与えるかというお話をしたいと思います。
わたしのブログのコメント欄で、性的メディアが性犯罪の抑制に
役立つかどうかという議論があるからです。
「女性にとって性を売ること(2)」
結論を言うと、ポルノは性暴力の誘発や助長をする可能性があります。
『性犯罪の行動科学』(北大路書房)という本に詳しいです。
以下のエントリで内容について簡単に触れています。
「【書評】性犯罪の行動科学」
性的メディアと性暴力との関係についての研究は、
集団レベルと個人レベルの大きくふたつがあります。
集団レベルの研究は、性的メディアの流通と性犯罪の件数との
あいだに相関があるかを調べるといった、統計的な方法です。
個人レベルの研究は、ポルノを観ることで攻撃行動や性暴力に対する
考えかたに影響が出るかを調べるという、心理学的な方法です。
個人レベルの研究では、性的メディアが性暴力の誘発や助長を
もたらす可能性があることが、結論できるようです。
要点を並べると
1. ポルノを観ると攻撃行動が増える
2. ポルノの視聴が多いほど性暴力を支持するようになる
3. 小児わいせつにおいては、ポルノの視聴が多いほど再犯性が高くなる
ということになります。
http://blog.livedoor.jp/kudan9/archives/43983782.html
個人レベルの研究というのは、ポルノを見た後に攻撃行動や
性暴力を指示(支持)する態度がどう変わるのか確かめるものです。
この研究では集団レベルのものよりはっきりしたことがわかっているようです。
例えばポルノは見た人の攻撃行動を増加させ、
それが暴力的なものだと有意差があるほどではありませんが
より影響が大きいことがわかっています。
またポルノ視聴が多いほど性暴力を支持する態度を
強く持っていることがわかっています。
さらに小児わいせつ犯においては、ポルノの使用頻度が
再犯の危険因子であることもわかっています。
つまりポルノを使用する頻度が多いほど、再犯を起こす危険性が高いのです。
以下の動画でも簡単に解説しています。
(ニコニコ動画なので、視聴のためにはアカウント登録が必要)
性的メディアは性犯罪や性暴力を誘発したり助長する方向へ、
なんらかの影響があることはたしかでしょう。
性的メディアが性犯罪や性暴力を抑止するという主張に
根拠がないことも、たしかであると言えるでしょう。
2006年に兵庫県の尼崎で、小学生の男の子たちが数人で
同級生の女の子を集団で強姦する事件がありました。
「小学生による性犯罪!小学4年生の男子児童が同級生をレイプした事件がヤバい」
この事件の加害者の男子児童は、アダルトビデオを観て、
同じことをしてみたかったと口述していました。
まさに性的メディアが性暴力を誘発したことになります。
小学4年生の男子児童が親が所有しているアダルトビデオを見た影響
(男児が主張)により、2006年11月半ばに
同級生の女子児童を呼び出し性的暴行を加えた。
首謀者の男子児童からは、
「前から狙っていた。AVと同じことをやってみたかった」という、
とんでもないセリフが飛び出している。
4月16日エントリで性暴力の加害者の特徴について触れました。
加害者はなぜ性暴力を起こすのか、その動機は攻撃、支配、
優越、男性性のためといった、「力の誇示」がメインです。
「性欲」は力を誇示する際に使う「手段」であると言えます。
「性暴力の加害者の特徴」
性暴力の動機
目的は、性的欲求の充足ではない。攻撃、支配、優越、男性性の誇示、
接触、依存などさまざまな欲求を、性という手段を用いて
自己中心的に満足させようとする「暴力」の一種。
「加害者視点の性暴力研究 性欲の「物語」を批判」
権力関係に敏感で、男性への対抗意識が強く、
私に対してはへりくだる時もあれば上から目線の時もある。
力に対しておびえている。そのおびえが性暴力として現れたのだと分かった。
少なくとも加害者からは性欲の話は出なかった。
それどころか『性欲じゃないですよ』と笑い飛ばしていた。
本音の部分は本人も多分分かりたくない。
不可抗力で巻き込まれてしまったとか、
新しい世界を見たなどと日記や手紙に書いていた。
性的メディアはこうした攻撃欲や支配欲の誘発や肯定をしたり、
「力の誇示」のための「手段」を与えるということかもしれないです。
>1. ポルノを観ると攻撃行動が増える
>2. ポルノの視聴が多いほど性暴力を支持するようになる
>3. 小児わいせつにおいては、ポルノの視聴が多いほど再犯性が高くなる
1.大渕は、暴力的性描写と非暴力的性描写に区別して調査しています(彼の論文は引用先からPDFで読めます)。たんぽぽさんは非暴力的性描写でも攻撃行動が増えるとお考えですか。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002785519
2.同じ論文のp123では、統計的に有意な差ではなかったと書かれています。実験内容自体も面白いので引用しておきましょう。
>大学生男女146名をランダムに2群に分け、実験群には女性が性的暴力の被害者となり、しかもその女性が快を示す劇場映画の人場券を配った 。統制群の学生たちには、暴力を含まない穏やかな性描写の恋愛映画の人場券を配った。その際、学生たちには「映画評価の研究である」と説明した。入場券はいずれも2日間だけ有効にして、被験者の映画視聴期間を統制した。その数日後 、実際にこれらの映画を見た115名の学生たちにレ イプ神話質問紙を実施したところ、統計的に有意ではなかったが、実験群の男性ではRMA得点(たまごどん注:レ イプ神話受容尺度)が増加した。女性にはそうした変化は見られなかった。
