」(全文)

この記事では世論調査についても触れています。
ここではこれを見ていきたいと思います。

 
夫婦別姓についての世論調査の結果/ 各国の夫婦の姓

これは世論調査を見て選択的夫婦別姓の是非を議論するというより、
世論調査の歴史を見ていると考えたほうがいいのでしょう。


これまでの政府の世論調査で、もっとも賛成が多かったのは2001年です。
賛成が42%、反対が30%でした。
このころは自民党内の選択的夫婦別姓の推進派の動きが活発で、
夫婦別姓の議論がさかんだったので、理解が浸透したのだと思います。

政府・政権がそれまで民法改正を先送りにしてきた理由のうちに、
「世論調査で反対が多いから」ということがありました。
ところが2001年で賛成が多くなったら、
きゅうに「だんまり」を決め込んだということがあります。

「世論調査で反対が多い」というのは、単なる言いわけであり、
実際は認めたくないべつの理由があるということだと思います。
それは例の「家族思想信仰」であろうことは想像にがたくないです。

「信仰としての家族思想」

「信仰としての家族思想(2)」


朝日の記事ではなぜか抜けていますが、2007年にも世論調査がありました。
このとき賛成が37%、反対が35%で拮抗したのでした。
これは第一次安倍政権のときで、家族やジェンダーに関して
因習・反動的な雰囲気が蔓延したからだろうと思います。

「2007年の世論調査」

ほかにも自分で考えないで、まわりに流される人も多かったようです。
当時の「当節流」だったということだと思います。

社会が混沌として情報があふれすぎて、何が善か悪かも
分らなくなっている現代では、何事を判断するにも
自分の周りのごく身近な基準に帰着するようになっています。
そういう傾向が、今回の調査結果にも影響しているのかもしれません

この調査結果を見て、当時の法務大臣だった長勢甚遠が
「民法改正の必要はなし」とあっさり決め込んでくれたのでした。
世論調査は賛成が多いときは黙殺するけれど、
反対するときは堂々と理由にするもののようです。


2012年の世論調査のときも、賛成36%、反対36%で拮抗でした。
民主党政権から第二次安倍政権になるころでしたが、
チキンの民主党は民法改正の実現をすっかり投げていたので、
世間的にもほとんど話題にならなかったのでした。

「内閣府による世論調査」
「内閣府による世論調査(2)」

Q11 [回答票17]

家族やジェンダーに関して因習・反動的な安倍政権が
ふたたび訪れそうになったこともあると思いますが、
なにより話題にならないので、民法改正に関心を持つ人が少なくて、
理解が浸透しなかったのだと思います。

議論がさかんになって話題になれば、それなりに理解が浸透する
ということではあるのかもしれないです。


世論調査で特筆することは、年齢層に偏りがあり、
高齢層ほど回答者数が多く、結婚に直面する20代や30代で
回答者が少なくなっていることがあるでしょう。
それでなおさら反対が多くなりやすいということです。
これは事前に調査員から個別の面談の申し込みがあり、
顔を合わせて聞き取る「個別面接聴取法」のためと言われています。

「サンプルの回収率と人口比」

「家族の法制に関する世論調査」 調査の概要

2001年のときは調査の信頼性を維持するために、
回答者数が実際の人口構成に近くなる努力をしていました。
年齢構成に無頓着になったのは、2007年と2012年のときです。


もうひとつ特筆しておきたいのは、11月4日エントリでも触れましたが、
女子差別撤廃委員会(CEDAW)から「世論調査を言いわけにせず、
批准した条約と整合が取れるよう民法改正せよ」と、
勧告を受けていることがあります。

「差別的法規」

また、世論調査の結果ばかりを理由にしてはならず、
法体系の一部として、条約の条項と整合が取れるよう、
国内法を整備しなければならないこと、したがって民法改正は、
条約に批准した国が義務としてなすべきである、ということを、
委員会は指摘しておきます。

条約に批准したということは、条約を守るために
国内法を整備・改正する努力をすると宣言した、
ということですから、とうぜんのことです。
でなければなんのために条約に参加したのかわからなくなります。

マイノリティの権利を多数決で決めていたら
いつまでたっても認められないことになります。
また世論に反対が多いなら、差別に賛成している人が多い
ということですから、積極的に法律で多数派の差別を
規制する必要があるとも言えます。

上述のように日本政府は、民法改正に反対するためにばかり
世論調査を持ち出しているのですから、
なおさら世論調査を言いわけにして民法改正を
先送りにするなど、釘を刺されることだと言えます。

posted by たんぽぽ at 21:45 | Comment(3) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
続けて朝日新聞の世論調査が出ましたね。

選択的夫婦別姓に賛成52% 朝日新聞社世論調査  朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASHC97592HC9UZPS006.html

なんと賛成が反対の倍以上、という結果です。
もちろん誤差とか設問の形式とかでぶれる数字なので、どこまで正確なのかわかりませんが、最近増えている報道で潮目が変わった、などということがあれば嬉しいのですけどね。
Posted by 魚 at 2015年11月10日 01:27
あ、反対は34%なので倍じゃないですね(すみません)。でも、かなりの差ですね。
Posted by 魚 at 2015年11月10日 01:30
魚さま、このエントリにコメントありがとうございます。

>選択的夫婦別姓に賛成52% 朝日新聞社世論調査  朝日新聞
>http://www.asahi.com/articles/ASHC97592HC9UZPS006.html

ご紹介ありがとうございます。
1994年の水準近いところまで、ようやく戻ったというところですね。

賛成が反対よりずっと多いのは、好ましいことですね。
それでも反対する人が3分の1もいるのですね。


1年前の毎日新聞の世論調査では、賛成52%、反対40%でした。
調査方法や質問のしかたが同じではないでしょうが。
http://bit.ly/1WJZYMz
Posted by たんぽぽ at 2015年11月10日 22:30
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