安倍政権の経済政策によって、すべての都道府県で有効求人倍率が
1を超えたことは、「アベノミクス」の成果としてよく主張されます。
これも注意を要することだという指摘があります。
「特集ワイド 「雇用改善」は本当か 安倍首相は「アベノミクスの成果」と言うが…」
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有効求人倍率の算出には「受理地別」と「就業地別」があります。
「就業地別」のほうが地方の倍率を高く算出する傾向があります。
そして安倍首相が「すべての都道府県で1倍を超えた」と
主張している求人倍率は「就業地別」です。
むかしから使われていた求人倍率は「受理地別」です。
そして「受理地別」では、まだ全ての都道府県で
有効求人倍率が1倍を達成していないのでした。
ここで安倍首相は「アベノミクスの成果」を強調するのに、
都合のいい数字を使っていることになります。
ただ、「全都道府県で1倍を実現」は説明を要する。
有効求人倍率は、求人票を受理した県を基準にする
「受理地別」が一般的だが、安倍首相が言っているのは、
実際の勤務地を基準にする「就業地別」で、05年から集計を始めた新しい物差し。
今年4月に1倍を超えたのは就業地別の方で、受理地別では沖縄が0・94倍、
鹿児島が0・97倍、最新の5月統計でも沖縄は0・98倍で
「全都道府県で1倍」はまだ実現していない。
都市部の本社が地方の支社の求人を出した時、受理地別なら都市部の
求人に計上されるが、就業地別なら支社のある地方に計上される。
つまり、「47都道府県すべてで1倍」は、統計の取り方次第で変わる数字なのだ。
少し古いですが2014年の、都道府県別の有効求人倍率の表があります。
これを見ると「受理地別>就業地別」となっているのは、
東京、大阪、愛知など7都道府県しかないです。
これらの都道府県は大企業の本社が多いので、
他県から求職者が集まってくることによります。
「日銀コーナー 統計の散歩道 有効求人倍率について」

ほかの40都道府県は「受理地別<就業地別」となっています。
これらは県内では求人が少なく、求職者は大都市圏に
本社のある企業に就くことが多いからです。
「受理地別」から「就業地別」を差し引いた「解離幅」が大きいほど、
求職者が県外に流出していることになります。
地方では若年層の人口流出という問題もあります。
求職する人がいなくなるから、求人倍率が上がるということです。
さらに地方では、若者の都会への人口流出が拍車をかける。
例えば、昨年9月にやはり史上初めて有効求人倍率が1倍を超えた高知県。
厚労省高知労働局の集計では、求職者は09年度の1万9000人から
昨年度は1万4400人と4000人以上の減少。
また、14年の他県への転出者は、転入者より2179人多く、
年齢別に見ると、20〜24歳がその半数以上を占める。
記事で言及されている高知県については、求職者数の推移は
2014年2月までですが、次のようになっています。
安倍政権が始まる直前の2012年の後半から、求職者が減り始めています。
(安倍政権と重なったのは、単なる偶然だろうと思います。)
「高知県の雇用・賃金情勢について」

上記の日本銀行の記事でも、安倍政権時代に
有効求人倍率が上がったのは「求人数の増加に加え、
求職者数の減少もあって」と書いているくらいです。
今回局面では、まず2010年から2011年にかけては
求人数の増加によって、また2013年以降は求人数の増加に加え、
求職者数の減少もあって、有効求人倍率が上昇している(図表5、6)。
高知県の人口流出については2013年までのデータですが、
21世紀に入った2001年からずっと、「転入者数<転出者数」です。
「高知県の人口推移(S60-H52)」

2013年の高知県の転入超過数を見ると、県外への転出者数は
20-24歳が圧倒的に多く、ついで15-19歳で、
これらの2世代で転出者のほとんど全部となっています。
転出者のほとんどは高校新卒や大学新卒で就職する世代です。
県内に就職先がないので、県外に出るよりない様子が伺えます。

「すべての都道府県で有効求人倍率が1を超えた」というのは、
大都市圏集中にともなう地方の過疎化も、
少なからず影響していることになりそうです。
そこへもってきて「就業地別」という
地方の求人倍率を高く算出する指標を使って、
「アベノミクスの成果」を強調したことになるでしょう。
大都市圏では確かに雇用を増やしたのだろうとは思います。
地方までは雇用を増やしたとは、必ずしも言えないことになりそうです。
「すべての都道府県で有効求人倍率が1を超えた」というのは、
むしろ大都市圏と地方の格差を広げた結果であり、
「成果」として豪語することではないのではないかと思います。