2015年12月08日

mar0006.gif伝統的家族で出生率回復?

11月18日に「一億総活躍社会」に関する政府会合があったのでした。
そのときの加藤彰彦氏の配布した、「「希望出生率1.8」を
いかにして実現するか」という資料がすさまじいのですよ。

「第3回 一億総活躍社会に関する意見交換会 議事次第」

「加藤彰彦 明治大学政治経済学部教授 配付資料(PDF)」


 
言いたいことは、出生率の回復のためには、
「伝統的家族」への回帰をするのがいい、ですよ。
わたしに言わせれば「因習・反動的家族観」への回帰ですね。
その根拠が「3世代同居家族の出生率は高い」です。
こういうことを言う人も出てくるだろうとは思っていました。

伝統的家族の高い出生力

「希望出生率1.8」を実現するためのレバレッジ・ポイントはどこか?


人間の子どもは育てるのにとても手間がかかります。
それゆえ母親だけでなく、周囲の人たちの協力が必要になります。
3世代同居の出生率が高いのは、祖父母など子育てに
協力する家族がいるからということです。

「3世代同居と出生率の関係」

子育てに協力する人がたくさんいることが本質なのであって、
「伝統的な家族」は本質的ではないです。
祖父母でなくても子育てに協力する人がいればよく、
それを解決するのは、政治や社会の役目です。

具体的には仕事と育児の両立をしやすくする
職場環境の整備や、保育所の充実ということです。
出生率を回復させた国は、どこもこのような
政治や社会による基盤整備によって解決を図っています。


加藤彰彦氏の資料では、こうした考察はしていないようなのですね。
親世代との同居は、ジェネレーションギャップがあって
なかなかうまくいかないという、現実問題についても言及がないです。
自分たちが信奉する因習・反動的な家族観の復活に都合がよいので
「3世代同居の出生率」を持ち出したという感じです。

「3世代同居の住宅政策」
「3世代同居の住宅政策(2)」

「レバレッジ・ポイント」と称して「伝統的家族感を保持
(とくに多子志向の女性に照準)」などとあるのが怖いです。
女性に「伝統的家族観」に従わせようという
圧力につながることは、容易に想像できることです。
具体的には、夫の両親と暮らす「嫁」を増やそう、ですよ。


「レバレッジ・ポイント」は「相対的に低学歴の若年層」ともあります。
高学歴層ほど出生率が低いのは、キャリアのために
専門的な仕事をする時間が増えるので、
子育てにリソースが割けないことに加えて、
結婚や出産が遅くなることがあるからです。

そうした現状をかんがみて、高学歴層のかたたちにとっても、
いかにして子どもを産み育てやすい社会を実現するかが、
政治がなすべき課題ですし、出生率を回復させた国は
そうやって解決を図ったのでした。

ところが「出生率回復のために伝統的家族の復活」なんて
臆面もなく主張するかたであれば、「女に学問をやらせないのがいい」
などと言い出す可能性が考えられるわけです。

教育の機会均等の整備は、個人の権利のためにも、
格差社会の是正のためにも、社会全体の文化水準や
技術インフラの維持のためにも、ぜひとも必要なことです。
21世紀の社会でとくに力を入れるべきところとされているくらいです。
そこへ持ってきて、教育水準の低下を推進しだしたら、
時代の逆行もはなはだしいというものです。

「格差が経済成長を阻害」
「格差是正のための対策」


さらには「ターゲットは、地方在住の低学歴・
低所得の若年層」ともあって、ここでも嫌な予感がしてきます。
なぜ低所得の若年層が親世代と同居しているかといえば、
経済的理由で自立が難しいからです。

それを「伝統的家族観」を保持しているから、などと考えるかたであれば、
「出生率回復のため」と称して、あえて若い人たちを
貧しいままにしようなんて考えて、貧困問題の放置や拡大を
やり出すのではないか、ということも考えられます。


かかる「伝統的家族観」の信奉者の考えるように
「少子化対策」を進めたら、きたるべき未来は、
恐ろしい格差社会になると思います。
そして貧困の底辺で喘ぐのは、とくに女性に多くなることになります。
こんな社会で子どもが増えるかどうか怪しいです。

仮に増えたとしても、出生率が高いのは貧困層ですし、
社会全体には格差が広がっていますから、まともに食べていくことも
できない子どもたちであふれることになります。

国が貧しくなっていることに加えて、教育水準も落ち込んでいますから、
社会を支える文化や技術のインフラも崩れていることになります。
社会的にも技術的にも、貧困に喘ぐ子どもたちを
救済することが困難になっているでしょう。

それこそ下水道で暮らす「マンホール・チルドレン」と呼ばれる
子どもがたくさんいる、今のルーマニアのようになりそうです。

「お国のために産め」の末路」

posted by たんぽぽ at 22:10 | Comment(2) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
出生率が仮にV字回復したとして、雇用は確保されるのかな…非正規雇用しかないんじゃないのか。暗たんたる未来です。
国が子育て支援できないから伝統的家族に頼るしかないという財政状態では、富の再分配もされず格差は広がる一方ですね。
しかも、じーちゃんばーちやん世代が豊かなのって今だけで、もうムリですね、これからは貧困ですよ。

そもそも伝統的家族って何?三世代同居ってことなのだろうけど、なら、そういえばいいのに。「伝統的」というこの言葉は、婚外子差別撤廃や夫婦別姓の時もそうだけれど、反対する時にていよく使われ、彼らにとってのノスタルジーや幻想を表現したエモーショナルな言葉だと思います。ナイーブだわ…

Posted by うがんざき at 2015年12月10日 12:04
このエントリにコメントありがとうございます。

>出生率が仮にV字回復したとして、雇用は確保されるのかな

国が貧しくなっていくのですから、雇用は作れないと思います。
そもそもが「出生率回復のために、若者は貧しいほうがいい」
などと考えて、雇用の保証をないがしろにしているでしょうし。

>国が子育て支援できないから伝統的家族に頼るしかないという財政状態では、
>富の再分配もされず格差は広がる一方ですね

それ自体が、富の再分配の否定であり、格差の固定や拡大を作り出しますね。

>じーちゃんばーちやん世代が豊かなのって今だけで、

いまでさえ、高齢層の生活保護受給率はどんどん高くなっているし、
高齢層どうしの格差が問題になっていますからね。
将来はさらなる少子高齢化で高齢層を支えきれなくなって、
貧しい高齢者が多くなることが予想されます。


>そもそも伝統的家族って何?

「伝統」とつけると聞こえが良くなると思っているだけで、
実際は「伝統」でもなんでもないですね。
例の「家族思想信仰」なら高度経済成長期に作られたものですし。
「因習」とか「反動的」と言うほうが妥当だと思います。

>彼らにとってのノスタルジーや幻想を表現したエモーショナルな

まったくそうだと思います。
彼らの家族イデオロギーというだけでしょうね。
Posted by たんぽぽ at 2015年12月10日 21:31
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