2016年06月08日

toujyouka016.jpg 理系の女子を増やすために

6月4日エントリで紹介した、秋元康氏の新曲の歌詞が
女性差別的だという記事の後半で、理工系に進む女子生徒を
増やすことの問題について触れています。
これを見てみたいと思います。

「秋元康さん作詞のHKT48の楽曲が女性蔑視だと炎上中だが、
リケジョを増やすために考えるべきこと。」

(はてなブックマーク)

なぜ女子生徒は理系に進まないのか、もしくは文系に進むことになるのか、
理由のひとつは教育の投資効果ということになりそうです。

 
マリー・デュリュ=ベラというフランスの教育社会学者がいる。
彼女は『娘の学校―性差の社会的再生産』という本で、
女性の教育投資について論じている。
女性が将来職業生活を続ける見込みよりも結婚生活への期待が大きい場合、
親も結婚やホワイトカラー職に有利な教育投資を行い、
女性は文系に水路づけられるというのである。

理系に進むと専門知識を身につけることになるので、
おのずと職業生活を続けることが前提になります。
女性に対して就職の門戸が閉ざされていると、
専門知識を持ってもさほど有利にならなくなります。

また社会全体に経済力があって、妻を専業主婦として
養える男性が多いと、女性にとって結婚することが有利になります。
一般に文系のほうが理系より授業料が少なく
経済的負担が小さいですから、どうせ職業生活を営まないのならと、
女子生徒を文系に回すことになるわけです。


理系に進む女子生徒がどれだけ増えるかは、社会が教育の投資効果を
どの程度としているかということになりそうです。
理工系に進む女子生徒を増やすなら、
そうした女性の職業機会を社会の側で
じゅうぶん保証する必要があるということになります。

男子生徒の進路も、教育の投資効果によるのでしょうけれど、
男子の場合、学問を身につけるほど職業生活が開かれるので、
理系に進むための教育投資を惜しむ理由がないのでしょう。


日本の高度経済成長期は「夫は外で働き、妻は専業主婦」という
ジェンダーによる役割分担が定着した時代でした。
女性が職業生活を続ける見込みは薄く、
また経済が上向きだったので結婚によって
暮らしがよくなることは保証されていました。

「非婚・未婚と経済問題」
「未婚率が低かった時代」

「女性が将来職業生活を続ける見込みよりも結婚生活への期待」が、
問題なく大きかった時代だったということです。
それゆえ女子生徒は「文系」どころか、
「短大」や「高卒止まり」に「水路づけられ」ていたことになります。

高度経済成長期の女性の大学進学率は5%に満たないです。
1980年代になっても10数パーセントです。
男性の大学進学率は、高度経済成長期で20%前後、
1980年代は40%前後ですから、ジェンダー格差が大きく、
女子学生の存在自体、珍しいほうだったと言えます。

「第7章 教育・研究分野における男女共同参画」

第33図 学校種類別進学率の推移


現在の日本は、不況が続いていることもあって、
妻を専業主婦として養えるほどの年収のある男性は少ないです。
女性にとって「結婚生活への期待」は大きくないと言えます。
それでも不況が続いていることで経済的に苦しいので、
教育投資を女子に回さない家庭が増えていることが考えられます。

こうした事態を解消するには、大学教育への公的資質を
増やすことですが、日本は大学の授業料が高く奨学金が貧しい
OECD加盟国唯一の国であり、理系はおろか
全体の大学進学率において女子が男子より少ないという、
他国に見られない特異的な事態となっています。

「学費は高いわ援助はないわ・・・日本の高等教育@OECD」
「大学進学率のジェンダー比較」

Tertiary-type A graduation rates in 2009, by gender (first-time graduates)



現在の日本で女性が理系に進んだとして、
「職業生活を続ける見込み」ですが、製造業が女性管理職の割合を
5%にするという数値目標を立てたことで、
新聞記事で「女性を積極的に登用」と特筆されるくらいです。
あまり見込みは大きいとは言えないです。

「女性管理職5%で積極的」

全体的に日本は女性の管理職は圧倒的に少なく、
どの業種も見込みは大きくないと言えます。
その中で理系の業種はさらに少ないということです。
帝国データバンクの調査によると、2015年の女性管理職の割合は、
製造業が4.8%、建設業が4.8%で、全体の6.4%より低率です。

「特別企画:女性登用に対する企業の意識調査」

女性管理職の平均割合


専門職の女性の割合は、日本は50%近くなっています。
この専門職はどれだけが理系かという問題はありますが、
管理職にならないのであれば、わりあい見込みはありそうです。

