2016年05月15日

toujyouka016.jpg 自民改憲草案・扶養義務

5月3日5月4日5月5日エントリの続き。
自民党の憲法草案の「家族」を取り上げた朝日新聞の連載です。
連載の「中」のうち、前のエントリで見なかったところを
見ていきたいと思います。

「(憲法を考える)自民改憲草案・家族:中 「助け合い」実態見ずに期待」
(はてなブックマーク)
「(憲法を考える)自民改憲草案・家族:中 「助け合い」実態見ずに期待」(1/2)
「(憲法を考える)自民改憲草案・家族:中 「助け合い」実態見ずに期待」(2/2)

 
朝日の連載記事では、世帯構成別の子どもの貧困率に触れています。
首都大学東京の阿部彩教授の分析では、
12年、3世代が同居する世帯の子どもの貧困率は15.2%。
夫婦と未婚の子のみの世帯の子どもの11.4%を上回る。

これは以下のサイトに出ている図のことです。
これを見ると子どもの貧困率は、調査対象の2006年、2009年、2012年の
いずれも「夫婦と未婚子のみ<三世代世帯」になっています。

「子どもの貧困 1.子どもの貧困率の動向」

子ども(20歳未満)の貧困率: 世帯タイプ別

ひとり親世帯の子どもの貧困率が圧倒的に高く、
この調査はそこに注目するのが本来なのだろうと思います。
そこで「核家族<三世代家族」となっていることに
注目したことは、大きなポイントだと思います。


貧困率が「核家族<三世代家族」は、いささか意外かもしれないです。
一般に世帯の人数が多いほど、経済的余裕が出てくると思われるからです。
ひとり親が子どもを連れて実家に帰ったケースや、
育児と介護の両方に経済的負担がかかるケースが考えられます。

ひとり親が子連れで実家に戻ることもある。
ふたり親であっても、高齢化と晩婚化が相まって育児と介護の負担が重なり、
貧困率がさらに上昇するのではないかと危ぶまれている。

「ダブルケア」についての実態調査は始まったばかりですが、
晩婚化と晩産化がおもな原因と考えられるので、
今後「ダブルケア」に追われるかたは、増えることが予想されます。

「育児・介護の「ダブル負担」家庭、晩婚化で増加…国が実態調査」
「育児しながら介護「ダブルケア」25万人 内閣府推計」


育児と介護のどちらかだけでも経済的負担は大きいですから、
これらが両方となれば、さらに経済的負担は大きくなるでしょう。
また育児と介護の両方に時間的負担もかかりますから、
離職したり仕事量を減らすかたもたくさんいるので、
年収が下がることになり、貧困率を上昇させることになります。

ダブルケアになる前に仕事をしていた832人のうち
仕事量を減らした人は149人(17・9%)、離職した人は66人(7・9%)。
女性(297人)に限ると、それぞれ63人(21・2%)、
52人(17・5%)と、割合が高くなった。

年齢階層およびジェンダー別の、睡眠時間が6時間以下の
割合を見ると、40-50代で女性は男性よりずっと多くなります。
この世代の女性は育児と介護の「ダブルケア」で
時間的な負担がかかり、睡眠時間が減っていることが予想されます。

「睡眠6時間未満の男女差」



自民党の憲法草案の24条は、家族や親族による扶養を要求し
社会福祉を削減する口実に使われるのではないか、
という懸念は、以前からときどき指摘されることがあります。

憲法に家族の相互扶助義務が書かれれば、
家族に強い扶養義務を課す法律が作られても、
憲法違反を問うことが難しくなるかもしれない。

「憲法24条と社会保障」
「森永卓郎氏 安倍自民の憲法改正案は生活保護や年金削る狙い」
安倍自民党が提示した憲法改正草案の24条には、
「家族は、互いに助け合わなければならない」という
条文が追加されている。わざわざ憲法に書くようなことかと
疑問をもつ内容だが、実はちゃんと意味がある。
要するに、生活保護や年金などの社会保障を国に求めず、
家族が面倒をみろと明言しているのだ。

「自民党憲法草案の条文解説」
また、家族が助け合えていないせいで貧しい場合には、
国の保護が得られにくくなります(25条参照)。




もともと自民党は自己責任論が大好きで、社会福祉を削減して
家族に負担させることを是としているのでした。
現時点でも日本は社会扶助費のGDP比が、
OECD加盟国の中できわだって低い国です。
また学費が高くて奨学金が貧しいOECD唯一の国でもあります。

