アベノミクスのもっともきわだった成果とよく言われます。
実際それはデータで示されることがあります。
ところが内容をよく見ると、実態は雇用状況が改善したとは言えない
という指摘があるので、見てみたいと思います。
「特集ワイド 「雇用改善」は本当か 安倍首相は「アベノミクスの成果」と言うが…」
(はてなブックマーク)
結論を言うと「アベノミクスで雇用が増えた」のは
団塊の世代が定年退職したことによってできた雇用の「穴」を、
高齢者や女性の短時間労働の非正規雇用者が埋めたことによります。
総労働時間は最近の2年ほどは増えていないです。
よってこれは退職した「正規雇用ひとりの仕事を、
非正規雇用複数人でわけあっている」ということになります。
仕事の量はそのままで労働者の数だけ増えているわけです。
「雇用が110万人増えた」のはなぜか。
河野さんは「アベノミクスが始まった12年は、
人口の多い『団塊の世代』が65歳を迎え、職場から引退し始めた時期。
人手不足で労働者の採用が難しい中、その穴を補充したのは
高齢者や主婦などの短時間労働者だったと見ています」と話す。
退職した正社員1人の仕事を、非正規の短時間労働者が分け合っているというのだ。
事実、<1人あたりの労働時間×就業者数>で算出する
総労働時間は14、15年とほとんど増えていないという。
つまり、仕事量は変わらず、労働者だけ増えていることになる。
「国内総生産(GDP)はこの2年間全く増えず、
実体経済はほとんど成長しませんでしたが、
その事実とも合致します」と河野さん。
総労働時間(ひとりあたり労働時間×就業者数)の年次推移は、
2014年までですが次のサイトに出ています。
「第2図 年間総実労働時間の推移」
男女の合計を見ると2014年の総労働時間は1637時間で、
アベノミクス最初の年の2013年は1615時間です。
民主党政権時代の総労働時間は1640時間程度ですから、
2013年には減って、2014年は同程度になります。
2015年のデータはないですが、2014年までの総労働時間は
民主党政権時代と比べて取り立てて増えていないことがわかります。
(図は男女別のデータも示していますが、
男女の合計と傾向は同じようになっています。)
「アベノミクスが増やした雇用は非正規」ということはよく言われます。
その非正規雇用は高齢者と女性が多いことも指摘されています。
また若年層はあいかわらず非正規雇用に回されることが多いです。
「実質賃金の低下と男女格差」
「日本の非正規雇用はひどい」
「安倍政権・経済効果が薄い理由」
そして毎日の記事で事例が紹介されているように、
30-50代の男性もなかなか正規雇用になれないという現実があります。
「派遣切り」で住まいを失った非正規労働者らに、
一時宿泊施設を提供している「反貧困ネットワーク広島」に尋ねた。
説明によると、広島市内で準備している宿泊施設の10室は
ここ数年、常に満室で、今も空室待ちが続いている。
昨年は約150人が利用し30〜50代の中年男性が多かった。
ほとんどが正社員の職を望んでいるが
「体を酷使する非正規の仕事しかない。この1年で正社員に
なれたのは1人だけでした」(スタッフ)と厳しい状況を訴える。
「アベノミクスで雇用が増えた=正規雇用ひとりの仕事を、
非正規雇用複数人でわけあっている」という状況は
こうした「雇用状況の改善を感じられない」人たちの
実感とよく合っているのではないかと思います。
このあたりが「アベノミクスで増えた雇用は非正規」の実態、
ということになりそうです。
「アベノミクスが増やした雇用は非正規ばかり」ということは、
やはり問題視されることだったことになりそうです。
退職した正規雇用ひとりの仕事を、非正規雇用複数人で
わけあうだけなら、金融緩和やインフレターゲットがなくても、
民主党政権が続いても「雇用が増えた」可能性があります。
団塊の世代の退職は経済政策とはなんの関係もないし、
総労働時間が増えないなら、経済政策も関係ないことになるからです。
非正規雇用とはいえ雇用を増やしていることさえ、
「アベノミクスの成果」と言えるかどうかも怪しくなりそうです。
アベノミクスの支持者たちも、正規雇用が減ったのは
団塊の世代の退職によるもので、「増えた雇用」は
高齢者や女性の非正規であることは認めています。
(彼らは「増えた雇用は非正規」の擁護のために持ち出した。)
この事実をもって、「雇用が増えたからアベノミクスは
成果を出している」と評価していたのでした。
「金融緩和と非正規雇用」
「女性の非正規は見えない?」
「女性の非正規は問題ない?」
「アベノミクスで雇用が増えた」と主張するならば、
総労働時間が増える必要があると思います。
(アベノミクス支持者たちのデータを見たときは、
わたしも総労働時間までは気づかなかったです。
非正規が増えても総労働時間も増えているのかと
なんとなく思っていました。)
同じ事実を踏まえているのに、毎日の記事でインタビューを
受けている識者は、「雇用状況が改善したとは言えない」と、
アベノミクスの支持者たちと反対のことを結論するという、
いかんともしがたい事態になっています。
雇用と貧困の問題に詳しい橘木俊詔・京都女子大客員教授は
「非正規労働者の割合が増え続ける傾向に変わりはありません。
『雇用環境が改善した』と手放しで喜べる状況ではないと考えています」