2016年08月21日

toujyouka016.jpg 「求人倍率1倍超え」の実態(2)

8月14日エントリ8月19日エントリの続き。

安倍政権の経済政策によって、すべての都道府県で有効求人倍率が
1を超えたことは、「アベノミクス」の成果としてよく主張されます。
これも注意を要することだという指摘があります。

「特集ワイド 「雇用改善」は本当か 安倍首相は「アベノミクスの成果」と言うが…」
(はてなブックマーク)

 
有効求人倍率の算出には「受理地別」と「就業地別」があります。
「就業地別」のほうが地方の倍率を高く算出する傾向があります。
そして安倍首相が「すべての都道府県で1倍を超えた」と
主張している求人倍率は「就業地別」です。

むかしから使われていた求人倍率は「受理地別」です。
そして「受理地別」では、まだ全ての都道府県で
有効求人倍率が1倍を達成していないのでした。
ここで安倍首相は「アベノミクスの成果」を強調するのに、
都合のいい数字を使っていることになります。

ただ、「全都道府県で1倍を実現」は説明を要する。
有効求人倍率は、求人票を受理した県を基準にする
「受理地別」が一般的だが、安倍首相が言っているのは、
実際の勤務地を基準にする「就業地別」で、05年から集計を始めた新しい物差し。

今年4月に1倍を超えたのは就業地別の方で、受理地別では沖縄が0・94倍、
鹿児島が0・97倍、最新の5月統計でも沖縄は0・98倍で
「全都道府県で1倍」はまだ実現していない。

都市部の本社が地方の支社の求人を出した時、受理地別なら都市部の
求人に計上されるが、就業地別なら支社のある地方に計上される。
つまり、「47都道府県すべてで1倍」は、統計の取り方次第で変わる数字なのだ。


少し古いですが2014年の、都道府県別の有効求人倍率の表があります。
これを見ると「受理地別>就業地別」となっているのは、
東京、大阪、愛知など7都道府県しかないです。
これらの都道府県は大企業の本社が多いので、
他県から求職者が集まってくることによります。

「日銀コーナー 統計の散歩道 有効求人倍率について」

各都道府県の有効求人倍率(就業地別・受理地別、14/7月)

ほかの40都道府県は「受理地別<就業地別」となっています。
これらは県内では求人が少なく、求職者は大都市圏に
本社のある企業に就くことが多いからです。
「受理地別」から「就業地別」を差し引いた「解離幅」が大きいほど、
求職者が県外に流出していることになります。


地方では若年層の人口流出という問題もあります。
求職する人がいなくなるから、求人倍率が上がるということです。

さらに地方では、若者の都会への人口流出が拍車をかける。
例えば、昨年9月にやはり史上初めて有効求人倍率が1倍を超えた高知県。
厚労省高知労働局の集計では、求職者は09年度の1万9000人から
昨年度は1万4400人と4000人以上の減少。
また、14年の他県への転出者は、転入者より2179人多く、
年齢別に見ると、20〜24歳がその半数以上を占める。

記事で言及されている高知県については、求職者数の推移は
2014年2月までですが、次のようになっています。
安倍政権が始まる直前の2012年の後半から、求職者が減り始めています。
(安倍政権と重なったのは、単なる偶然だろうと思います。)

「高知県の雇用・賃金情勢について」

有効求人・求職者数(高知県)

上記の日本銀行の記事でも、安倍政権時代に
有効求人倍率が上がったのは「求人数の増加に加え、
求職者数の減少もあって」と書いているくらいです。

今回局面では、まず2010年から2011年にかけては
求人数の増加によって、また2013年以降は求人数の増加に加え、
求職者数の減少もあって、有効求人倍率が上昇している(図表5、6)。


高知県の人口流出については2013年までのデータですが、
21世紀に入った2001年からずっと、「転入者数<転出者数」です。

「高知県の人口推移(S60-H52)」

高知県位おける他都道府県からの転入者数及び転出者数の推移

2013年の高知県の転入超過数を見ると、県外への転出者数は
20-24歳が圧倒的に多く、ついで15-19歳で、
これらの2世代で転出者のほとんど全部となっています。
転出者のほとんどは高校新卒や大学新卒で就職する世代です。
県内に就職先がないので、県外に出るよりない様子が伺えます。

平成25年 高知県の年齢別転入超過数


「すべての都道府県で有効求人倍率が1を超えた」というのは、
大都市圏集中にともなう地方の過疎化も、
少なからず影響していることになりそうです。
そこへもってきて「就業地別」という
地方の求人倍率を高く算出する指標を使って、
「アベノミクスの成果」を強調したことになるでしょう。

大都市圏では確かに雇用を増やしたのだろうとは思います。
地方までは雇用を増やしたとは、必ずしも言えないことになりそうです。
「すべての都道府県で有効求人倍率が1を超えた」というのは、
むしろ大都市圏と地方の格差を広げた結果であり、
「成果」として豪語することではないのではないかと思います。

posted by たんぽぽ at 19:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - 「求人倍率1倍超え」の実態(2) web拍手
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック