ユニセフがOECD加盟国やEU加盟国を対象にした、
子どものいる世帯の所得格差の報告書を発表しています。
中位(中央値)の所得と下位10%の所得を比較して、
どれだけギャップがあるか、国際比較や過去からの変化を見ています。
「ユニセフ調査 日本の「子供いる世帯」 所得格差が深刻」
(はてなブックマーク)
「貧困統計ホームページ」
「ユニセフ 『イノチェンティ・レポートカード13』」
首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩教授が
日本のデータを用いて、ユニセフと同様の算出を行ない
ユニセフの調査と比較できるデータを示しています。
はじめに日本のデータを見ています。
バブル最初の1985年の所得は、子どものいる世帯の下位10%の平均は、
中位(中央値)の平均の50.9%(ギャップは49.1%)でした。
その後「失われた20年」のあいだに中位と下位の格差が広がり、
2012年の所得は下位平均は中位平均の38.8%(ギャップは61.2%)です。
27年間のあいだに10ポイント格差が広がったことになります。
全体の傾向を見ると、バブルの経済成長で、
1994年は1985年より中位平均も下位平均も所得が増えています。
そのあとの「失われた20年」の経済停滞で、
中位平均も下位平均も所得が減り続けることになります。
中位平均よりも下位平均のほうが減りかたが大きく、
経済の停滞は貧困家庭に多くしわ寄せがきていることになります。
2012年の中位平均は211万円で、1985年の177万円よりまだ多いですが、
下位平均の2012年は84万円で、1985年の90万円より少ないです。
「失われた20年」による経済損失は、所得に関する限り
中位層においては「まだ残っている」と言えます。
下位層においてはすでに「すべて失われた」て、
すでにバブル時代以前の水準まで落ち込んでいることになります。
日本の「失われた20年」はとくに貧困層にしわ寄せが大きく、
厳しいものとなっていることがはっきりしました。
このデータは最新ものは2012年です。
よって安倍政権の成果はまったく入っていないことになります。
安倍政権時代に中位と下位との所得格差がどうなったか、
「アベノミクス」は貧困家庭の生活をどれだけ改善したかは、
興味を持たれるところだと思います。
国際比較について見てみることにします。
ユニセフはOECDやEUの加盟国を対象に行なっています。
日本のデータはないのですが、上述のように日本の研究者が
日本のデータを用いて同じ基準で算出しています。
中位(中央値)と下位10%とを比較して、
子どものいる世帯の所得ギャップの小さい国は、
ノルウェー、アイスランド、フィンランド、デンマークと
北ヨーロッパの4か国で占めています。
これらの国はギャップが40%以下(下位所得が中位所得の60%以上)です。
このあたりは予想通りかもしれないです。
日本はギャップが61.2%(下位所得が中位所得の38.8%)です。
下から7位であり、国際的に見て子どものいる世帯の
所得格差が大きい国となっています。
日本と格差が同程度の国は、ポルトガル、イタリア、スペイン、
ギリシャと南ヨーロッパの国が並んでいます。
次に過去(2008年)と現在(2013年)との変化を見てみます。
中位(中央値)所得と下位(10%)所得の格差縮小と格差拡大とでわけるのですが、
さらに子どものいる世帯全体の所得の上昇と下降とでわけることができます。
これら4カテゴリとギャップの変化がほとんどないグループを
合わせて、全部で5カテゴリになります。
1. 格差縮小: 中位所得の上昇より下位所得の上昇が大きい。
社会全体が豊かになっていて、貧困層への再配分もなされている状態。
2. 格差縮小: 中位所得の下降より下位所得の下降が小さい。
社会全体が貧しくなっているが、貧困層へのしわ寄せは抑えられている。
3. 格差の変化がほとんどない。
この場合も全体の所得が上昇する場合と下降する場合があるが、
報告書ではこれらを区別していない。
4. 格差拡大: 中位所得の上昇が下位所得の上昇より大きい。
社会全体が豊かになっているが、貧困層への再配分がふじゅうぶん
5. 格差拡大: 中位所得の下降より下位所得の下降より大きい。
社会全体が貧しくなっていて、そのしわ寄せは貧困層に多く来ている。
1.のもっとも望ましいカテゴリに入る国は4つあって、
韓国、スイス、チェコ共和国、フィンランドです。
韓国はこの中で子どものいる世帯の格差縮小が最大となっています。
いまだ経済成長が続いていて、その影響ということでしょうか。
単に経済成長するだけでは、貧困家庭を置き去りにすることもありますから、
格差縮小ということは再配分や子どもの福祉にも
配慮があるということだと思います。
スイス、チェコ共和国、フィンランドの3か国は、
2008年でも子どものいる世帯の所得格差が小さい国でした。
5年間でさらに格差を縮めたことになります。
日本はこの中にはなく、阿部彩氏の算出した数値にも
2008年に近いデータがないのですが、1985年からの推移を見れば
5.の最悪のカテゴリに入ることは、容易に予想できます。
2003年と2012年の数値を補間すると、
3%-4%くらい格差が開いていると推測できます。
5.のカテゴリには南ヨーロッパの国が多く入っています。
これらの国ぐにでは、経済が停滞して社会全体の所得が減り、
かつそのしわ寄せが貧困家庭に多く来ていることになるでしょう。