2016年08月20日

toujyouka016.jpg 同姓強制は受け入れられたか

稲田朋美の政治思想について触れた記事があります。
なぜきゅうに稲田朋美なのかというと
次期首相候補と目されているからだと思います。
選択的夫婦別姓についても出てくるので、見てみたいと思います。

「夫婦別姓で家族崩壊? 稲田防衛相が語ってきたこと」
(はてなブックマーク)

稲田朋美の思想なんて、何度も言及されることがあるし、
よくご存知のかたもいらっしゃると思います。
それでもまだまだぜんぜん知らないかたも少なくないと思うので、
ときどき話題にすることはよいだろうと思います。

 
選択的夫婦別姓に関するところを全文引用します。
反対派(非共存派)にありがちなさんざん見慣れた
被害妄想、ヒステリーで、取り立てて真新しい内容はないです。

「夫婦別姓運動はまさしく、一部の革新的左翼運動、
秩序破壊運動に利用されているのです」

2010年に出版された、稲田さんの著作「私は日本を守りたい 」より。
稲田さんがとりわけ強い思いを込めて、
反対しているのが、選択的夫婦別姓法案だ。
稲田さんにいわせると、この法案は「亡国法案」である。

なぜなら、夫婦別姓は家族のつながりを「希薄化させる」から。
「いま日本社会が取り戻すべきは、家族の一体感であり、
夫婦・親子の絆ではないかと思います」

「家族の絆を強めるためには、やはり夫婦が同姓でいることが好ましい。
これは長い日本の歴史の営みのなかで、ごく自然にみなが
受け入れてきたことで、なぜわざわざ破壊する必要があるのか」


稲田さんの目から、夫婦別姓推進論者はこう見えていた。

この法案を推進する議員は稲田さんからはこう見える。
「彼らの本心はマルクス主義のテーゼに従って
結婚制度や戸籍制度の廃止、さらには家族の廃止を
最終目標にしている、そんなふうに見えます」

ここで注目したいのは、稲田朋美は夫婦同姓の強制を
「これは長い日本の歴史の営みのなかで、
ごく自然にみなが受け入れてきたこと」などと言っていることです。
そんな事実はどこにあるのかと思います。


2015年12月の東京新聞のアンケートでは、
男性の13.7%、女性の28.7%が夫婦別姓を希望しています。
自分は同姓がいいが、選択的夫婦別姓は認めるというかたまで含めると、
男性の7割程度、女性の9割程度が賛成です。

「東京新聞・別姓のアンケート」
「夫婦別姓 多数容認 本紙アンケート7940人回答」

「選択的夫婦別姓」どう思う?

2015年12日のウートピの女性対象のアンケートでは、
63%のかたが結婚改姓したくないと回答しています。

「非改姓結婚希望が6割以上」
「首都圏で働く30代女性向けサイト『ウートピ』にて読者900人がアンケートに回答」

夫婦別姓が可能になったら、あなたは?


小学一年生がこぞって結婚改姓するのは嫌だと言った
という畑恵氏のお話もあります。

「結婚改姓が嫌な子どもたち」
「結婚したら名前が変わるなんてヤダー! ― 小1生の本音を最高裁はどう聞く」

「ねっ、そういう風に大人になって結婚すると、
みんなも名前が変わるんだよ」と、私が軽率な言葉を口にしたとたん、
クラス中から一斉に「ヤダー!」の大合唱が。
しかも、先に声を上げたのは、みんな男の子たちです。

(えっ、男の子は名前は変えなくて大丈夫なのに...)と
私が心の中で思っていると、ちょっとオシャマな女の子が、
「だから、アタシ、結婚なんてしないの」と、毅然と胸を張ります。
これを耳にした周りの子たちも、「じゃあ、ボクもしない」「私もしない」と、
この日の給食は結婚拒否発言の嵐で幕を閉じました。

夫婦同姓の強制を「ごく自然にみなが受け入れて」などいないことは、
これだけでもじゅうぶんわかると言えます。


2013年2月の内閣府による「家族の法制に関する世論調査」を見ると、
「仕事と婚姻による名字(姓)の変更」の設問で、
「何らかの不便を生ずることがあると思う」と答えたかたは45.6%でした。

「仕事と婚姻による名字(姓)の変更」

仕事と婚姻による名字(姓)の変更

「婚姻による名字(姓)の変更に対する意識」の設問は、
22.3%が「名字(姓)が変わったことに違和感を持つと思う」と答え、
7.4%が「今までの自分が失われてしまったような
感じを持つと思う」と答えています。

「婚姻による名字(姓)の変更に対する意識」

婚姻による名字(姓)の変更に対する意識

これらの人たち全員が非改姓結婚をしている、
もしくは望んでいるということではないでしょうが、
結婚しても苗字を変えないことに対するモチベーションの
程度の差があるだけで、結構たくさんのかたが
結婚改姓に不満や違和感を持っていると言えます。


結婚改姓に不満や違和感を持つ人がいるのは、現在だけではないです。
夫婦別姓訴訟の原告の塚本協子さんを始め、
戦後民法が施行されたころから、結婚改姓を強いられることを
受け入れられないというかたは、少なからずいたのでした。

