「安倍政権の経済効果によって雇用が増えた」ことを示す指標として、
有効求人倍率の年次推移が使われることがよくあります。
具体的には、安倍政権に入って有効求人倍率が1を超えたことを
「アベノミクス」の「成果」として主張します。
「特集ワイド 「雇用改善」は本当か 安倍首相は「アベノミクスの成果」と言うが…」
(はてなブックマーク)
この「有効求人倍率」も少しよく見ると「雇用状況が改善した」とは
必ずしも言えなくなってくるようです。

>少子高齢化
近年に有効求人倍率が増えた理由として、
少子高齢化があることを、記事では指摘しています。
人口減少にともなって、労働力人口が減っているということです。
有効求人倍率が上がるもう一つの理由に、
少子高齢化で働く人が減っている事情もある。
昨年10月の国勢調査の速報値では、15歳以上の労働力人口は
6075万人で、5年前に比べ295万人減った。
「有効求人倍率は求人数を求職者で割って算出するので、
分母にあたる求職者が減れば倍率が上がりやすくなる。
当然の話です」(厚労省関係者)
総務省統計局の調査ですが、労働力人口の推移が出ています。
15-64歳の労働力人口は2005年から毎年減り続けています。
(65歳以上も含めると2012年以降微増する。)
少子高齢化とそれによる人口減少は明らかに
直接的な経済政策とは関係ないものです。
「労働力調査(基本集計)平成27年(2015年)平均(速報)結果の要約 」


>職種ごとの有効求人倍率
上述の有効求人倍率はすべての職種を平均化したものです。
職種ごとに求人倍率の差があるわけで、働きたい職種に
求人がないという「ミスマッチ」の問題が出てきます。
また、有効求人倍率からは、働きたい職種に求人がない
という「ミスマッチ」の問題は見えない。
例えば、今年1月に初めて倍率1倍(受理地別、以下同じ)を超えた青森県。
4月は1・06倍だが、職種別に見ると、
人気の事務職は約0・26倍とかなり低い。
一方、人手不足の介護職は1・78倍、建設関係の現業職も2倍近くあり、
これらが全体を押し上げている。
職種ごとの求人倍率は、次のエントリに図が出ています。
記事で例に上がっている「介護」はフルタイムで2倍、
パートで3.5倍以上となっています。
「建設業」はフルタイムで3倍以上、パートでも1倍以上あります。
「職業別の有効求人倍率」
職業別の有効求人倍率。先ほど更新のブログ記事より転載。建設関係は正社員希求型,サービス職はパート希求型。一般事務などはお呼びでない。 pic.twitter.com/9xegcx0dd8
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2014年12月28日
これらの職種は資格が必要なので、人手が足りなくても、
だれもが採用されるわけではないことがあります。
厚生労働省青森労働局の担当者は「福祉や介護、建設業では
採用側が有資格者を求めるケースも多いので、
求人数が多くても、皆が採用されるわけではありません。
求人倍率は改善していますが、求職者の職業訓練や求人の
さらなる確保などの対策は、まだまだ必要です」と訴える。
介護の場合、賃金水準が低いため、資格を持っていても
なろうとする人が少なく、人手不足になることもあるでしょう。
「介護士の厳しい待遇は「女性労働だから低賃金で低待遇」」
よってこうした職種は求人倍率がいくら高くでも、
職に就ける人はたいして多くなく、雇用状況が改善されない
にもかかわらず、全体の有効求人倍率を押し上げて、
統計上「求人が増えた」ように見せることになります。
(介護や福祉の待遇が改善されて、これらの職種に就く人が増えると
求人倍率が下がって、統計上「雇用が減った」ことになって、
「雇用状況が悪くなった」ように見えるかもしれないです。)
記事では介護・福祉と建設業を同列に並べていますが、
建設業はフルタイム・正規雇用の求人が多いのに対し、
介護や福祉はパートタイム・非正規雇用の求人が多いこと
(求人の職業形態に差がある)に、付け加えておきたいと思います。
上の図は「一般事務」のプロットにも印がつけてあります。
フルタイムは0.2倍程度、パートタイムは0.3倍程度で、
求職してもほとんど採用されないことになります。
上のツイートでは「一般事務などはお呼びでない」なんて
書いてあるけれど、それよりも「希望者がきわめて多い」
ということではないかと思います。
かくして全体の有効求人倍率が高くなっても、
依然として職に就けない人は、たくさんいることになります。