自民党の若手議員中心の小委員会で、「子育て支援は成長戦略」という
プレゼンテーションを行なったのでした。
そのときの内容について記事にしているので、見てみたいと思います。
「小泉進次郎さんに伝えたこと」
(はてなブックマーク)
子育て支援がなぜ成長戦略になるのかというお話です。
1. 子育て支援によって、女性が仕事と育児を両立させやすい
環境が整うので、女性の労働力率が上昇するというものです。
労働力率が高くなれば、当然生産性や成長率も高くなり、
ひとりあたりのGDP成長率も高まることになります。
保育サービス等の子育て支援は、女性労働力率を向上させ、
労働生産性を高め、よって1人あたりGDP成長率を押し上げます。
これは、数年単位の短期スパンで得られる効果です。
2. 子育て支援によって出生率が高くなるので、
労働者の人数が増えることで、全体の生産性や
GDP成長率が高くなるというものです。
とくに技術を習得するのに時間がかからない若年労働者が
増えることになるので、労働生産性が上昇する幅が
大きくなることになります。
保育サービスの強化は、出生率も上げ、
それによって長期的には高齢化率が下がります。
高齢化率が上がると技術習得により時間がかかることから
労働生産性が下がるのですが、逆に高齢化率が下がると
労働生産性が上がるので、それがGDP成長率に寄与する、というわけです。
これは、数十年単位の長期スパンで得られる効果です。
1.の女性労働力率の向上は短期的な効果、
2.の出生率の上昇は中長期的な効果ということになります。
柴田悠京著『子育て支援が日本を救う』に載せている図を示して、
具体的になにがどれくらい増減するのか数値を添えて示してあります。


こういうお話は、よく知っているかたは何度も聞いているでしょうし、
「なにをいまさら」ということだろうと思います。
それでもいまだにご存知ないかたもたくさんいて、
そういうかたはぜんぜん聞いたことないお話なのだろうと思います。
むしろ「子育て支援は福祉であり、単なる社会の負担にしかならない」
という認識のほうが、幅を利かせているのではないかと思います。
(わたしはこういう認識のほうが、「こんなことを思っている人がいるのか」と
かえって新鮮さを感じるくらいですが。)
よくある政治家の方の誤解として、「子育て支援は福祉であり、
財源に余裕があればやるもの」 という言説があります。
しかし、これは間違いです。子育て支援は、成長戦略なんだ、と
子育て支援に対するこのような軽視は、最近話題になっている
「オンナコドモのことはくだらない」という
日本の中高年男性のメンタリティとも関係あると思います。
このようなメンタリティをお持ちの人は、
「オンナコドモのこと」が成長戦略になるなんて、
とても考えがおよばないのではないかと思います。
(データを示して実証されても否認しようとする人もいそうです。)
「菅野完さんの、日本会議がやってきたことは『女子供は黙ってろ』運動だ」
だからもう一度念を押す。「男女共同参画にしても、慰安婦報道にしても、夫婦別姓にしても、性教育にしても、全部、『女子供』の話です。これ、皆さん方、メディアの人々も、そしてその需要サイドである我々社会も、最もバカにする分野の話ですよね?」と念を押す。ここまでくると反応が分かれる
— 菅野完 (@noiehoie) 2016年7月1日
さらには「公共事業こそが効率的な成長戦略」という
高度経済成長期時代から続いている「公共事業信仰」が、
子育て支援を含めた福祉の軽視に拍車をかけると思います。
弱者に再配分しても未来に何も残らない。その予算をインフラに投資すれば未来の日本の血になりホネになる。
— Oricquen (@oricquen) 2016年6月11日
といった高度経済成長期の保守の思想が再興隆しているのでは?
民主党政権の逆張「人からコンクリート」が支持されやすい空気 https://t.co/WZJuWkCX3C
高度経済成長期の日本は人口ボーナス期ですから、
なにもしなくても若年労働者がどんどん増えたのでした。
女性の労働力率に頼らなくても、人口政策に気を使わなくても
ぜんぜん問題なかったのでした。
「人口ボーナス・オーナス」
「人口ボーナス・オーナス(2)」
21世紀初頭の現在、柴田悠京の算出によると、
公共事業の効果が1.1に対して、子育て支援は短期的でも2.3、
中長期的ならもっと大きくなることが予想されます。
公共事業よりも子育て支援のほうが、
成長戦略としてもずっと効率的ということになります。
(ちなみに公共工事の乗数効果が1.1ですが、柴田准教授によると
子育て支援の乗数効果は短期的でも2.3となり、
2倍近く良い成果を出すわけです。)
公共事業はもはやたいして経済効果を生み出さない、
それよりも介護や子育てに財源を回せという
経済学者からの指摘は、ここでも確認できることになります。
「失われた20年と民主党」
「政治と経済の失われた20年 ―― データから語る日本の未来」
わたしは自民党が掲げる金融政策はまっとうだと思う一方で、
デフレを脱却するために公共事業をすると
語られている点についてはあまり評価していません。
現在、インフラの整備などの公共事業には
高度な技術や資格が必要とされています。
昔のように頭数を集めて、体力勝負で行う事業はなかなかない。
つまり公共事業に予算を投じても、あまり雇用に結びつかないのですね。
「財政政策・福祉と公共事業」
「左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授」
「ひどい不況の時、金融緩和で作ったお金は、
直接には使われず銀行にため込まれてしまう。
だから、そのお金が世の中に回る仕組みをつくるために、
安倍政権は旧来型の公共事業を第2の矢として実行し、それが効いた。
質はともかく、景気が拡大する方向への力が働いているのだと思う。
本来は、公共事業よりも、介護や福祉の働き手を増やすために使うべきではあるが」