この実験結果を「性暴力を支持するようになる」と結論するのはいかにも乱暴だと思います。それとも、別の実験結果があるのですか。
3.小児わいせつ犯に見せるポルノは成人ポルノですか?それと、この結果を示した論文を教えて下さい。
リンクが切れていますよ。
http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=cXWAyDJYzRYJ&p=%E5%A4%A7%E6%B8%95%E6%86%B2%E4%B8%80+%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E7%9A%84%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%EF%BC%9A%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9A%B4%E5%8A%9B&u=ci.nii.ac.jp%2Fnaid%2F110002785519
資料を示すなら、閲覧可能なものを用意しましょう。
それから、
『教えて下さい』の前に、するべきことがあるんじゃないですか。
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たんぽぽさま
たまごどん、今度はポルノをオモチャにするみたいですね。
それにしても、
従軍慰安婦、性風俗、異常性欲、強姦、ポルノ。
たまごどんは、本当にこういうセ ックスの話が好きなんですねえ…
(こんな性癖を持ってる人が言う、”自発的”や”自己決定権”なんて、
なるほど、最初から信用できなかったはずだわwww)
>http://ci.nii.ac.jp/els/110002785519.pdf?id=ART0003126311&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1463060492&cp=
ご紹介の論文は『性犯罪の行動科学』の著者とは別のかたですね。
類似の研究を参照しているのだろうとはおそらく思いますが。
>2.同じ論文のp123では、統計的に有意な差ではなかったと書かれています。
>実験内容自体も面白いので引用しておきましょう。
その文章は「実験群の男性ではRMA得点が増加した。
女性にはそうした変化は見られなかった」と続いていますね。
この続きには興味がなかったようですね。
さらにその論文は続けてこう書いています。
「これらの実験」は、あなたが引用した箇所のフィールド実験も
指していますから、その上で「影響あり」と結論しているということです。
========
これらの実験はいずれも、レイ プ神話を描いた
ポルノグラフィーを見ることによって、視聴者特に
男性視聴者のレイ プ神話信念が強められることを示唆している。
こうした面での影響をMalamuth(1984)は次のようにまとめている。
暴力的ポルノフラフィー、特に女性被害者の快を描いた
ポルノフラフィーを見た男性は、(1)レイ プに対して特に悪いことや
異常なこととは思わなくなり、レイピストに寛容になる、
(2)女性が被レイ プ願望を持っているなどレイ プ神話信念が強くなる。
(3)レイ プ空想が活発になる、(4)レイ プ傾向が高まる。
最後の点(レイ プ傾向)については自説で更に論ずる。
========
フィールド実験は2日だけなので、RMAの得点の増加は
統計的に有意ではない程度だったと、論文の著者は
考えたのではないかと、わたしは想像します。
「ポルノグラフィーの影響」と言えば、2日だけでなく
もっと継続的に視聴する人のことを意識すると思います。
2日の視聴だけで得点の増加があるなら、継続的な視聴をすれば、
統計的に有意な影響が出るくらいの得点の増加はあるだろうと推測した、
ということではないかと、わたしは想像します。
わたしがリンクした書評のエントリは
http://blog.livedoor.jp/kudan9/archives/43983782.html
========
例えばポルノは見た人の攻撃行動を増加させ、
それが暴力的なものだと有意差があるほどではありませんが
より影響が大きいことがわかっています。
========
と書いていて、それほど強い主張はしていないです。
たぶん上述のことを踏まえたのでしょう。
わたしのエントリも、番号付けた箇条書きのところは
表現を簡潔にするために修飾語を減らしていますが、あとのほうでは
========
性的メディアは性犯罪や性暴力を誘発したり助長する方向へ、
なんらかの影響があることはたしかでしょう。
========
とあまり強い主張にならないようにしています。
この研究は「ポルノの視聴がレイ プ神話信念を強める可能性がある」と、
可能性を保留するほうが実証的だと思います。
あなたの言いたいことが「統計的に有意な差はないのだから、
ポルノの視聴はレイ プ神話を強めることはいっさいない」という
可能性の全否定でしたら、そのほうが非実証的だと思います。
あなたが最初に主張したような「ポルノの視聴は
性犯罪を抑止する効果がある」ということでしたら、
もっとはっきり「そんなことはない」と言えると思います。
>資料を示すなら、閲覧可能なものを用意しましょう
わたしも最初に見たときは閲覧できたのですよね。
閲覧不能になるタイミングがきわどかったようです。