「専門職と管理職の女性比率」




posted by たんぽぽ at 22:52 | Comment(5) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
私のような世代だと、女子は理系が苦手と思い込まされて来ているところはありますね。
なうほど、将来性の投資効果の部分で文系を選択させられた部分も多かったということか!。
だから自分はずっと文系で3科目勉強してりゃーいいと思ってましたた。

しかし、浪人してから初めて受験科目として数学を勉強しはじめて面白いな、と思い始めたわけです。
大学進んでから、幾何学が好きになりました。
就職してからは、論理関数を考えるのが自分にとって至福のときになりました。

何事も食わず嫌いはいかんのです。

秋元康はもう昭和の人なので、生ける化石のようなものです。
今一生氏のブログ、ちょっと面白かったです。
http://con-isshow.blogspot.jp/2016/05/hkt48.html


Posted by うがんざき at 2016年06月09日 15:40
うがんざきさま、こちらにもコメントありがとうございます。

>私のような世代だと、女子は理系が苦手と
>思い込まされて来ているところはありますね

「女は理系が苦手」とやたら強調する人もいましたし、
そのように感化される人は多かっただろうと思います。
いまでもそのように思い込まされている人は、
結構いるのではないかとも思います。

「女は数学が苦手という偏見」
http://lacrima09.blog.shinobi.jp/Entry/1264/


>将来性の投資効果の部分で文系を選択させられた部分も

教育の投資効果を正当化するために、「女は理系が苦手」と
思わせた部分もあるだろうと、わたしも思っています。

「結婚生活の期待が少なくなる」とストレートに
言ってくる人もいるくらいですし。
https://twitter.com/wanwan_nz/status/740922343539671044
========
ひとつは、理系の学部に入ってキャリア職についていたら「婚期が遅れる」
いや、本気で何度も言われました。
文系に進んで一般職についていたら適齢期に
結婚出きると言う妄想がまだあるのでしょう
========


>数学を勉強しはじめて面白いな、と思い始めた

それはすばらしいことです。
それだけに余計な固定観念を蔓延させることは
問題だということになるわけですが。


>今一生氏のブログ、ちょっと面白かったです。
>http://con-isshow.blogspot.jp/2016/05/hkt48.html

ご紹介ありがとうございます。
いちばんなめられているのは、こんな曲を喜んで買う
ファンたちではないかというのも、少し言われてましたね。

実際に歌うHKT48のメンバーのことは、
情報が入らないのでなんとも言えないけれど、
「こんな女性観、侮辱的だ」とか思っている可能性はありますね。
そうだとしたら、彼女たちを踏みつけていることも
当然問題になってくることです。
Posted by たんぽぽ at 2016年06月10日 22:21
また屁理屈で正当化ですか。

女の理系が少ないのは

「女は論理的思考ができない劣等生物だから」


これが一番の理由だろ

現実を見ろよ

まあ劣等生物は反省できないから無理だろうけど
Posted by ara at 2016年06月17日 11:14
たんぽぽ様

理系文系以前にこういう現実がある。

女子大生は、なぜ「売春」せざるをえないのか
「大学は最悪の"組織的詐欺"を行っている」
http://toyokeizai.net/articles/-/130756

実際の社会に疎い教育者、ハードルの低い性産業募集、、、国が制度として行っている奨学金なんてまさしく詐欺行為だし、そこへ簡単に稼げる誘惑があっても、それを自己責任でかたずけてしまう社会の無関心がある。
そもそも女が体を使えば簡単に金が稼げる(事実かどうかは別だがそのように思われているしそのように宣伝されている)、これこそが蔑視であることになぜ気がつかないのか?
Posted by aka21 at 2016年08月09日 12:56
aka21さま、
前のエントリにコメントありがとうございます。

>女子大生は、なぜ「売春」せざるをえないのか
>「大学は最悪の"組織的詐欺"を行っている」
>http://toyokeizai.net/articles/-/130756

ご紹介ありがとうございます。

女子学生が生活苦から性産業従事というケースが
増えていることは、前から言われてはいたけれど、
だんだんと珍しくなくなっていくみたいですね。

日本は出自が影響しない公平な国だと
実態とかけ離れた認識でうぬぼれて、
教育の機会均等の整備をなおざりにしているうちに、
こんな悲惨な状況になっていくわけです。

「社会的不平等・現実と認識」
http://taraxacum.seesaa.net/article/437388723.html


>そもそも女が体を使えば簡単に金が稼げる
>(事実かどうかは別だがそのように思われているしそのように宣伝されている)、
>これこそが蔑視であることになぜ気がつかないのか?

女性の貧困対策のためにカラダを売らせればいいと
言った人も、こないだいましたからね。
蔑視だと気づかない人は、案外たくさんいそうです。

「女性の性を財源で語る」
http://taraxacum.seesaa.net/article/434537494.html
Posted by たんぽぽ at 2016年08月10日 07:06
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