2016年02月27日

toujyouka016.jpg 20年で子どもの貧困率が2倍

1992年から2012年の20年間で、子どもの貧困率が2.5倍に増加、
全体の貧困率も20年間で2倍になっているという調査があります。
山形大人文学部の戸室健作准教授の研究です。

「「子どもの貧困」倍増の背景は? 大人の18%超が生活保護以下の世帯収入」
(はてなブックマーク)
「子育て貧困世帯 20年で倍 39都道府県で10%以上」
(はてなブックマーク)

全国の子育て世帯の貧困率を示す
「子どもの貧困率」は1992年に5.4%だったが、
2012年には13.8%と、この20年で2倍以上に拡大していた。
子育て世帯に限らない全国の貧困率も、
1992年の9.2%から、2012年には18.3%と倍増していた。

 
>貧困率の計算方法

この調査は特殊な計算方法をしていて、
生活保護の受給対象以下(最低生活費以下)の収入しかない
世帯を「貧困」として、その割合を調べています。
最低生活費は都道府県によって異なるので、
これはかなり大掛かりな調査をしていると言えます。
そのぶんより実態に近づけたことになるでしょう。

戸室氏は、総務省が国民の就業実態を調べるため、
5年ごとに実施する「就業構造基本調査」のデータなどを分析。
生活保護費の受給対象となる最低生活費以下の収入しかなく、
かつ17歳以下の子どもがいる世帯数の20年間の推移を調べた。
今回戸室准教授は、「生活保護の収入以下で暮らしている世帯」を
「貧困層」と考え、貧困率を算出した。
つまりこの調査結果は、「日本では全世帯の18.3%、子育て世帯の13.8%が
生活保護基準以下の収入で暮らしている」と言い換えることができる。

(通常の相対貧困率の計算方法は、中央値の半分未満の所得層を
「貧困」として、その割合を調べるというものです。)

基準を生活保護にしたことでわかりやすくなったとも言えます。
「子育て世帯の13.8%が生活保護受給水準以下」と
言われれば、イメージがわきやすいと思います。

戸室准教授は「生活保護は国公認の貧困の救済基準。
生活保護基準を使うことで、国との救済義務対象となる
貧困層が明確に分かり、生活保護が国の救済措置として
機能しているかどうかが可視化できる」


>都道府県別の貧困率

都道府県ごとの貧困率の図を見ると、
いちばん貧困率が高いのは沖縄で37.5%と群を抜いています。
続いて大阪21.8%、鹿児島20.6%です。
貧困率の高い県は九州と関西圏に多くなっています。

都道府県別子どもの貧困率
子供の貧困率(%)

貧困率が10%以下の県はちょうど10.0%の石川を入れて9県だけです。
全体的には北陸と中京圏に多くなっています。
そして残り38都道府県は10%以上の世帯が、
生活保護の受給水準以下の収入しかないことになります。

全体の格差は縮まっているというのですが、
それは貧困率の低かった県で急に高まっていることが原因です。
首都圏、中京圏の都市部で貧困率の上昇が大きかったのでした。
貧困が地方から全国に広がっていることになります。

しかし地域間の格差は年々縮まっており、
貧困率上位10位の県と下位10位の県を比較すると、
1992年の5.37倍から、2012年には2.35倍と縮小している。
戸室准教授は「貧困が改善したのではなく、むしろ貧困が地方特有の問題ではなくなり、
全国一般の問題に拡大してきているということ」と分析する。
1回前の調査(07年)と比較すると、埼玉、千葉、神奈川などの首都圏や
三重、静岡などの中京圏で全国平均を上回る貧困率の上昇がみられた


>貧困率の過去からの推移

過去からの推移も関心があるところだと思います。
2年前の論文(紀要)に過去の推移が出ています。

「近年における都道府県別貧困率の推移について
―ワーキングプアを中心に」


以下の表は全体の貧困率の都道府県別の推移です。
グレーで地を塗ったところは、全国平均より貧困率が高いところです。
いちばん下の2007年-1992年は増加ポイント数で、
下に波線が引いてある数値は、全国の上昇ポイントより高いところです。

