マクロ経済の教科書に書いてあると思います。
安倍政権はデフレ脱却のために金融緩和を進めたことで、
実際に実質賃金は下がり続けているのでした。
「金融緩和の中間層への波及」
「アベノミクス」によって実質賃金が下がる原因について、
「教科書的」ではないより詳しいことを
安倍首相がみずから語っていたので、見てみたいと思います。
「安倍首相、妻がパートで働き始めたら「月収25万円」 例え話が波紋」
(はてなブックマーク)
「ご指摘の実質賃金の減少についてでありますが、景気が回復し、
そして雇用が増加する過程において、パートで働く人が増えれば、
一人当たりの平均賃金が低く出ることになるわけであります。
私と妻、妻は働いていなかったけど、景気が上向いてきたから
働こうかということで働き始めたら、(月収で)私が50万円、
妻が25万円であったとしたら、75万円に増えるわけでございますが、
2人で働いているわけですから、2で割って平均は下がるわけです」
実質賃金の低下は「非正規雇用で働く女性が増えたから」ですよ。
正規と非正規の年収格差の大きさは何度も示していることです。
非正規雇用という低賃金労働者が増えたことによって、
全体の賃金が下がったということです。
「M字カーブ緩和の原因」
「男女&雇用形態別年収分布」
正規・非正規の年収曲線。雇用形態の差と同時に,正社員のジェンダー差にも注目。これ,調査法の学生さんに計算させたんだけど,憤りの感想が多かった。 pic.twitter.com/XC6tgbqBwN
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2013, 12月 23
非正規雇用に回されるのは、女性のほうがずっと多いです。
よって実質賃金の低下は、年収のジェンダー格差の反映でもあります。
「女性の非正規は見えない?」
「女性の非正規は問題ない?」
「男女別正規・非正規雇用の数」
2014年11月の雇用労働者の組成図。正方形の面積による表現。 pic.twitter.com/B5LBD8a2Is
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2014, 12月 28
アベノミクスは「正規雇用は原則男性のもの、
女性は非正規雇用を埋める安くてていのよい労働力」という、
従来の構造へ回帰していることが、ここからもわかるということです。
「男女平等指数2010年」
>男女の賃金格差が、若干解消された
正規雇用が減り、男性も非正規雇用が増えたせいでしょうね。
景気対策や雇用対策が奏功して正規雇用が増えたら
もちろん男性から先に正規雇用されることになり
賃金格差が再び増える予感。
(2010年10月21日 09:02)
金融緩和で雇用が増えるのは、インフレによる実質賃金の低下で、
企業にとっての雇用のコストが下がるからですが、
そのぶんを企業は、女性を非正規雇用という
「安上がりの労働力」とすることで埋めているということです。
デフレのときは非正規雇用にもなれなかった女性を
非正規雇用にしたことが「金融緩和によって増やした雇用」です。
2015年のジェンダーギャップ指数は、「経済」分野のうち
「同一賃金同一労働」のジェンダー格差が、とくに広がったのでした。
このようなジェンダー格差の拡大が実質賃金の低下に現れている
もしくは実質賃金の低下がジェンダー格差を示している
ということが、はっきりしてきたみたいです。
「収入のジェンダー格差」
経済学の入門的な本を見ると「金融緩和によって
インフレを進めると貨幣価値が下がって物価が上昇するから
実質賃金が下がる」と書いてあると思います。
(たとえば以下のサイトにそのあたりが解説してあります。)
「「実質賃金低下」の正体――“反アベノミクス”に反論」
「「実質賃金低下」の罠にハマるな――“反アベノミクス”に反論」
「アベノミクス」による実質賃金の低下は、
そのような物価の上昇の影響もあるでしょうけれど、
それよりも正規雇用と非正規雇用とのあいだの格差、
もしくはジェンダー格差による影響が大きそうだということです。
総理大臣がみずからそれを語ってくれたわけです。
今後、失業率が下げ止まって一般市民の生活が
安定してきて消費が伸び始めたとしても、
賃金のジェンダー格差という構造上の問題がある以上、
それを積極的に解消しないかぎり、物価の上昇に賃金の上昇が
追いつかない可能性もあるだろうと思います。
「日本はどうして賃金が上がらないのか」
終身雇用制と年功序列が完全にはなくならず、
さらに正規雇用と非正規雇用が固定化したため、
低賃金の労働力が生産性の低い分野に流入した。
日本は若者や女性を虐げ、外国人労働者を排除してきたため、
時代の変化とグローバル化に完全に乗り遅れてしまった。
賃金格差が大きいせいで、そもそも消費が伸びないだろう、
という指摘もあるくらいです。
日本では、賃金が上がらないことから消費が増えず、
景気の先行きは見通せなくなっている。
企業は、少子高齢化が進む国内市場には投資せず、海外企業を買収している。
若者たちは正規雇用の指定席を求めて、リスクをとらなくなっている。
移民についても拒絶反応は相変わらずだ。
若者や女性を低賃金で働かせて得た利益は海外に投資され、
人口はどんどん減っていく。
付記1:
安倍首相は「妻がパートで25万円」を批判されて、
そんなことは言っていないと反論しています。
この反論自体はかなり苦しい言い逃れだと、わたしは思います。
ふつうに聞けば「妻がパートで25万円」と言っていると思います。
「安倍首相が反論「妻がパートで25万円とは言っていない」」
(はてなブックマーク)
正規雇用に限っても、賃金のジェンダー格差は歴然としています。
弁明のように「妻が25万」はパートではないとしても、
女性を「安い労働力」として使うから実質賃金が下がるという、
ここでの議論は大きく変わるところはないでしょう。
「男女の年齢層別年収分布」
正規職員・従業員の年収分布図。同じ正社員でもジェンダー差がすごい。女性の場合,働き盛りの正社員でも2割弱がワーキング・プア。4割以上が,奨学金返済猶予申請ラインの300万未満。 pic.twitter.com/J6fNjwbwPO
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2013, 11月 14
付記2:
「パートで25万円」と安倍首相が言ったことに対して、
「そんな高収入なパートはない」という批判が多く集まっています。
たとえ話でもパートの賃金の相場がわからない可能性もあるし、
これはこれで問題があるのだろうとは思いますが、
あまり重大なことではないと、わたしは思います。
より本質的で深刻なことは、実質賃金の低下はジェンダー格差の
反映であるということだと思います。