2016年08月19日

toujyouka016.jpg 「求人倍率1倍超え」の実態

8月14日エントリの続き。

「安倍政権の経済効果によって雇用が増えた」ことを示す指標として、
有効求人倍率の年次推移が使われることがよくあります。
具体的には、安倍政権に入って有効求人倍率が1を超えたことを
「アベノミクス」の「成果」として主張します。

「特集ワイド 「雇用改善」は本当か 安倍首相は「アベノミクスの成果」と言うが…」

(はてなブックマーク)

この「有効求人倍率」も少しよく見ると「雇用状況が改善した」とは
必ずしも言えなくなってくるようです。

 
有効求人倍率の推移


>少子高齢化

近年に有効求人倍率が増えた理由として、
少子高齢化があることを、記事では指摘しています。
人口減少にともなって、労働力人口が減っているということです。

有効求人倍率が上がるもう一つの理由に、
少子高齢化で働く人が減っている事情もある。
昨年10月の国勢調査の速報値では、15歳以上の労働力人口は
6075万人で、5年前に比べ295万人減った。
「有効求人倍率は求人数を求職者で割って算出するので、
分母にあたる求職者が減れば倍率が上がりやすくなる。
当然の話です」(厚労省関係者)

総務省統計局の調査ですが、労働力人口の推移が出ています。
15-64歳の労働力人口は2005年から毎年減り続けています。
(65歳以上も含めると2012年以降微増する。)
少子高齢化とそれによる人口減少は明らかに
直接的な経済政策とは関係ないものです。

「労働力調査(基本集計)平成27年(2015年)平均(速報)結果の要約 」

労働力人口(15-64歳)の年次推移
年齢階級別労働力人口の推移


>職種ごとの有効求人倍率

上述の有効求人倍率はすべての職種を平均化したものです。
職種ごとに求人倍率の差があるわけで、働きたい職種に
求人がないという「ミスマッチ」の問題が出てきます。

また、有効求人倍率からは、働きたい職種に求人がない
という「ミスマッチ」の問題は見えない。
例えば、今年1月に初めて倍率1倍(受理地別、以下同じ)を超えた青森県。
4月は1・06倍だが、職種別に見ると、
人気の事務職は約0・26倍とかなり低い。
一方、人手不足の介護職は1・78倍、建設関係の現業職も2倍近くあり、
これらが全体を押し上げている。

職種ごとの求人倍率は、次のエントリに図が出ています。
記事で例に上がっている「介護」はフルタイムで2倍、
パートで3.5倍以上となっています。
「建設業」はフルタイムで3倍以上、パートでも1倍以上あります。

「職業別の有効求人倍率」


これらの職種は資格が必要なので、人手が足りなくても、
だれもが採用されるわけではないことがあります。

厚生労働省青森労働局の担当者は「福祉や介護、建設業では
採用側が有資格者を求めるケースも多いので、
求人数が多くても、皆が採用されるわけではありません。
求人倍率は改善していますが、求職者の職業訓練や求人の
さらなる確保などの対策は、まだまだ必要です」と訴える。


介護の場合、賃金水準が低いため、資格を持っていても
なろうとする人が少なく、人手不足になることもあるでしょう。

「介護士の厳しい待遇は「女性労働だから低賃金で低待遇」」

よってこうした職種は求人倍率がいくら高くでも、
職に就ける人はたいして多くなく、雇用状況が改善されない
にもかかわらず、全体の有効求人倍率を押し上げて、
統計上「求人が増えた」ように見せることになります。

(介護や福祉の待遇が改善されて、これらの職種に就く人が増えると
求人倍率が下がって、統計上「雇用が減った」ことになって、
「雇用状況が悪くなった」ように見えるかもしれないです。)

記事では介護・福祉と建設業を同列に並べていますが、
建設業はフルタイム・正規雇用の求人が多いのに対し、
介護や福祉はパートタイム・非正規雇用の求人が多いこと
(求人の職業形態に差がある)に、付け加えておきたいと思います。


上の図は「一般事務」のプロットにも印がつけてあります。
フルタイムは0.2倍程度、パートタイムは0.3倍程度で、
求職してもほとんど採用されないことになります。

上のツイートでは「一般事務などはお呼びでない」なんて
書いてあるけれど、それよりも「希望者がきわめて多い」
ということではないかと思います。
かくして全体の有効求人倍率が高くなっても、
依然として職に就けない人は、たくさんいることになります。

posted by たんぽぽ at 22:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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