都道府県別貧困率の推移

全国のデータを見ると、1997年が10.1%で2002年が14.6%であり、
この5年間で急上昇したということです。
1998年の金融危機が大きな原因だと思います。
2007年は14.4%で、いったん貧困率の上昇が頭打ちになっていたのでした。

2012年は18.3%で、ふたたび上昇したことになります。
リーマンショックが原因だろうと思いますが、民主党政権は貧困率を
下げる効果的な対策が出せなかったということでもあります。
このあと「アベノミクス」でどうなるかが問題だと思います。
2017年の調査結果がそれを示すことになるのでしょう。


>貧困率上昇の原因と対策

貧困率が増加する原因は、低賃金の非正規雇用の増加と分析します。
日本の正規雇用と非正規雇用の賃金格差は極めて大きいこと、
また女性のほうが多く非正規に回されるので、
正規と非正規の格差はジェンダー格差でもあることは、
すでに何度もお話していることです。

「収入のジェンダー格差」
「実質賃金の低下と男女格差」
「日本の非正規雇用はひどい」
「男は結婚で年収が増える」

「生きていく上での基本は働いて賃金を得ることですが、
現在労働者の約4割が非正規労働者です。
子育て世帯は就労世帯でもあるため、賃金の低下が子どもの貧困に直接関係します」。
つまり、「子どもの貧困」の増加は、子育て世代での
非正規労働者の割合が増えたことが原因だと指摘する。

さらに低賃金の非正規の労働者が増えることで、
正規雇用の賃金まで引きずられて下がることにもなります。
破格に低賃金の非正規雇用は、いわば労働力のダンピングですから、
当然のことと言えるわけです。

戸室准教授は、子どもの貧困をこのまま放置すれば
「地域経済が悪化し、負のスパイラルに陥る」と警鐘を鳴らす。
「(子どもの貧困の原因となる親世代の)低賃金の非正規労働者が
多く存在すれば、待遇のいい正社員の賃金も
ワーキングプアにひきずられて低下します。
企業は、同じ仕事をしてくれるのなら、
賃金2分の1や3分の1で済む非正社員を選ぶからです」

非正規雇用が低賃金に抑えられることによって、
消費が落ち込むので景気が回復せず、企業がさらに人件費を削減するという
悪循環におちいることも、すでにお話したことがあります。

「安倍政権・経済効果が薄い理由」
「賃金格差と低い労働生産性」

「今いる正社員に対してサービス残業を強いたり、
賃金カット、非正社員に置き換えるなど労働条件が悪化します。
すると地域がワーキングプアだらけになり、
賃金低下で消費意欲も低下し、物が売れなくなり、
ますます人件費がカットされ、さらに消費が低下し・・・
といった悪循環でどんどん地域経済全体が沈下していく」。


こうした状況を改善するには、政府が積極的に政策を打ち出す必要があります。
社会構造上の問題であり、市場原理に任せていては容易に変わらないし、
また変わらないから悪循環に陥っているわけです。

「地方独自で貧困世帯をなくすには限界があり、
国が率先して削減努力をする必要があります。
非正規労働活用を規制したり、最低賃金を上げたりする政策です」
戸室氏は「貧困率の高位平準化が進んでいる。
国が率先して対策を進めることが重要で、
生活保護費を全額国庫負担にすべきだ」と提言している



付記1:

中央値の半分未満の所得を「貧困」とするという
通常の計算方法による貧困率の年次推移を示しておきます。
(参照しているデータも異なっています。
こちらは「国民生活基礎調査」を使っていますが、
戸室健作氏の研究では「就業構造基本調査」を使っている。)

「貧乏の研究(11)」

相対的貧困率の推移


付記2:

生活保護受給率(捕捉率)の低さとその原因は、言わずもがなでしょう。

論文では、生活保護基準以下の収入で暮らす全世帯のうち
15.5%しか生活保護を受給していないという結果を明らかにしている。

生活保護基準以下の収入しかない世帯の多くが
生活保護を受給していない理由については、
生活保護は手元に7万円程度の現金や車などの資産を
持っていると受給できない場合があることや、
生活保護を申請させないことで財政負担を避けようとする
自治体の「水際作戦」の影響が考えられるという。


posted by たんぽぽ at 21:37 | Comment(6) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
まずは、