>『教えて下さい』の前に、するべきことがあるんじゃないですか
わたしに訊くより、『性犯罪の行動科学』をご自分で
探して読めばいいのに、と思います。
性犯罪の行動科学について適切な知識を得たいなら、
そちらのほうが確実なのですから。
>従軍慰安婦、性風俗、異常性欲、強姦、ポルノ。
>たまごどんは、本当にこういうセ ックスの話が好きなんですねえ…
全部たまごどんから始めたお話ですよね。
このあともまた違ったお話が出てくるのかもしれないです。
性犯罪について格段の見識はありませんが、たんぽぽさまもご指摘の通り、
私は性欲のありようそのものが社会的なものだろうと思っています。
(もし主権が男性から女性に移行すれば、女性による男性への陵辱も起こりうる。)
たまごどんやくだんのコメント欄にいる規制反対派の、ポルノを含む
性風俗をまなざす視線そのものが性犯罪の加害者的だというのも、
まさに社会的強者なればこそだし。
「ポルノと性暴力との関係(2)」で、直近のコメントでたんぽぽさまが
指摘している通り、自分から(傍証として)言い出したことを、
対論者に『教えて下さい』も無いだろうだし、
他ならぬ自分が提議したことに自分が全力で食いつくという
訳のわからない態度(呆)を見るに、
「私たちは暴力のはけ口か?」
http://taraxacum.seesaa.net/article/437046006.html
よっぽどこれを否定したいんでしょうねえ。
自分にとって都合の悪い事実を否定するのに血道をあげる私は論理的だ(キリッ)
とは、どうも恐れ入ったお話で。
これが噂の無敵の論者論ですね。
(≒「ああダメだこいつ、話が通じねえ」)
>性犯罪について格段の見識はありませんが
わたしも性犯罪については、たいして見識はないですよ。
性欲の存在自体は本能だろうと、わたしも思うのですが、
それをどう発揮するかは社会的なものだろうと思います。
ご指摘のように、べつのところで書いたことですが。
「性欲の対処可能性のメモ」
http://lacrima09.blog.shinobi.jp/Entry/1231/
こういうお話をすると、ある種の人は性欲の存在自体を
否定されたかのように感じ取るみたいですね。
そういう人のためになされる説明は
「お腹がすくのは本能だけど、いくらお腹が空いても
お店の食品を勝手に取って食べてはならない」。
でもこの説明で納得することはあまりないように思います。
>「私たちは暴力のはけ口か?」
>http://taraxacum.seesaa.net/article/437046006.html
こちらもはっきりしたコメントはないですね。
(「性産業従事者の意見」をさんざん強調していましたからね。)
リンクした毎日新聞の記事は、わたしのブログで
話題になったことにもいくつか触れているので、
本当なら眼を通してほしいところなのですが。
(ちょうど慰安婦問題が発端となっていますし。)
「橋下氏発言、風俗業の女性に波紋 私たちは暴力のはけ口か」
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/ee15cb6986d5e9a4bcf3f42f85a97d4f
たまごどんがご紹介の論文には、「相関的研究」「実験室的研究」
「フィールド実験」の3つが出ていますね。
「相関的研究」と「実験室的研究」のふたつの研究は、
どちらもポルノがレ イプ神話信念を強める、
つまり性暴力の助長や誘発の可能性があることを示しています。
http://ci.nii.ac.jp/els/110002785519.pdf?id=ART0003126311&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1464009249&cp=
========
相関的研究
性描写の多い雑誌をよく読む男子学生には、
女性が性的強制を好むという信念を持つ者が多かった。
ポルノグラフィーとの接触頻度とRMAとの間に
低いが有意な正の相関が見られた(r = .19)。
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========
実験室的研究
レ イプされた女性が快を示す性描写を聞いた被験者は、
不快を示す性描写を聞いた被験者よりも、
後で聞いた例ぷ被害者の快を強く評定し、
また、一般的により多くの女性がレ イプを楽しむだろうと答えた。
========
「相関的研究」はどちらが原因でどちらが結果かわからず、
もともとレ イプ神話信念が強いからポルノを観るという
可能性も考えられることに言及がありますが。
因果関係は両方向、原因でもあり結果でもあると
考えるのが無難でしょうし、論文の結論もそうなっています。
たまごどんが(2016年05月11日 00:25)のコメントで
言及しているのは、3つ目の「フィールド実験」だけです。
なぜか「相関的研究」と「実験室的研究」には触れないのですね。
わたしのコメント(2016年05月12日 23:27)で
引用した箇所にある「これらの実験はいずれも」というのは、
上述の3つの実験「相関的研究」「実験室的研究」
「フィールド実験」全部を指しています。
「フィールド実験」で「統計的に有意な差ではなかった」が、
「実験群の男性ではRMA得点が増加した。
女性にはそうした変化は見られなかった」ことをもって
ポルノがレ イプ神話信念を強化する可能性ありとするのは、
ほかのふたつの実験結果の存在もあるのだと思います。