2016年07月30日

toujyouka016.jpg 男性の育児分担と出生率

ヨーロッパでも出生率が高くならない国はいくつもありますが、
その原因に関する新しい研究成果についての記事です。

「欧州の女性が子供を欲しがらない理由」
(はてなブックマーク)

この研究ではっきりとわかったことは、
子どもを持つためには、夫婦で子どもを持ちたいという
希望が一致していることが重要になるということです。
そしてかかる夫婦間の希望の一致は、夫が育児へどれだけ
参加するかが、大きく影響することになります。

夫が育児に非協力的だと、子育てに対する経済的支援が
充実していても、出生率が高まらない傾向にあるということです。

 
はじめにヨーロッパ各国の特殊合計出生率の年次推移の
図が出ているので、これを見ておきます。
21世紀に入ってから、出生率が高い国と低い国とで
二極化が進んでいることがわかります。
この格差は将来の運命を分けることになりそうです。

FRA: フランス
NOR: ノルウェー
BEL: ベルギー
AUT: オーストリア
DEU: ドイツ
ESP: スペイン
POL: ポーランド

図1:欧州の合計特殊出生率


次にヨーロッパ各国の、子どもを持つことに対する夫婦間の
意見の不一致の図(図2)を見てみることにします。

図2:子供を持つことについての意見の不一致(欧州各国)

左は子どもがひとりの夫婦、右は子どもがふたり以上です。
横軸は「妻が子どもを望まず、夫は望んでいる」夫婦の割合、
縦軸は「夫が子どもを望まず、妻は望んでいる」夫婦の割合です。
斜めの線は「妻が望まない(Disagree Female)」と
「夫が望まない(Disagree Male)」の割合が等しくなるところです。

出生率の高いフランス、ノルウェー、ベルギーを赤プロットで、
それ以外の出生率の低い国を青プロットで示しています。
出生率が1.5以上を「高い」、1.5以下を「低い」としています。


出生率の高い国(赤プロット)は、子どもを「妻が望まない」夫婦と
「夫が望まない」夫婦の割合がほぼ等しくなっています。
出生率の低い国(青プロット)は、「妻が望まない」割合が
「夫が望まない」に比べてより高い傾向にあります。

子どもがひとりの夫婦より、ふたり以上の夫婦のほうが、
出生率の低い国において、子どもを「妻が望まない」夫婦の
割合が高くなり、プロットの分布が右方向に広がってくる、
ということも指摘しておくことでしょう。


夫婦間の希望に関して次の指摘は、やや重要だろうと思います。
「夫が子どもを望まず、妻は望んでいる」場合、
子どもを持つにいたる確率は約3分の1になるが、
「妻が子どもを望まず、夫は望んでいる」場合、
子どもを持つ確率はほとんどゼロになるということです。

妻が子どもを望んでいれば夫が望まなくても、いくらか可能性はあります。
夫がいくら子どもを望んでも、妻が望まなければ、
ほとんど子どもを持つことはないことになります。
妻の希望がとりわけ影響が大きいということです。

子供が欲しいかどうかの聞き取りを行った夫婦に3年後に同じ質問をし、
実際にどの夫婦に子供がいるのかを調査した。
結果は、夫婦ともに合意しなければ、出産には至らないというものである。

妻が子供を望み、夫が反対の場合にはまだ可能性があるが、
夫婦ともに望んでいるケースに比べて出産に至る確率は約1/3である。
夫が子供を望み、妻がこれを拒否する場合、
夫婦ともに子供を望まないケースと同じく確率はゼロに等しい。


「妻が子どもを持ちたくない」と考える大きな原因は、
とりもなおさず「夫が育児に積極的に参加しない」ということです。
育児の負担が自分にばかりかかれば、
子どもを欲しいと思わなくなるのは当然ということです。

