2016年08月28日

toujyouka016.jpg 誰が最初の子の世話をするか?

少し古いですが、2月16日の『ニューズウィーク』に、
「小さい子の世話はだれが見るべきか」という意識についての
国際比較についての、舞田敏彦氏の記事があります。
これを見てみたいと思います。

「育児も介護も家族が背負う、日本の福祉はもう限界」
(はてなブックマーク)

前に日本、フランス、スウェーデンの3か国で比較した図が
ありましたが、もっとたくさんの国で比較しています。

「誰が最初の子の世話をするか?」

 
「就学前の子どもの世話はまず誰がするべきか」という図があります。
国際社会調査プログラム(ISSP)が2012年に行なった
「家族と性役割に関する意識調査」が出典です。
横軸は「家族がするべき」、縦軸は「行政がするべき」です。

幼子の世話は、最初に誰がするべきか


左上に北ヨーロッパの国ぐにが集まっているのがきわだっています。
「政府がするべき」が60%程度から80%以上あり、
「家族がするべき」は20%程度しかないです。
これらの国ぐにでは、就学前の子どもの世話は政府の役目
という意識がかなり定着しているということです。

左上は、「政府機関がするべき」という回答が多い国だ。
スウェーデンやフィンランドなど、北欧の国が多い。
こうした意識は政策にも反映されていて、スウェーデンでは希望者を
保育所に入れるのは自治体の法的な義務で、待機児童はほぼゼロだ。
「公型」保育の国だと言えるだろう。

行政による保育所の整備が充実しているから、
「子どもの世話は政府の仕事」という意識が強く持てるのでしょう。
あるいは、そういう意識が強いから政策に反映されて、
行政による保育に関する施策が充実するのもあるでしょう。


イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国といった
欧米の民主主義国は均等線の下にあって、「家族がするべき」が
「政府がするべき」よりやや多くなっています。

家族やジェンダーに関する調査では、北ヨーロッパと
それ以外の欧米の民主主義国は、プロットが重なるか、
差があっても連続した位置に来ることが相場です。

「だれが最初に子どもの世話をするべきか」という
意識に関しては、北ヨーロッパは突出しているのであり、
「福祉国家=北ヨーロッパ」という前時代のイメージは
いまだ健在ということになりそうです。


英仏米の3か国は「民間がするべき」という回答が多いです。
具体的には家族が雇い入れるシッターさんです。
この調査は「政府」「民間」「家族」の3つの軸で考える
必要があるのでしょうけれど、3次元の図を描くと視覚的に
わかりにくくなるので、いずれかふたつを選んで
図示せざるをえなかったものと思います。

韓国や欧米主要国は両者の中間にあるが、
米英仏では「民間の保育事業者」という回答が比較的多い<図2>。
個々の家庭が雇い入れる保育シッターなどを指している。
フランスではこの回答が最も多い(49%)。
実際に、保育所よりシッターに子どもの世話を委ねる親が多い。

幼子の世話は、最初に誰がするべきか(主要国)


アメリカ合衆国は「民間がするべき」が35%以上を占めています。
保育も市場化・民営化されていて、シッターを雇うことが
一般的ということもあるのでしょう。

「アメリカの保育事情」

フランスは「民間がするべき」の割合がもっとも高く、
48.5%もあって、半数近くが答えています。
市場化のアメリカ合衆国より高い割合です。
家族政策を重視した結果であろうことが考えられます。

「フランスの家族政策」
「フランスの家族政策(2)」


右下に集まっているのが家族中心の国ぐにです。
「家族がするべき」が75%以上、「政府がするべき」は15%以下です。
中国、台湾、フィリピンなどアジアの国が多くなっています。
福祉を削って家族に負担させようとする傾向の強い日本も、
ご他聞に漏れずこのカテゴリに入っています。

対極の右下には、「私型」保育の国が位置している。
「乳幼児の世話は家族がするべき」という考えが強い国で、
フィリピン、中国、台湾、日本といったアジア諸国が目に付く。
家族中心の考え方が強いお国柄を示している。

やや特筆するのは韓国で、「家族がするべき」が60%以下で、
欧米の民主主義国と同じ領域にあることです。
シッターがそれほど普及していないのか、「民間がするべき」は
15%程度ですが、「政府がするべき」は30%近くあり、
全体としては西ドイツに近くなっています。

「だれが最初に子どもの世話をするべきか」という
意識に関しては、韓国はアジア諸国的な家族主義から脱して、
欧米の民主主義国並みの意識になっていると言えます。


OECD加盟国で右下の「家族がするべき」という領域に
入っているのは、日本がほぼ唯一の国と言えそうです。
(ほかにスイスがありますが。)
少子高齢化が深刻にもかかわらず「子どもの世話は家族がするべき」
という考えの多い国も、日本がほぼ唯一になりそうです。

日本の場合は、「夫が外で働き、子どものことは
専業主婦の妻がみるのが理想の家族」という、
例の「家族思想信仰」が強いことの反映と考えられます。

ニューズウィークの記事には、
昔の家族は、消費のみならず生産(家業)、
子育て、介護など、多くの機能を担っていた。
ピラミッド型の人口構成で、数世代が同居する大家族が
多かった時代では、それも可能だった。
しかし現在、家族をめぐる状況は大きく変化した。
かつてのように、様々な機能を家族が一手に担うことは困難になっている。
と書いてあって、大勢の家族が協力することを意識していますが、
日本の「子どもは家族がみるべき」の「家族」とは、
実は専業主婦の母親を指しているのだと思います。


日本に関して懸念されるのは、保育に関していつまでも
家族によるケアに依存して、公的サポートを増やさないことが、
限界にきているという問題です。

高齢者のケアに関する意識を見ても、同じような配置のグラフになる。
日本は少子高齢化が最も進んだ社会で、核家族化も欧米と同じ程度に進んでいる。
2010年の核家族世帯の割合は、日本が56.3%、フィンランドは55.0%だ
(国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集2015』)。
それなのに、福祉に関する意識は両国で大きく異なっている<図1>。
児童保育や高齢者介護など、日本の福祉は家族(私)依存型の性格が強い。
しかしこれ以上、家族に負担を強いることには無理がある。
家族依存型の福祉が限界に達していることを認識し、
公的サポートを増やすことを本気で考えなければならない段階に日本は来ている。

これはかねてから言われていることですが、
「子どもは家族がみるべき」「子どもは母親がみるべき」
という意識が、日本の保育環境における政治の立ち遅れの
原因のひとつであることは、想像にがたくないです。
「国民は自分たちのレベルにふさわしい政治家を持つ」です。

posted by たんぽぽ at 22:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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