このような社会保障観を持つ自民党ですから、
憲法を改正することで社会保障の削減と家族への負担の押し付けを
やりやすくすることは考えられることになります。


今後、「ダブルケア」が増えることを考えれば、
介護と育児の時間的負担と経済的負担を軽減する必要があるくらいです。
そこへもってきて、家族への時間的負担と経済的負担が
増える施策に対して憲法のお墨付きを与えるというのは、
まったく逆行するということです。

http://www.asahi.com/articles/ASJ4X5FXMJ4XUTFL00V.html
必要な行政支援については、男性は「保育施設の量的充実」が22・8%、
女性は「育児・介護の費用負担の軽減」が26・4%でそれぞれ最多だった。
「親の介護に時間をとられて子どもと思うように
関われないとの葛藤から、うつ状態になる人もいる。
精神面でのサポートに加え、男性も家庭に関われるような
働き方の改革が必要だ」と指摘する。

「睦み和らぎの心も豊かになっていくはず」という
山谷えり子の幻想とはまったく正反対の事態になるでしょう。
時間的にも経済的にも追い詰められるのですから、
人びとの心はすさみ貧しくなるでしょう。
記事でも「葛藤から、うつ状態になる」とあるように、
疾患をわずらうかたも増えると思います。

5月5日エントリでも触れましたが、日本で起きている
殺人事件の約半分は、加害者が家族や親族です。
福祉の削減と「家族の助け合い」の要求によって
家族や親族間での殺人や傷害事件も増えることが予想されます。

「家庭がいちばん恐ろしい」

posted by たんぽぽ at 16:24 | Comment(2) | TrackBack(0) | 法律一般・訴訟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
今日は。今回の記事を拝見して一番に思いましたのは、
「女は家族のための都合のいい部品でも、道具でもない!!」
ということです。

私は自民党の改憲草案についての情報をいくつか読んで、
「奴隷制社会から少しの隔たりしかない、多くの犠牲者を生んできた家父長制社会を、復活させるつもりなのか」
と、恐ろしさに震え上がりました。

ごく最近まで深刻で重大な女性差別が行われ、今でもその残滓が存在するこの国の社会で、
個々の家庭だけがその影響から逃れられるはずはなく、女性や子どもといった弱い立場の人が
暴力や抑圧にさらされる危険が大きくなるのは、当然の成り行きだと思います。

「子どもの貧困」は、色々な要素が絡み込んでいる重大な問題なので、
多角的な方面から切り込んで行くのが大事ではないかと思いました。
Posted by オオイエトモコ at 2016年05月18日 09:21
オオイエトモコさま、いらっしゃいませ。
わたしのブログにコメントありがとうございます。
(前にどこかでお眼にかかったことはあったかしら?)

>「女は家族のための都合のいい部品でも、道具でもない!!」

自民党の改憲草案に現れるような「家族思想」は、
個人より家族を優先するものなのですが、
そこで犠牲になる個人は女性ということなのですよね。
http://lacrima09.web.fc2.com/teardrops/religion/religion.html

日本における女性の権利は、戦後の新憲法でもたらされたものですし、
自民党はそれを否定したがっているのですから、
当然の展開だとは言えると思います。


>私は自民党の改憲草案についての情報をいくつか読んで

近代以降築き上げてきた、民主主義と基本的人権概念を
まっこうから否定する、危険なしろものだと思います。
「恐ろしさに震え上が」るというのは、ごもっともな感性だと思います。

こういう改憲草案の実現を、自民党は戦後半世紀以上にわたって
実現させようと画策を続けてきたということです。
自民党の改憲案のことは、もっと周知させることだと思います。
ご存知ないかたもたくさんいるのですよね。
わたしのささやかなブログも役に立てば幸いです。


>「子どもの貧困」は、色々な要素が絡み込んでいる重大な問題なので

たとえば「日本は出生の影響が小さい公平な国」という、
現実から乖離したうぬぼれも、原因のひとつだと思います。
http://taraxacum.seesaa.net/article/437388723.html

かかるうぬぼれが福祉や教育に対する支援に対して
消極的や否定的となり自己責任論がまかり通るもととなって、
子どもの貧困対策が立ち遅れる原因となるからです。
Posted by たんぽぽ at 2016年05月18日 22:59
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