2016年06月25日

toujyouka016.jpg ハンガリー・反立憲的新憲法

ハンガリーで2012年に反立憲主義的な憲法が制定されたことについて、
6月6日の朝日新聞で大きく取り上げられています。
これを見ていきたいと思います。

「「3分の2」議席は万能の力か ハンガリー進む権力集中」
(はてなブックマーク)

「3分の2」進む権力集中 2010年ハンガリー 中道右派が大勝 
新たな憲法 個人より共同体」
(全文)
「憲法裁判所の人事も介入」
「「バランス欠く」メディアに罰金」
「個人が義務果たす社会に」
「視点 傍観者ではいられない」

 
ハンガリーの歴史と憲法

野党の反対を押し切って新たな憲法を作る。
チェック機関である憲法裁判所の権限を弱める。
その一方で、メディア規制を強化する――。
ハンガリーで権力の一元化が進んでいる。
2010年、中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」が総選挙で、
憲法改正に必要な「3分の2」の議席を獲得したことに端を発する。
選挙での大勝は、政権に万能の力をもたらすものなのか。


ハンガリーの新憲法制定は2010年にオルバン政権が、
憲法改正を可能にする3分の2の議席を取ったことに始まります。
2012年1月に新憲法が施行されたのでした。
その基本理念は、個人より民族や共同体といった
集団や社会を優先させる思想となっています。

新たに憲法に盛り込まれた規定からは、
個人の権利より民族や共同体を重くみる思想が浮かび上がる。
▼個人の自由は、他者との共同においてのみ、展開することができると信ずる
▼我々の共生の最も重要な枠組みが家族及び民族
▼何人も……その能力及び可能性に応じた労働の遂行により、
共同体の成長に貢献する義務を負う

これらの思想は自民党の改憲案ときわめてよく似ているわけです。
箇条書きのひとつ目に関しては、たとえば現行の日本国憲法12条にある
「公共の福祉」を、自民党の改憲案は基本的人権の
制約が可能と解釈できるものに変えようとしています。


ふたつ目の箇条書き、「最も重要な枠組みが家族」という思想は、
自民党が信奉する「家族思想信仰」と同じと言えます。
24条を改正して「家族の助け合い」という文言を
入れるということに、具体的に現れています。

「自民改憲草案・家族の助け合い」

もうひとつの「最も重要な枠組み」が「民族」というのは、
どういうことかは、言うまでもないことだと思います。
国粋主義者がもっとも大切にし、国民全般に尊重を義務付けようと
したがることが「愛国心」や「ナショナリズム」です。


3つ目の箇条書き「労働の遂行により」のくだりは、
日本における社会福祉を削って、家族や親族の扶養義務を
強化するという思想と同種ではないかと思います。

「自民改憲草案・扶養義務」
「憲法24条と社会保障」

ハンガリーの場合は、
労働に関する価値観が憲法に入ったことも重要だ。
手当など給付を中心とする福祉国家ではなく、
仕事をする義務を果たし、個人が責任を取る社会作りを目指す。
とあるからです。

さらに
家族に関しても親に子供を育てる義務があるのと同様に、
子供も大人になれば、年老いた親の世話をする道徳的義務がある。
という家族観も、自民党が目指しているものと同様です。


朝日の記事には、ハンガリーの新憲法の制定に
積極的だった司法相のコメントがあります。

グローバル化が進み、国と国の価値観の差がなくなっている。
人々は消費することばかりに関心が向かい、責任や義務は置き去りにされる、
共同体を守るため、我々のアイデンティティーとは何かを
決定したことに新憲法の意義がある。

因習的なカチカンを人びとがこころよしとしなくなったことを、
秩序の崩壊ととらえ、人が身勝手になったからだと考えるのは、
保守や右翼、ナショナリストやショービニストの定番のようです。
それをグローバル化と経済力のせいにするのも「お約束」と言えます。

日本の右翼団体・神道政治連盟は、公式サイトでこんなことを書いています。
上述のハンガリーの司法相と言っていることがそっくりです。

「神政連とは?」
戦後の日本は、経済発展によって物質的には豊かになりましたが、
その反面、精神的な価値よりも金銭的な価値が優先される風潮や、
思い遣りやいたわりの心を欠く個人主義的な傾向が強まり、
今日では多くの問題を抱えるようになりました。

神政連は、日本らしさ、日本人らしさが 忘れられつつある今の時代に、
戦後おろそかにされてきた精神的な価値の大切さを訴え、
私たちが生まれたこの国に自信と誇りを取り戻すために、
さまざまな国民運動に取り組んでいます。


さらにハンガリーの司法相は、こんなことも言っています。
二つの世界観がある。個人の人権を中心に置く考えと、
社会の中に個人を位置づけ、伝統や歴史を尊重する考えだ。
我々は後者の世界観、価値観を言葉にし、国民に伝えたかった。

21世紀初頭の現在においては「個人の人権を中心に置く」という
ひとつの世界観しかもはやないはずなのですが、
いまだにこんな認識の人もいるということです。

このあたりも日本でも同様のことがあります。
専門家でも立憲主義以外の立場があるかのように、
思っている人は結構いるみたいです。
この期におよんで立憲主義以外の立場などないにもかかわらずです。

「小林節さんに聞いた(その1)」
編集部 専門家と言われる人たちの中にも、
「立憲主義という見方もあるけれども…」という、
あくまで、立憲主義が、一つの見方だというような言い方をする人がいますよね。
小林 一つの見方って、それしかないんだけどね(笑)。

「【憲法特集】平和な社会 9条が要に 中野上智大教授」
中身では、自民党の憲法改正草案がありますが、
およそ憲法とは呼べない代物になっています。
立憲主義にのっとっていなければ憲法とはいえませんが、この大前提から壊れています。
公益や公の秩序の許す範囲でしか権利を認めないと書いてみたり、
奴隷を禁じる条項を削るなど、憲法のあり方の基本が理解できておらず、
あるいは意図的に無視していると思います。

自民党も立憲主義以外の立場に立って、
あのような憲法草案を作っているということです。

「自民党・改憲の解説漫画」

posted by たんぽぽ at 17:26 | Comment(2) | TrackBack(0) | 法律一般・訴訟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
周りの国からは馬鹿な国だと思われるだけ、ということがわからないんですかね、ほんと>自民党もハンガリーも
Posted by 魚 at 2016年06月25日 18:55
魚さま、お久しぶりです。
コメントありがとうございます。

自分のやっていることが馬鹿なことだと客観視できたら、
やらないということなのでしょう。

馬鹿だと思われるだけならまだましと言えます。
未来の世代、自分たちの子孫から恨まれる可能性がありますよ。
Posted by たんぽぽ at 2016年06月26日 07:11
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