OECDがジェンダー別の大学進学率の国際調査を示していました。
ほとんどの国において大学進学率は「女子>男子」となっています。
はっきり「女子<男子」となっている国はほぼ日本だけです。
この問題にある程度以上くわしいかたでしたら
ご存知のことだと思いますし、わたしのブログでも何度も
お話していますが、今回はこれを見てみたいと思います。
https://twitter.com/ShotaHatakeyama/status/707195393180901376
韓国やイタリアの大学進学率も、はっきりと「女子>男子」です。
日本以外で「女子<男子」の国はチェコ共和国とトルコですが、
これら2国は女子と男子はほぼ同率と見なせる程度の差です。
「大学生は女子学生のほうが多い」が、現在の国際社会の常識です。
男子学生のほうが多いのは、日本だけの例外的な現象と言えるでしょう。
日本は全体の進学率も調査対象国の中では低いほうです。
調査対象国の中でもっとも進学率の高い韓国と
図で示される位置が大きく異なることになります。
大学進学率の調査は、日本と韓国は似たり寄ったりという
いつもの結果には、ぜんぜんなっていないということです。
OECDの学力試験「PISA」を利用した、
学力のジェンダー差に関する調査がありましたが、
女子生徒のほうが男子生徒より成績がよいという結果でした。
これは女性の行動が抑圧される社会でも見られる結果でした。
「女子は男子より成績がよい」
ジェンダー平等が浸透している国なら、女子生徒は大学への進学に
対する障壁が少ないことが考えられます。
ジェンダーバイアスがかからない状態では、女子のほうが男子より
大学進学率が高くなるということなのでしょう。
日本の大学進学率だけがきわだって「男子>女子」ですから、
日本特有の教育におけるジェンダー問題を考えることになります。
ひとつの大きな要素は経済的事情があるでしょう。
日本は給付型がほとんどないという奨学金が貧しい国で、
それでいて大学の授業料が高い、OECD加盟国唯一の国です。
国立大学の授業料は年々高騰を続けています。
日本は大学進学するためには、諸外国と比べて
ずっと経済的負担が大きい国ということになります。
「学費は高いわ援助はないわ・・・日本の高等教育@OECD」
(横軸:奨学金、縦軸:授業料)
社会でお偉いポストについてる人が「俺らの頃は大学の授業料なんか自分で稼いだもんだ」と言い出したときのためのグラフを置いときますね。60歳のおっさんが大学時代の学費は物価も考慮すると現在の8万円です。月に7千円稼いだと自慢してるのです。 pic.twitter.com/mPa5KGhEsU
— 小迎ちゃんパパ 18歳 (@nakamukae) 2014年10月16日
そうなると教育の経済的リソースを、息子に優先させて
娘には使わないようにする家庭も出てくることになります。
子どもが男の子ならちょっと無理してでも
大学に入れようとするが、女の子なら進学の支援に
消極的になる親が出てくるといった具合です。
「失われた20年」で不況が長引いて経済的に苦しい家庭が
多くなっていますから、なおさら教育の経済的リソースは
息子優先になる親も多くなっているのではないかと思います。
私も親から「女だから大学いかなくていい」って言われたもんな。「弟二人は男だから大学いかせなきゃだけど」って。@北海道 https://t.co/7HRYB2Je2l
— 泉 鈴蘭 (@izumi_suzuran) 2015年8月28日
「教育は男子にこそ必要、重要」「女に学問はいらない」という
因習的なジェンダー観の影響もいまだにあるでしょう。
昨年8月に「女子高生に三角関数はいらない」なんて
鹿児島県知事が言って、物議をかもしたことがあったのでした。
「女に三角関数はいらない?」
「女に三角関数はいらない?(2)」
私が高校生の時、大学に進学したいと言ったら父が
— 昂季子 (@ae_ha_zn1177) 2015年8月28日
「女は出産したら家に入るから学歴はムダだ」と答えたんだけど、即座に母が
「私みたいに学歴が無いせいで一人で生きていけなくて、離婚もできない女にはしたくないから大学に行かせる!」って言ってその場が凍りついたのを久しぶりに思い出した。
『世界価値観調査』によると「大学教育は女子よりも
男子によって重要である」という設問に
「賛成」および「強く賛成」と答えたかたの割合は、
欧米の民主主義国に比べて日本は高くなっています。
「大学教育のジェンダー観の国際比較」
これは日本に特有かどうかはわからないですが、
日本にあることが確かなものとして、物理的な行動の制限が
女子のほうがかかりやすい、ということもあると思います。
男の子なら浪人を認めるが、女の子には浪人を認めないという
親や周囲のおとなもいるだろうと思います。
こうした社会通念の存在は、失敗が許されないぶん、
女子にとって大学進学が不利なものとなります。
男の子は実家から遠く離れた大学に入って
独り暮らしをすることもあまり抵抗なく認められますが、
女の子は独り暮らしがなかなか認められず、自宅から通える大学に
入らざるをえなくなることも多いと思います。
ベネッセの「大学生の学習・生活実態調査」によると、
実家暮らしの大学生は「男子<女子」、
独り暮らしの大学生は「男子>女子」となっていることがわかります。
大学は東京や大阪の大都市圏に集まっていることを考えると、
自宅から離れた大学に入りにくい女子は
それだけ大学進学に不利になることになります。
「居住形態、通学時間」
日本の高校は、男子生徒のほうが大学進学率が高いことを
見越して、入学試験で男子に「下駄」を履かせて
合格させているところも珍しくないくらいです。
教育機関が能力主義に反して、恣意的に男子を優先的に
合格させることで、大学進学率で「男子>女子」となる