「別姓訴訟・塚本さんの記事」

25歳で迎えた結婚式は、しゅうとの独断で「嫁取り」に。
以来13年間、事実婚を貫いた。その間、3人の子供をもうけたが、
その度に婚姻届と離婚届を繰り返し提出し、塚本姓にこだわり続けた

「夫婦別姓問題の大先輩の記事」
「自分の姓「切り離せない」=56年前から夫婦別姓ー札幌の女性、訴訟も支援」」

56年前に事実婚を始めた札幌市の神力就子さん(81)は
原告ではないが、訴訟を起こした塚本協子さん(80)=富山市=と同様、
選択的夫婦別姓制度を待ち望む女性の草分け的な存在だ。
「自分の姓と名は切り離せない」と、制度実現を強く訴える。


高度経済成長期は、女性が自立できるだけの職に就けることが少なく、
結婚して男性に養われるよりないことが多かったのでした。
95%以上のケースで女性が結婚改姓していることが示すように、
事実上、結婚したら改姓するのは女性という一択です。

「非婚・未婚と経済問題」
「未婚率が低かった時代」

「女姓婚が増えている」
「現行法は男女どちらの姓も選べるから平等?」

「結婚せざるをえない」「改姓せざるをえない」という
ふたつの社会的圧力の組み合わせによって、
不本意に結婚改姓した女性も、少なくなかったと思われます。
同姓強制はかかるたくさんの「見えない犠牲」の上に
成り立ってきたのであって、「ごく自然にみなが受け入れて」
きたのではないことがわかります。


同姓強制をなぜ「ごく自然にみなが受け入れて」きたように
見えるかですが、それは同姓強制に不満や違和感があるかたが
「見えない」だけであって、それとは知らずに
わりとしょっちゅう接しているであろうということです。

「非改姓婚を望む人たちの数」

一般に被差別マイノリティは、みずからの存在を隠す傾向があります。
どこに差別的な人がいて、心ない攻撃をしてくるかわからないからです。
夫婦別姓に関しても、「わがままで身勝手だ!」
「子どものことを無視するのか!」といきり立つ人は珍しくないです。

よって苗字を変えたくない気持ちがあっても、
おいそれとは語るはずもなく、通常はそれを隠して
だれにも知られないようにするでしょう。
こうして同姓強制に不満や違和感のある人は見えなくなるわけです。


戦後民法によって規定された「家族のありかた」を
金科玉条のように維持することを「教義」にする
「家族思想信仰」にもとづくと、自分たちの「教義」に合わない
「家族」を、ことごとく「存在しない」ことにします。

「家族思想信仰における「異教徒」」
「サザエさんに見る日本の“家族信仰”は異常 
『シングルマザーの貧困』著者が語る、標準以外を無視する社会」


でも目に見える形で迫害されるのではなく、ひたすら存在を無視されるんです。
この国は標準世帯以外の人たちを見捨てることによって、
美しい家族像の純粋性を守ってきました。

稲田朋美も「家族思想」を「信仰」にしていますから、
非改姓結婚を望む人や、同姓強制に不満や違和感がある人を
積極的に「いなかった」ことにしているのでしょう。
それでますます存在が「見えない」ことになり、
あたかも「ごく自然にみなが受け入れてきた」と、
思い込むことになるものと思います。

posted by たんぽぽ at 14:32 | Comment(2) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
新内閣発表の際、ワイドショーでは稲田朋美氏に、スポットがかなり当たってましたね。
女性、急出世→防衛大臣というところが、ちょうど都知事になった小池氏にかぶる、という感じで。彼女のこれまでの輝かしい?キャリア、そして、ファッション、めがねにまで。
しかし、正直「はあ?」でした。見た目はお世辞にもきれいではありませんし、華がないですから、このひと。

なんでまた、女性がターゲットのワイドショーで、こんな嬉しくもなんともない、女性の敵のような政治思想の女性に注目するのか、私にはまったく理解できませんね。メディアも理解してないですよね。おそらくこのネタ、続かないでしょう。


Posted by うがんざき at 2016年08月22日 20:10
うがんざきさま、
こちらにもコメントありがとうございます。

>新内閣発表の際、ワイドショーでは稲田朋美氏に、
>スポットがかなり当たってましたね

安倍首相の後継と目されているので、
マスコミもせっせと持ち上げるようですね。
小泉の後継としての安倍、石原の後継としての猪瀬が
持ち上げられたのと、同じようなものでしょう。

小池百合子をメディアが持ち上げるのは、
小泉的、橋下的な「カイカク」を感じるからではないかと思います。
こちらも日本のマスコミが大好きだと思います。
http://lacrima09.blog.shinobi.jp/Entry/966/


>女性がターゲットのワイドショーで、こんな嬉しくもなんともない、
>女性の敵のような政治思想の女性に注目するのか、

単純に考えれば「わかってないから」でしょうね。

うがった考えかたをすれば、「女性の権利に反対してきた女性、
男性の利益に与する女性に限っては、熱心に『女性』という理由で支持する」
ということがありそうです。
Posted by たんぽぽ at 2016年08月22日 22:38
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