その原因に関する新しい研究成果についての記事です。
「欧州の女性が子供を欲しがらない理由」
(はてなブックマーク)
この研究ではっきりとわかったことは、
子どもを持つためには、夫婦で子どもを持ちたいという
希望が一致していることが重要になるということです。
そしてかかる夫婦間の希望の一致は、夫が育児へどれだけ
参加するかが、大きく影響することになります。
夫が育児に非協力的だと、子育てに対する経済的支援が
充実していても、出生率が高まらない傾向にあるということです。
はじめにヨーロッパ各国の特殊合計出生率の年次推移の
図が出ているので、これを見ておきます。
21世紀に入ってから、出生率が高い国と低い国とで
二極化が進んでいることがわかります。
この格差は将来の運命を分けることになりそうです。
FRA: フランス
NOR: ノルウェー
BEL: ベルギー
AUT: オーストリア
DEU: ドイツ
ESP: スペイン
POL: ポーランド

次にヨーロッパ各国の、子どもを持つことに対する夫婦間の
意見の不一致の図(図2)を見てみることにします。

左は子どもがひとりの夫婦、右は子どもがふたり以上です。
横軸は「妻が子どもを望まず、夫は望んでいる」夫婦の割合、
縦軸は「夫が子どもを望まず、妻は望んでいる」夫婦の割合です。
斜めの線は「妻が望まない(Disagree Female)」と
「夫が望まない(Disagree Male)」の割合が等しくなるところです。
出生率の高いフランス、ノルウェー、ベルギーを赤プロットで、
それ以外の出生率の低い国を青プロットで示しています。
出生率が1.5以上を「高い」、1.5以下を「低い」としています。
出生率の高い国(赤プロット)は、子どもを「妻が望まない」夫婦と
「夫が望まない」夫婦の割合がほぼ等しくなっています。
出生率の低い国(青プロット)は、「妻が望まない」割合が
「夫が望まない」に比べてより高い傾向にあります。
子どもがひとりの夫婦より、ふたり以上の夫婦のほうが、
出生率の低い国において、子どもを「妻が望まない」夫婦の
割合が高くなり、プロットの分布が右方向に広がってくる、
ということも指摘しておくことでしょう。
夫婦間の希望に関して次の指摘は、やや重要だろうと思います。
「夫が子どもを望まず、妻は望んでいる」場合、
子どもを持つにいたる確率は約3分の1になるが、
「妻が子どもを望まず、夫は望んでいる」場合、
子どもを持つ確率はほとんどゼロになるということです。
妻が子どもを望んでいれば夫が望まなくても、いくらか可能性はあります。
夫がいくら子どもを望んでも、妻が望まなければ、
ほとんど子どもを持つことはないことになります。
妻の希望がとりわけ影響が大きいということです。
子供が欲しいかどうかの聞き取りを行った夫婦に3年後に同じ質問をし、
実際にどの夫婦に子供がいるのかを調査した。
結果は、夫婦ともに合意しなければ、出産には至らないというものである。
妻が子供を望み、夫が反対の場合にはまだ可能性があるが、
夫婦ともに望んでいるケースに比べて出産に至る確率は約1/3である。
夫が子供を望み、妻がこれを拒否する場合、
夫婦ともに子供を望まないケースと同じく確率はゼロに等しい。
「妻が子どもを持ちたくない」と考える大きな原因は、
とりもなおさず「夫が育児に積極的に参加しない」ということです。
育児の負担が自分にばかりかかれば、
子どもを欲しいと思わなくなるのは当然ということです。
夫の育児の参加率をプロットした図(図3)を見てみます。
横軸は男性の育児参加率で、0.5で妻と夫が等しくなります。
縦軸は図2の子どもを「妻が望まない」と「夫が望まない」の差です。
図中の国はすべて0.5以下で、妻のほうが育児の負担が大きいです。
ヨーロッパの出生率の高い国でも、まだまだ「育児は女の仕事」であると言えます。

ノルウェーの夫の育児負担率は約40%で、
夫1に対して妻は1.5ということになります。
ベルギーとフランスは約30%で、夫1に対して妻は2.3くらいです。
ドイツは25%ほどで夫1に対してと妻は3くらい、
ほかの出生率の低い国は22%ほどで、夫1に対して妻は3.5程度です。
出生率の高い国は出生率の低い国に比べて
夫の育児参加率が高いことは、はっきりしていると言えます。
出生率の高い国(赤プロット)は、すべて出生率の低い国
(青プロット)より右側にあります。
前の図2では、子どもひとりよりふたり以上いる夫婦のほうが、
出生率が低い国(青プロット)において、
子どもを「妻が望まない」夫婦の割合が高くなっていたのでした。
子どもがひとりいて夫が育児に積極的に参加しないと、
妻は自分にばかり負担がかかることがはっきりわかるので、
ふたり目以上になると、夫の育児の不参加が
妻が子どもを持ちたくない意思に、より強く反映することになります。
多くの夫婦において子供を持つかどうか意見が一致しない。
夫婦が合意しなければ子供は誕生しない。
出生率の低い欧州諸国では、男性はほとんど育児に参加せず、
女性が主に育児を負担している。
育児の大半を女性が負担している国では、
女性が第二子の出産を望まない可能性が高い。
一方、出生率が高い国では男性が積極的に育児に参加しており、
第二子以降の子供を持つかどうかについて賛成・反対の立場に性差はみられない。
付記1:
ここに出てくる「育児分担」に含まれる育児は、
記事の次の記述を見るとかなり多岐におよんでいるようです。
データにはさまざまな育児のタスク(着替え、寝かしつけ、
宿題のサポートなど)を誰が行っているか、詳細な質問が含まれている。
このデータに基づき、各国における男性の育児参加の平均的な指標を作成した。
付記2:
図2と図3で出生率が低い国(青プロット)として挙げられているのは、
GER: ドイツ
AUT: オーストリア
CZE: チェコ共和国
BUL: ブルガリア
ROU: ルーマニア
LUT: リトアニア
RUS: ロシア連邦
です。
これに図1のポーランドを合わせて、中東欧はどこも
出生率の低下に見舞われていることがわかります。
付記3:
図2の「夫婦間の不一致」においてドイツは
子どもを「妻が望まない」と「夫が望まない」の割合が
ほぼ等しいところにあると言えなくもないです。
また図3の「夫の家事分担率」では、出生率の高い国
(赤プロット)よりはドイツは低いですが、東ヨーロッパの
出生率の低い国(青プロット)よりは高くなっています。
それでもドイツの出生率は1.36で、
東ヨーロッパの国ぐに並みにとどまっています。
ドイツの低い出生率は、夫の家事分担や妻の子どもを
持つ希望のほかにも、要因があることが考えられます。
たとえば、子ども・家族向け公的支出に比べて、
高齢者向け公的支出に偏っているという「福祉のバランス」です。

付記4:
家事と育児の分担率についてのOECDの統計を見ると、
フランスとドイツはどちらも、妻は夫の1.6-1.7倍程度
(夫の分担率は37-38%程度)となっています。
図3によると夫の育児の分担率は、フランスは30%、
ドイツは25%程度ですから、育児に限ると妻の分担率は
さらに高くなることになります。
「家事をしない日本の男性と家族思想信仰」
1日あたりの家事時間の国際比較図。日本の男性の平均時間は62分で下から二番目。ジェンダー差が大きい(4倍超!)。右下の北欧国では,男女の家事分担が図られている。ノルウェーの性差はたったの1.2倍。 pic.twitter.com/huTSd1X3V2
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2014年3月8日