原因を作っているのもあるのだろうと思います。
「学校で下駄を履く男の子」
「入試で下駄を履く男の子」
「女子は男子より成績がよい」
この点についてですが、選抜者側は女子の方が学業成績が良いことは
百も承知の上で、男子に下駄を履かせていますね。
その理由は、女子の方が学業成績は良くても、男子ならば浪人OKだが女子はNG、
男子は親元離れて大都市圏の私大進学もOKだが、
女子は地元国公立大以外NGといった、家庭方針による様々な制約によって、
女子生徒は現役合格確実なところしか受けない傾向が強くなり、
学業成績が同程度の男子生徒と比べて大学合格実績の面で
著しく振るわなくなるので、女子は成績優秀でも落とし、
男子は成績が劣っていても下駄を履かせて合格させて
高校の大学合格実績を高めようという「統計的差別」のインセンティブが
選抜者側に働いてしまうからす。
その例として、都立名門校はかつて男子の入学定員を
女子の3倍ほども多く設定していましたし、
北海道でも名門校が男子に1ランク以上にも相当する点数を加算して入学させ、
偏った男女比率(男子の方が3倍ほども多かったらしい)から
女性差別として問題になったことがあります。
今ではまだマシになったと言えますが、
公立名門校が男女別学になっている所(埼玉、栃木、群馬)は、
男子校と女子校で入試レベルはあまり違わないのに、
男子校は東大のよう難関大や東京の有名私大が多いが、
女子校は地元国立大への進学が多いといった、
大学合格実績の面で顕著な差があります。
これは、企業が女性の出産による退職リスクを根拠に
採用・研修・昇進で女性差別人事を行ってしまうのと同様の構造です。
家庭の方針が息子と娘で大きく違う理由は、
たんぽぽさんの↓エントリのデータにあるように、
高等教育への投資効果が芳しくないからに他なりません。
http://taraxacum.seesaa.net/article/408984381.html
結局のところ、社会における女性差別構造を解消させない限り、
学校や家庭にまで差別の連鎖が波及してしまうのだと思います。
(ritiarno at 2015年04月26日 23:38)
「ザ・フェミニズム」の中で、
「女性性を内面化した女の子の方が真面目に勉強する」
みたいな話があった覚えがあります。
(今度図書館で借りてくるとかして確認したいと思います)
「女性らしさ」にくくられやすいメンタリティは、「他者への奉仕・従属」のために「しか」発揮されないなら残念ですけど、自分のために役立つ美点にもなりうるんですよね。
多くの先進国で女性の方が大学進学率が高いのは、徴兵制なんかもあるでしょうけど、そういうメンタリティが温存されたまま、社会における性差別構造が緩和された結果かな、と思います。
あるいは、
「女性が生きていくためには高等教育を受けて専門職に就かなければ」
が強いのか。
(先進国であれば福祉市場が公私問わず日本より分厚くて待遇もいいでしょうから、そういうところで「女性らしさ」はプラスに働きうるでしょうし)
日本の場合は社会における性差別構造がまだまだ強固なので、勉強の成績にプラスに働く「女性らしさ」が、高等教育進学の過程で周囲の圧力を受けて萎縮してしまうケースが多いんでしょうね。
エントリー本文の最後に引用されたコメントに沿ったところで少し考えると、ジェンダーの固定化が緩和して、成績にプラスに働く「女性らしさ」が男性にとってより美点になりうるとしたら、高校受験の過程で男子が履く「下駄」の高さも低く出来るんじゃないかな、とちょっと考えたりします。
あたしの両親は高等教育を受けさせるのに男女分け隔てて考えない傾向が割と強かったので、それが普通だと思ってたんですけど…意外と、まだまだそうでもないんですよね。
https://twitter.com/tmaita77/status/378117715220639744/photo/1
男女の進学率で2割以上差がある地域が存在するとか、考えただけで結構くらくらきます。
>「ザ・フェミニズム」の中で、
>「女性性を内面化した女の子の方が真面目に勉強する」
これは意外でした。
調べてもしわかったら、またお話していただけたらと思います。
>多くの先進国で女性の方が大学進学率が高いのは
女性らしさに対する抑圧が減って、自分のために役立つ部分が
表に現れるようになった、ということかもしれないですね。
>「女性が生きていくためには高等教育を受けて専門職に就かなければ」
>が強いのか。
性差別があるゆえに、女性のほうが教育を受けて手に職をつけねば
という意識が強いという、従来的な動機ももちろん考えられますね。
女性が高等教育を受けることへの抵抗が少ない程度には
性差別は解消されている、ということですね。
>エントリー本文の最後に引用されたコメントに沿ったところで少し考えると、
日本の高校で男子の受験生に「下駄」を履かせる
慣習がなくなるには、「女性らしら」の抑圧が減って、
利点がが効いてくる状況にもっとなる必要がありそうですね。
>https://twitter.com/tmaita77/status/378117715220639744/photo/1
>男女の進学率で2割以上差がある地域が存在するとか、
こちらで表にしたものを参照したことがあります。
http://taraxacum.seesaa.net/article/425385532.html
ほとんど全部の都道府県で大学進学率は「男子>女子」なのですよね。
例外は徳島県だけど、「女子>男子」なのは誤差範囲だと思います。
なので例外はないと言っていいでしょう。
大学進学率が「男子>女子」というのは、
日本だけの「ガラパゴス」現象だということも、
もっと周知させたいところだと思います。
というわけで図書館で借りてきて記述を探してみました!
