2016年02月28日

toujyouka016.jpg 世界人権宣言と家族条項

2月21日エントリで、同姓強制を合憲とする2015年12月16日の
最高裁判決
は、立憲主義否定の自民党の改憲案に歩み寄り、
2013年の婚外子差別の違憲判決をも否定しかねない、
危険をはらんだものだという記事を見てきました。

「同姓強制の合憲と家族思想」

「家族のかたち 最高裁がなぜ踏み込む」
「家族のかたち 最高裁がなぜ踏み込む」(全文)
(はてなブックマーク)

ここで自民党の改憲案にある「家族条項」について、
あの八木秀次氏がすさまじい見解を示しているのでご紹介します。

 
この「家族条項」の創設を主張している保守派の
八木秀次・麗沢大教授(憲法学)は「この言葉は、
世界人権宣言にもあるグローバルスタンダード。
最高裁の判決は、家族の意義を強調し、画期的だ」と評価する。
確かに世界人権宣言は、家族が国に保護される権利をうたうが、
家族相互の扶助義務は掲げていない。

自民党の改憲案にある「家族条項」も、八木秀次の「家族」も、
「家族思想信仰」にもとづく「正しい家族」のことです。
それは国家や社会にとって望ましい「家族のかたち」を
「あるべき」として、国民全体に強要することを意味します。
国家のために家族があり、そのために個人がいるという考えです。

世界人権宣言でうたっているのは、どのようなかたちの
「家族」であっても、国家や社会は法的、社会的な保障を
しなければならないというものであり、
それは「家族の多様性」の尊重するものだと言えます。
個人のために家族があり、そのために国家があるという考えです。

自民党の改憲案や八木秀次の「家族のありかた」は、
国家によって家族は管理されるべきという思想であり、
それは共産主義国や全体主義国の家族観にありがちです。
これは人権尊重とは真っ向から反することであり、
世界人権宣言でうたう家族の尊重を真っ向から否定するものです。

「共産主義国の反同性愛」
「共産主義国の反同性愛(2)」


八木秀次が引用しているのは、世界人権宣言の16条3項です。
ここに「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位」とあります。

第十六条
3 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、
社会及び国の保護を受ける権利を有する。

この条文はあとに「社会及び国の保護を受ける権利を有する」とあります。
これは個人が生活する基盤としての「自然かつ基礎的な集団単位」
という意味であり、個人が生活のために「社会及び国の保護を
受ける権利」を認めるということになります。

自民党の改憲案や八木秀次が信じているような
国家が管理するための「自然かつ基礎的な集団単位」でもないし、
「自然かつ基礎的な集団単位」と称して、国家が「あるべき」を
押し付ける対象でないということです。


世界人権宣言で、ほかに「家族」や「家庭」が
出てくる条項には、以下のものあります。
これらを見るとどれも「個人の権利を保障するための家族の保護」を
うたったものであることは、明らかだと思います。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html
第十二条
 何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、
ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。
人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html
第十六条
1 成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも
受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。
成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
第二十三条
3 勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して
人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正かつ有利な報酬を受け、
かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。
第二十五条
1 すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、
自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利
並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他
不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。


だいたい自民党の改憲案のような国家による家族管理が
「グローバルスタンダード」なら、なぜ国際社会は
選択的夫婦別姓を認め、婚外子差別を廃止し、
同性結婚も認めようとしているのかと思います。
なぜ選択的夫婦別姓を認めない日本は女子差別撤廃委員会から
勧告を繰り返し受け、国際的「ガラパゴス」になるのかと思います。

「民法改正・国連の勧告の歴史」

自民党の改憲案や八木秀次の信奉する「家族思想信仰」こそ
グローバルスタンダードと世界人権宣言に真っ向から反する
「人権否定」であることにほかならないです。

自民党の改憲案はと世界人権宣言とでは
「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位」という
同じ文言が入っているだけ、ということになるでしょう。
実は「世界人権宣言に合致している」と言うために、
自民党の改憲案にも同じ文言を入れたのではないかと想像します。
その「言いわけ」を八木秀次は使ったのでしょう。


世界人権宣言は、つぎのように16条と25条とで
婚姻の自由、平等と婚外子差別の否定をうたっています。
これらは選択的夫婦別姓を認めず、婚外子の相続差別撤廃に反対した
「家族思想信仰」を反人権であるとして認めないということです。

第十六条
1 成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも
受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。
成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
2 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。
第二十五条
2 母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。
すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を受ける。


フランスで家族政策が充実する理由として、
「家族は大事」という考えが浸透していることがあります。
この「家族は大事」というのは、どのような家族であっても
政府は保障をするという、世界人権宣言のスタンスに
沿ったものになっていると言えます。

このフランスの「家族は大事」という考えをみて、
日本の「家族思想信仰」の信奉者たちが、「自分たちの信仰に
沿うよう家族のありかたを決めることが大事ということだ」と
曲解する人が出てくる恐れがあると、わたしは言ったのでした。
世界人権宣言ですでに曲解している人がいたわけです。

「独善的な「家族は大事」」


参考記事:

世界人権宣言を始め国際法における家族についての解説記事。

「人権と家族」

posted by たんぽぽ at 22:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - 世界人権宣言と家族条項 web拍手
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック