NPO法人フローレンスの駒崎弘樹氏の記事です。
「保育園落ちた日本死ね」の記事に影響を受けて書いたものです。
「「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由」
(はてなブックマーク)
保育所が増えない大きな理由として、次の3つを挙げています。
1. 予算の壁
2. 自治体の壁
3. 物件の壁
ここでは1.の予算の問題を見ていくことにします。
1.はもちろん保育のための予算が不足していることです。
その不足は、保育士の給与が低いことが大きいです。
このあたりは11月28日エントリでお話したことがあります。
「保育士の給与はなぜ低い?」
「現役保育士の「衝撃給与」暴露相次ぐ 「命を預かる仕事」が手取り10万円台でいいのか?」
フルタイムで働く保育士の給与は、24歳2年目で手取り約11万4000円、
28歳6年目で手取り約14万円ということだった。
「いくら稼げる? 129職業の年収ランキング」
保育士のかかる低賃金は「専門知識の必要な教育者」という
認識が社会の中にとぼしく、「子どもと遊ぶだけで、
特別な知識もいらない」くらいに思われていることにあります。
「保育士の給与はなぜ低いのか 待機児童問題から考える」
保育士を教育の職員としてみている国では学校教員との
給与格差はありませんが、日本は福祉職なので、格差が大きいと言えます。
それに『ただ子どもと遊んでいるだけ』という保育士に対する誤解もあります」
それにもかかわらず、『子どもと遊ぶだけで、特別な知識もいらない』と
認識している人がいるなど、社会的評価が必ずしも高くありません」
保育士の給与が低いゆえに、保育士が不足することになります。
保育士を必要な人数だけ採用できないと、
法令違反で開園できなくなるという制限があります。
保育士の不足は保育所の数を減らすのに、大きく関わることになります。
保育所は一人でも保育士が欠けたら、法令違反で開園できません。
よって、「保育士を採用できた数」が開園数上限になります。
予算を3400億円投入すれば、保育士の給料を平均10万円増やせて、
全産業平均並みになると、駒崎弘樹氏は算出しています。
月額1万円を上げるのに340億円、全産業平均値まで上げるのに
3400億円を予算として積みませば、
保育士処遇は改善し、開園スピードは大きく早まります。
日本は欧米の民主主義国と比べると、
家族関係一般に対する公的支出が少ないです。
家族関係社会支出の対GDP比を見ると、日本は1.35%です。
イギリス、フランス、スウェーデンは3%以上であり、
これらと比べて日本は半分以下となっています。
日本はそもそもが子どものためにお金を使わない国ということです。
「5 諸外国との国際比較 諸外国における出生率の状況」
日本はOECD加盟国の中では、高齢者向け公的支出の割合が高く、
家族や子ども向けの公的支出が低くなっています。
高齢者のために財源がかなり取られていて、
子ども向けに財源が振り向けられないということです。
「福祉のバランス」
「先進諸国における家族・子供向け公的支出と
高齢者向け公的支出の対GDP比率(2003年)」
「高齢化対策に対する少子化対策の相対ウェイトと出生率」
日本のこのような高齢者偏重の福祉予算配分は、
高齢層の人数が若年層に比べて多いことに加えて、
投票率が高いので票になるからと、
ここでは簡単に理解しておくことにします。
高齢者1000万人に3万円配ること(つまりは3600億円)を
ポンと決めちゃえるわけなので、出そうと思えば出せるのです。
投票率が低いから、我々子育て世代の優先順位が、低いだけです。
公立保育園が4つ、駅型の保育園、その他小さい私立がいくつか、
という感じでした。
が、今は、私立の認可保育園が12個もできました。
公立と同じ料金で利用でき、オリジナルでフレキシブルなサービスがあるのです。公立より遅くまで預かってくれます。
ただし、保育士は大半をパートアルバイトで回して人件費を節約しています。
公立保育園の保育士=公務員の給与とはえらい違いです。
現実には、多くの民間が参入してくれるから待機児童は減る、親は助かる、ということにもなります。
しかし保育労働者の低い給与に依存しなければ、民間参入は不可能です。
認可が増えれば増えるほど、ますます保育士の平均給与が下がっていく、というジレンマが起こります。
今の国の問題が浮き彫りになりますね。
>保育士は大半をパートアルバイトで回して人件費を節約しています。
>公立保育園の保育士=公務員の給与とはえらい違いです。
>現実には、多くの民間が参入してくれるから
>待機児童は減る、親は助かる、ということにもなります。
>しかし保育労働者の低い給与に依存しなければ、民間参入は不可能です
前にもおっしゃってましたね、
公立と私立では保育士の給与が格段に違うというお話。
保育士全体の給与水準を引き上げるニア、
私立の保育園の保育士の給与を支える必要があり、
そこに国からの助成がいることになりそうですね。
>保育士のお仕事
普通に考えたら乳幼児も人間なんで、食事も必要としていれば下の世話も発生するはずなんですけど…その辺って省みられてないんでしょうね。
保育士はもちろんのこと、親(特に母親)の苦労も軽く見られていそうです。
「かわいいでしょ?」で切断されて終わり、みたいな。
(乳幼児がかわいいこと、基本的に子どもは成長していって手がかかる期間が限られていることなどから、介護以上にケアの苦労が省みられてないような気がします。何となくですが)
個人的には高齢者向け公的支出と子ども向け公的支出を単純比較するのはあんまり好みじゃないんですが
(日本くらいケアを家族中心に考える社会だと、高齢者向けの福祉の削減は現役世代に跳ね返ってくる可能性が高いので。というか現在進行形でそんな気配なので)、
日本と同じく「母性」信仰が強い先進国も日本と大差ない相対ウェイトで、同様に少子化に歯止めがかけられていないところを見ると、色々考えますね。
それらの先進国では高齢者の福祉「は」手厚いがゆえに、記事内のリンク先にあるように、「フリーライダー」感が強くなりそうです。
このエントリにコメントありがとうございます。
>保育士はもちろんのこと、親(特に母親)の苦労も軽く見られていそうです。
>「かわいいでしょ?」で切断されて終わり、みたいな。
「母性神話」や「三歳児神話」も軽視に貢献しているかもしれないです。
「母性本能があるから、母親は子どもが好きなはずで
子育てに負担はないはずだ」くらいに思われて、
苦労を軽く見られるのではないかということです。
どうやっても「本能」を持ち出せない介護との違いにもなるでしょう。
>個人的には高齢者向け公的支出と子ども向け公的支出を
>単純比較するのはあんまり好みじゃないんですが
この議論は気をつけないと、「子どもか高齢者か」の
「二者択一」になったり、世代間対立になったりしそうですね。
>日本と同じく「母性」信仰が強い先進国も日本と大差ない相対ウェイトで、
>同様に少子化に歯止めがかけられていないところを見ると、
単純に子どもの福祉の予算だけ取り上げるよりは
出生率の低下の原因をよく説明するので、
「福祉のバランス」論は有効なのではありますが。
「福祉のバランス」が悪い国は、高齢者が子どもから
奪っているのではなく、財源を高齢者福祉にだけ回して
子どもの福祉には回さないということなのでしょう。
「母性」信仰の強さと子どもの福祉との関係と言えば、
こんな調査もありますが。
http://lacrima09.blog.shinobi.jp/Entry/1186/
…流石に、介護にまで「本能」を持ち出す人は少ないですかね。
ただ、「男性より女性の方が介護に耐える」ことを「生物学的特性」だと思っている人はかなりいそうです。
>偽の対立
別に、必ずしも高齢者福祉と子どもの福祉がトレードオフになったりはしませんものね。
福祉を必要とする違う属性同士が対立するの、このご時世だと尚更良くないな、とつい警戒してしまいます。
あたしもたんぽぽ様と同じく、「福祉のバランス」の悪さは高齢者が悪いのではなく、財源を子どもの福祉に回さない政府が問題だと思ってます。
>調査
面白い調査があるんですね…!
「誰が最初に世話をするべきか」の考えがこんなに違うというのはあたしからしても結構カルチャーショックです。
でも、いっそこのくらい思い切った方が良いのかもしれませんね。
家庭は「愛情」はあるでしょうけれど、組織としては小さい分純粋な危機管理面ではリスクが大きいと言えなくもないですから。
>「福祉のバランス」の悪さは高齢者が悪いのではなく、
>財源を子どもの福祉に回さない政府が
子どもの福祉に財源を回さないのは、
「オンナコドモのこと」を軽視するのもありそうです。
高齢者福祉は多くの為政者にとって「近い将来」だったり、
人によっては「現役」だったりするので、
おのずと重視するということだと思います。
そういえば「子ども向け福祉>高齢者向け福祉」に
なっている国がひとつもないですね。
ほぼ等しい国はいくつかありますが。
>面白い調査があるんですね…!
ご覧いただきありがとうございます。
こんなに顕著に差があるとは、わたしも思わなかったです。
日本は「家族中心のケア」の現われであり
「母性信仰」の影響が透けて見えますね。
スウェーデンは子どもの福祉が発達しているので、
それを利用するのが当たり前という認識になっているか、
あるいは子どもの世話は政府の役目という意識があるから、
子どもの福祉が発達するのかもしれないです。
同じ調査でもっとたくさんの国が出ている表です。
(「家族」と答えた人の割合しか示されていないけれど。)
https://twitter.com/tmaita77/status/700270106702540800
欧米の民主主義国は50-60%程度、
50%以下は東ヨーロッパの旧共産圏に多いです。
(旧共産圏は割合の高い国も散見されるけれど。)
これらと比べると、日本の76.5%は高いと言わざるをえないです。
北ヨーロッパの国ぐには全部20%以下、
子どもの福祉や権利意識の充実を感じさせます。
なっている国がひとつもない
「子ども」は年齢幅に制限がありますけど、「高齢者」と一言で言っても年齢幅は結構凄いですからね。
「高齢者」の方は医療面での福祉を「子ども」より必要としますし。
無論、日本などのような国ではたんぽぽ様が仰るような理由が大きいと思いますが。
>調査
改めて見てみると、イタリアが載ってないですね。
もしデータがあったらどの辺になったのかな、とか考えちゃいます。
>「子ども」は年齢幅に制限がありますけど、
>「高齢者」と一言で言っても年齢幅は結構凄いですからね。
>「高齢者」の方は医療面での福祉を「子ども」より必要としますし。
子どもの福祉予算より高齢者の福祉予算のほうが
膨らむ余地が大きいということはありそうですね。
>日本などのような国ではたんぽぽ様が仰るような理由が大きいと思いますが
「子ども向け福祉<<高齢者向け福祉」になっているのが
「いかにも」な国ばっかりなのですよね。
この「福祉のバランス」論の有効性を示しているとも言えますが。
>イタリアが載ってないですね。
イタリアがないのは、わたしもちょっと残念に思っています。
日本より割合が高い可能性もあるかもしれないです。