2015年11月14日

toujyouka016.jpg 金融緩和・雇用の質と賃金

あいだが開きましたが、10月30日と10月31日エントリの続き。

「左派こそ金融緩和を重視」
「財政政策・福祉と公共事業」

金融緩和の必要性を主張する松尾匡氏の記事を見て行きます。

「左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授」
(はてなブックマーク)

「左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授(朝日新聞デジタル)」

 
ここでは雇用に関する見解を見てみたいと思います。
「全体で見れば雇用は拡大している。
本来ならば正社員のような質の高い雇用が増えるべきだ。
安倍政権は雇用の流動化を進めていくので、その意味では
質の低下を伴いながら、雇用が拡大していくかもしれない」

この「質の低下を伴」う「雇用の流動化」とは、
派遣労働者法の改正といった、低収入に抑えられている非正規雇用への
固定をうながす政策に代表されることだろうと思います。

「労働者派遣法改正案」
「派遣労働者法・衆院通過」

全体では雇用は増えているのはたしからしいですが、
高齢者や女性を非正規雇用に回している状況は続いています。
人件費の節約のために非正規雇用で埋めている企業が多い、
という状況はとくに見過ごせないと思います。

「非正規、8割の企業が採用=最多理由は「賃金節約」−厚労省調査」


金融緩和を進めて雇用を作り出すところまでは
どの政党も共通の政策とし、作り出した雇用の質をどうするかで、
野党が自民と差を付けることになるのでしょう。

1月3日エントリでご紹介の記事でも、
自民党と差を付けるためにも雇用義務を盛り込めとしています。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41362?page=2
どこか、日銀法改正して、雇用義務を盛り込むなどの左派政党らしい、
まともな政策がいえないのだろうか

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41433?page=3
リベラルでは、労働者をコアな支持層とし、所得再分配について
政府の介入度を高める方向となる。
今の自民党との差別化でいえば、金融政策を重要視して
日銀法改正でインフレ目標と雇用義務を加えること、
歳入庁を創設し税・社会保険料を一体徴収し、
不公平をなくし所得累進課税を強化する方向がいい


>雇用の不安定の解消

雇用の質を高める方法ですが、わたしは「アベノミクス」の
「第三の矢」に相当する規制緩和と組み合わせるのがよいと思います。
どこを「規制緩和」するのかというと、前時代の名残りで
いまだ終身雇用や年功序列によって安泰となっている、
中高年層の「雇用の流動化」です。

終身雇用、年功序列という中高年層の既得権が
維持されるからこそ、女性や若年層は割りを食って
非正規雇用と低賃金に甘んじざるをえなくなるからです。

正規雇用と非正規雇用とが固定化されることで、
労働生産性が低くなっているという指摘もあります。
かくして中高年層の「雇用の流動化」によって、
雇用の質を高めることになるわけです。

「日本はどうして賃金が上がらないのか」
日本の労働生産性の低さは、失業率が他の欧米諸国に比べて
低いためだとよく解説されるが、果たしてそうだろうか。

終身雇用制と年功序列が完全にはなくならず、
さらに正規雇用と非正規雇用が固定化したため、
低賃金の労働力が生産性の低い分野に流入した。
日本は若者や女性を虐げ、外国人労働者を排除してきたため、
時代の変化とグローバル化に完全に乗り遅れてしまった。


安倍政権のしていることは、中高年層の既得権は維持し、
正規雇用と非正規雇用の固定化をそのままにして、
非正規雇用ばかり「雇用の流動化」を進めていると言えます。
それゆえ非正規雇用がますます不安定となって
雇用の質も下がる状況になるのだと思います。

現実問題として中高年層の既得権に手をつけるのは、
既得権益ゆえにかなりむずかしいのだろうと思います。
強い抵抗や反発にあって、頓挫する可能性も高いでしょう。

ふつうに仕事をしている人はそのままで、
たいして能力もないのに、終身雇用と年功序列に守られて
高給を食んでいる中高年だけが「雇用の流動化」で
異動を余儀なくされるだけなのですが。


松尾匡氏は規制緩和に懐疑的で、
いまはまだ雇用を作り出せるから作り出せ、
規制緩和はやるならそれからだ、という主張をしています。
規制緩和の内容として具体的にどんなことを
想定しているのかは、記事を見ただけではわからないです。

わたしが思うに、終身雇用と年功序列に手をつけるのを
平行して行なわないと、中高年男性の雇用はそのままで、
女性や高齢者、若年層は非正規雇用に回されるという、
いまのような状況はあまり改善されずに終わりそうに思います。

中高年層の雇用の流動化をいっしょに進めないと、
単に雇用の数を増やすだけでは、女性や若年層に正規雇用が
得られるようにするのは、むずかしいのではないかと思います。


>収入の不安定の解消

もうひとつの雇用の質を高める施策は、やはり賃金の上昇だと思います。
とくに賃金格差が大きいのは正規と非正規のあいだです。
よって非正規雇用の賃金を引き上げるのが効果的と言えます。
(同一賃金同一労働が実現すればもっともよい。)

これも正規雇用と非正規雇用の格差を小さくすることになり、
固定化の緩和に結びつく施策ということになるでしょう。
賃金格差がなくなれば、前述のように人件費を節約するために
非正規雇用で埋めることもなくなるわけです。

「男女&雇用形態別年収分布」



賃金が低いからみんなお金がなくて消費が増えないので、
景気の悪い状況が続いていることは、言うまでもないことです。

http://blogos.com/article/142480/
日本では、賃金が上がらないことから消費が増えず、
景気の先行きは見通せなくなっている。
企業は、少子高齢化が進む国内市場には投資せず、海外企業を買収している。
若者たちは正規雇用の指定席を求めて、リスクをとらなくなっている。
移民についても拒絶反応は相変わらずだ。
若者や女性を低賃金で働かせて得た利益は海外に投資され、
人口はどんどん減っていく。

インフレの効果が資産のバブルに回らないようにするため、
金融緩和といっしょに賃金を引き上げる必要があると、
ピケティ氏からのご指摘があることでもあります。

「資本主義を生かすために 富の透明性高め格差縮小(1/2)」
「資本主義を生かすために 富の透明性高め格差縮小(2/2)」
これはインフレの必要条件だが、十分条件とはいえない。
お札を刷るだけでは、消費や設備投資に回る保証はない。
消費者物価の上昇だけでなく、資産インフレを招きかねない。
安倍政権の経済政策『アベノミクス』は
株式や不動産のバブルを生むリスクをはらんでいる。
肝心の物価の上昇を実現するには、金融を緩和すると同時に
賃金の上昇を果たす必要がある。


posted by たんぽぽ at 19:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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