東電OL事件の話をしている部分で、179〜180ページのあたりですね。ざっくりまとめると
「親に認められたいがゆえに真面目に勉強する。女性性を内面化した女は一番の努力家」
「学校秀才の女の子の背後には教育ママが歴然と存在している」
みたいな感じでした。
(そして、そういう女性だからこそ「女性として欠陥品」みたいなプレッシャーに弱いみたいな話もくっついていました)
少なくとも小学校レベルまでは
「学校で大人しく椅子に座って机に向かい、先生の話をきちんと聞く」
みたいな躾は、女の子の方によりがっつりなされる傾向があると思いますし、あながち間違いでもないかなー、と。
(実際、学校や勉強からのドロップアウトって、男の子の方が深刻なイメージありますし…)
>女性と高等教育
確かに、女性が専門職に就くことが出来るとか、高等教育を受けるのが普通くらいまでいかないと、「差別があるから専門性を身につけなきゃ」以前の問題ですね。
そういう意味で、女性の方が大学進学率が高いところは「まだまし」なんでしょう。
>男子の下駄
現実問題、「男の子はアホでも元気があればよろしい」みたいな価値観は、結構後々まで男性を苦しめてるように見えるんですよね。
男性の貧困へどう対処するかで、悪い意味での「男らしさ」が邪魔してるように見えたりとか。
そういうところを解いていくのは、主に男性学の領域でしょうけどね。
>大学進学率の男女差
徳島県は、比較的早い段階から女子教育に関心を持った知識人がいたようです。
http://www.tokushohi.or.jp/cafe.php?z=sg59c
それでもほぼ誤差、なんですよね…。
ガラパゴス即悪と言い切りたくはないですが、少なくともこの件においては日本は問題山積みですね。
>>ザ・フェミニズム
>というわけで図書館で借りてきて記述を探してみました!
調べてくださってありがとうございます。
>「親に認められたいがゆえに真面目に勉強する。女性性を内面化した女は一番の努力家」
>「学校秀才の女の子の背後には教育ママが歴然と存在している」
>「学校で大人しく椅子に座って机に向かい、先生の話をきちんと聞く」
>みたいな躾は、女の子の方によりがっつりなされる傾向があると思いますし、
いわゆる真面目な子、そう言われてみればそういう印象は、
わたしにもなきにしもあらずです。
体制や規制秩序への従順ということになるのかな。
>「男の子はアホでも元気があればよろしい」みたいな価値観は、
>結構後々まで男性を苦しめてるように見えるんですよね
PISAの結果を使った研究でも、男の子の問題は
見過ごされやすいという指摘はありましたね。
「女子は男子より成績がよい」
http://taraxacum.seesaa.net/article/417911225.html
キャリアを持たない男性が増えることで、
暴力犯罪を含めた犯罪率が上昇するという指摘もあります。
女性がキャリアを持たない場合と比べて、社会に危害を加える影響を
およぼすことになってその意味では深刻ですね。
実際に犯罪が増えたら、社会が積極的に対処に
乗り出す可能性があるとも言えるわけですが。
>徳島県は、比較的早い段階から女子教育に関心を持った知識人がいたようです。
>http://www.tokushohi.or.jp/cafe.php?z=sg59c
ご紹介ありがとうございます。
徳島の事情はちょっと気になっていたのでした。
徳島はもともと教育に熱心な県なのですね。
それに加えて、女子教育にも力を入れてきた、
それで男子との比を取ったときの女子の進学率が
最も高くなっているということだったのですね。
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女子教育については、徳島出身で薬学の長井博士、数学の林博士が
女子の高等教育機関への進学に早くから取り組んだ。
徳島女学校(現城東高校)の創立も全国的には早く、
現在の県内二つの私立大学の学校法人は女子教育からのスタートである。
一般に徳島は教育に関心の強い県でもあったことが大学進学率を支えてきたのだ。
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>それでもほぼ誤差、なんですよね…。
教育の男子優先の状況はいかんともしがたいです。