>山形大人文学部の戸室健作准教授

と、その助手の皆さまに敬意を。
これだけ綿密に、よく全国規模でお調べ下さいました。
興味深いような、恐ろしいような結果ですね。

もう4〜5年前になりますか、小学校の給食料金の未払い問題を思い出しました。
あの時は、『払えるのに払わない』(モラルの問題)でしたが、実はもうその頃から
すでに貧困は根ざしていたのかも知れないな…と、何となく感じました。

今話し合っている性産業のエントリにも通ずる部分かも知れないですが、

欧米でもアジアでも、決して豊かとは言えない経済状況のなかでも、
男女の収入差の是正や貧困者への支援対策にリソースをさいている。
あるいは、模索している。

日本は、何でも『予算がない』で済ませて良いのかな?

弊害はすでに、社会的弱者の方からじわじわ来ているのに。
Posted by あやめ at 2016年03月05日 01:46
あやめさま、こちらにコメントありがとうございます。

>これだけ綿密に、よく全国規模でお調べ下さいました。

大掛かりな調査だったと思います。
基準を生活保護受給以下としたところが、発想の転換だと思います。

>小学校の給食料金の未払い問題を思い出しました

このお話はわたしは、あまり詳しく情報を追ってなかったのですが、
当初から貧困の問題だったのではないかと思います。


>日本は、何でも『予算がない』で済ませて良いのかな?
>弊害はすでに、社会的弱者の方からじわじわ来ているのに

「予算がない」ではなく「理解がない」だろうと思います。
社会扶助費のGDP比が日本はきわだって低いことが、
それを示していると思います。
https://twitter.com/ohnojunichi/status/410510860558155778

格差は世界レベルで問題になってきて、
諸外国は対策を講じようとしているのですよね。
このままいけば人口問題に続いて格差問題でも、
日本は取り残されることになりそうです。
Posted by たんぽぽ at 2016年03月05日 16:07
>社会扶助費のGDP比が日本はきわだって低い

リンク先資料のご紹介、ありがとうございます。
『女性の性を財源で語る』でも引用されている統計ですね。

(´-`).。oO (本当に、たくさんの人が、いろんな指数を出して研究してくれてるんだなあ…)

そう、あるところにはあるんですよね。出したくないだけで。

>小学校の給食料金

あっ、給食”費”ですね。
(そりゃ意味は通じるけど、なんだ給食料金ってorz)

「りっぱなお家に住んでいて」「車もあって」「子供にいくつも習い事をさせている」「海外旅行に行く」
ようなお家なのに、給食費を払わない親が増えている、っていう話だったんですよ。
私の周りにはいなかったのですが、報道ではしきりに、

「給食費〜?いいのよあんなの払わなくて〜、払わないなら来るな!なんて言わないでしょ〜?」
「払ってないから、うちの子だけ給食無しとか、どーせできないわよ〜」

みたいなお母さん(だけの?)の声を取り上げていたんです。
滞納者が多い学区では、予算が逼迫して給食のメニューが組めなくなっているとか…
その時は、『まったく!日本人のモラルはどーなっておる!けしからん!!』っていう
論調だったんですよね。

給食費の徴収は、時に大人の事情の為に、子供に切ない思いをさせるもの。
身に覚えがあるものとして、関心を持って見ていたんです。
(あれ、月々引き落としとかできないんですかね?あの集金袋持たせるの、かわいそうですよ…
そもそも、子供に現金を持たせるの危ないし。←強盗とか)

あの当時のも、あの中には何割か、少なからぬお家が学校に言えない事情を抱えていたのかな…?
と、ふと思い出したことでした。※

※今書いてて思ったんですけど、本当に気がついて無かったのかも。
家計が逼迫し始めてることから、無意識に目を逸らしていたのかも知れないな、と思いました。
給食費、せいぜい2〜3000円くらい”払わなくても”大丈夫!って言いながら、