夫の育児の参加率をプロットした図(図3)を見てみます。
横軸は男性の育児参加率で、0.5で妻と夫が等しくなります。
縦軸は図2の子どもを「妻が望まない」と「夫が望まない」の差です。
図中の国はすべて0.5以下で、妻のほうが育児の負担が大きいです。
ヨーロッパの出生率の高い国でも、まだまだ「育児は女の仕事」であると言えます。

図3:夫の育児参加率と子供を持つことに関する夫婦の意見の不一致

ノルウェーの夫の育児負担率は約40%で、
夫1に対して妻は1.5ということになります。
ベルギーとフランスは約30%で、夫1に対して妻は2.3くらいです。
ドイツは25%ほどで夫1に対してと妻は3くらい、
ほかの出生率の低い国は22%ほどで、夫1に対して妻は3.5程度です。

出生率の高い国は出生率の低い国に比べて
夫の育児参加率が高いことは、はっきりしていると言えます。
出生率の高い国(赤プロット)は、すべて出生率の低い国
(青プロット)より右側にあります。


前の図2では、子どもひとりよりふたり以上いる夫婦のほうが、
出生率が低い国(青プロット)において、
子どもを「妻が望まない」夫婦の割合が高くなっていたのでした。

子どもがひとりいて夫が育児に積極的に参加しないと、
妻は自分にばかり負担がかかることがはっきりわかるので、
ふたり目以上になると、夫の育児の不参加が
妻が子どもを持ちたくない意思に、より強く反映することになります。

多くの夫婦において子供を持つかどうか意見が一致しない。
夫婦が合意しなければ子供は誕生しない。

出生率の低い欧州諸国では、男性はほとんど育児に参加せず、
女性が主に育児を負担している。

育児の大半を女性が負担している国では、
女性が第二子の出産を望まない可能性が高い。

一方、出生率が高い国では男性が積極的に育児に参加しており、
第二子以降の子供を持つかどうかについて賛成・反対の立場に性差はみられない。



付記1:

ここに出てくる「育児分担」に含まれる育児は、
記事の次の記述を見るとかなり多岐におよんでいるようです。

データにはさまざまな育児のタスク(着替え、寝かしつけ、
宿題のサポートなど)を誰が行っているか、詳細な質問が含まれている。
このデータに基づき、各国における男性の育児参加の平均的な指標を作成した。



付記2:

図2と図3で出生率が低い国(青プロット)として挙げられているのは、
GER: ドイツ
AUT: オーストリア
CZE: チェコ共和国
BUL: ブルガリア
ROU: ルーマニア
LUT: リトアニア
RUS: ロシア連邦
です。
これに図1のポーランドを合わせて、中東欧はどこも
出生率の低下に見舞われていることがわかります。


付記3:

図2の「夫婦間の不一致」においてドイツは
子どもを「妻が望まない」と「夫が望まない」の割合が
ほぼ等しいところにあると言えなくもないです。
また図3の「夫の家事分担率」では、出生率の高い国
(赤プロット)よりはドイツは低いですが、東ヨーロッパの
出生率の低い国(青プロット)よりは高くなっています。

それでもドイツの出生率は1.36で、
東ヨーロッパの国ぐに並みにとどまっています。
ドイツの低い出生率は、夫の家事分担や妻の子どもを
持つ希望のほかにも、要因があることが考えられます。
たとえば、子ども・家族向け公的支出に比べて、
高齢者向け公的支出に偏っているという「福祉のバランス」です。

高齢化対策に対する少子化対策の相対ウェイトと出生率


付記4:

家事と育児の分担率についてのOECDの統計を見ると、
フランスとドイツはどちらも、妻は夫の1.6-1.7倍程度
(夫の分担率は37-38%程度)となっています。

図3によると夫の育児の分担率は、フランスは30%、
ドイツは25%程度ですから、育児に限ると妻の分担率は
さらに高くなることになります。

「家事をしない日本の男性と家族思想信仰」





posted by たんぽぽ at 22:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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