(((給食費2〜3000円を払うと、ちょっと苦しい…あれ?ウチ、ひょっとしてヤバイかも…?
いやいや、そんなたがが2〜3000円くらいで…いやいや…まさか…)))

って言ってる内に、気がついたら押しも押されぬ貧困でした、みたいな…。

現在の『日本、スゴーイですね!!俺たちの国日本!』っていう内向きの噴き上が方を見ていると、
ついそんな想像が…
Posted by あやめ at 2016年03月05日 18:35
あやめさま、またまたコメントありがとうございます。

>>社会扶助費のGDP比が日本はきわだって低い
>リンク先資料のご紹介、ありがとうございます。
>『女性の性を財源で語る』でも引用されている統計ですね。

それに関してこんな事実の指摘があります。
https://twitter.com/TrinityNYC/status/704372795753553924

アメリカ合衆国も公的扶助のGDP比はOECD平均より
ずっと低いのだけれど、民間の慈善事業がとても充実しているのですよね。
(民間が福祉の肩代わりというのは、アメリカらしいかも)
そこまで入れると、日本は問題なく最下位になりそうです。


>滞納者が多い学区では、予算が逼迫して給食のメニューが組めなくなっているとか…
>その時は、『まったく!日本人のモラルはどーなっておる!けしからん!!』っていう
>論調だったんですよね

5年前の3.11大震災以降増えてきたみたいです、給食費の滞納。
http://camatome.com/2013/11/kyushoku-tainou-gakkou.php

やはり当初から貧困で払えない人が、結構いたのではないかと思います。
(払えるのに払わない人も、それなりにいたのでしょうけれど。)

奨学金の返済が顕著だけど、モラルの問題ということにして
バッシングする人は結構いるので、モラル批判に対しては、
わたしは用心深く構えるようにしています。
Posted by たんぽぽ at 2016年03月06日 21:28
たんぽぽさま

お返事ありがとうございます。

>アメリカ合衆国も公的扶助のGDP比はOECD平均よりずっと低い

そう、そこ気になってたんですよね。
(貧困層が少ない?)
(民間の支援団体の力が強い?)
(それとも軍事費に回っちゃってる?)
このどれかだと思ってました。やっぱりね。

国からの助成金がほとんど必要無い、ということなんでしょうか。
フォードが倒産したとか、実業界にいろいろあるにしても、民間の支援団体には、
強力な経済基盤があるということですね。

とは言え、アメリカも不況の影響が隠せなくなってきたようですし、これからどうなるか…。

それにしても、日本…
(結局、Oh!モーレツぅ!か、欲しがりません勝つまでは。以外の選択肢がないんですねー)

Posted by あやめ at 2016年03月06日 22:16
あやめさま、コメントありがとうございます。

>国からの助成金がほとんど必要無い、ということなんでしょうか。
>フォードが倒産したとか、実業界にいろいろあるにしても、民間の支援団体には、
>強力な経済基盤があるということですね。

わたしも詳しくないので、そこまではわからないです。
一定の助成金くらいはあるのではないかと思いますが。

「民間が福祉の肩代わりというのは、アメリカらしい」と
わたしが思ったのは、「市場経済重視」というところですね。


もうひとつ象徴的なデータがこれだと思います。
これは意識の問題だけど、日本は圧倒的に高いのですよね。
アメリカ合衆国も高いのですが、民間の支援が充実しているあたり、
「国や政府は助けなくていいが、民間が助ければいい」
という考えではあるのだろうと思います。

行政も民間も本当にだれも助けるべきでないと思っているのは、
日本人ばかりなりなのかもしれないです。

https://twitter.com/annzu57/status/391899509174722560
========
日本の貧困対策がどれほど貧困かよく分かる数字
自力で生きていけない人たちを国や政府は助けるべきだとは思わないと言う人
日本 38%
アメリカ 28%
イギリス 8%
フランス 8%
ドイツ 7%
中国 9%
インド 8%
========
Posted by たんぽぽ at 2016年03月07日 22:06
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