つまり「性衝動」が起きるかどうかの生物学的条件について、
詳しく解説した記事があります。
「愛とセックスの関係 〜男女の違い〜」
生物学的条件ですから「子どもを産み育てる上で得策か」、
すなわち「繁殖可能性が高いかどうか」ということが、
セックスをする、もしくは性衝動を起こす基準となります。
「繁殖可能性」というのは、無事出産できるだけでなく、
成人するまで無事育てられるかも問題になります。
女性の場合、この相手とならセックスしてよいと考えるようになる、
もしくは性衝動が相手に対して起きる生物学的条件は次の3つです。
これら3つは、すべてを満たす必要があります。
ひとつでも欠けると、女性はセックスに消極的になります。
1. 自分自身の生活レベルから見てもうひとりの生命を背負って
生きてゆくことが可能かどうかの生活レベル判定です。
2. 相手となる男性の適応度がある程度以上に高いかどうかをもとにした
遺伝子継承可能性についての遺伝子選別(配偶者選択)です。
3. 相手となる男性がその生活をサポートしてくれるか
どうかを判断するための愛情確認です。
1.は自分が健康かどうかで、これはほぼ自明のことだと思います。
妊娠、出産はからだに負担がかかることですし、
出産したあと子どもを育てることにも体力が必要だからです。
自身が不健康では、セックスに積極的になれないということです。
2.は障害や重病といった生物学的な要素はもちろんあります。
人間の場合、このほかに「不相応なことば遣いや立ち振る舞いをしない」
といった、文化的な要素もあります。
相手の男性には性格が良好とか、まわりから信頼されている
といったことも必要になる、ということです。
3.は人間の子どもは育てるのに非常に手がかかることによります。
人間の子どもは母親がひとりで育てるのはきわめて困難で、
父親や年上の兄弟姉妹の協力が必要です。
人類は、動物の中でも子どもが未熟で生まれてくるうえに
自立するまでに約20年もの期間がかかりますから、
女性だけでの育児は困難であり、その期間における
配偶相手の男性からの扶養を切実に求めざるをえません。
人間には閉経後も長生きする「おばあさん」がいるのも、
子育てに参加する人員が多いほうが有利な
状況に適応した結果だと考えられています。
また近所の親どうしの協力も、人間の子育てには見られます。
「おばあさん仮説、閉経、繁殖」
「「おばあちゃん」こそが人類進化のカギ?!──おばあちゃんの科学。」
人間の子育てがこれくらい手がかかると、
配偶相手の男性からのサポートは必要不可欠になります。
子育て期間中、サポートを続けることを
相手の男性が保証するのが「恋愛感情」となります。
女性がセックスを受け入れるには「恋愛感情」が必要となるし、
サポートの保証である「恋愛感情」が期待できない
相手とのセックスは消極的になるということです。
女性にとってセックスには「恋愛感情」が重要になります。
男性がこの相手ならセックスしてよいと考えるようになる、
もしくは性衝動が相手に対して起きる生物学的条件は次のふたつです。
これらのうちどちらかひとつでも満たせばよく、
ひとつが欠けているだけなら、男性はセックスに積極的になります。
A. 男性の性衝動は、能動的、攻略的なものであり、
女性の子どもを産む育てる能力(fertility:ファーティリティ、妊孕性)に
ついて無意識のうちになされる評価によって湧き起こる
B. ファーティリティの現在からの積分である
フィカンディティ(ficundity:フィカンディティ、
これからどのくらい子供を産めそうか)という観点
A.は女性が若くてきれいという外見で、かなりはっきりわかります。
B.は自分の子どもだけ産んでくれて、自分以外の男性になびかない
ということであり、清純さ、貞操観念の要求です。
男性は妊娠、出産、育児のコストやリスクがほとんどないので、
セックスすればするほど「繁殖可能性が高まる」ことになります。
高い繁殖可能性を維持するために、セックスの相手を
慎重に選ぶ必要のある女性とは対照的です。
また男性はセックスによって、女性に妊娠、出産という
莫大な負担を強いるので、暴力的になることがあります。
ようは強姦のような性犯罪、性暴力です。
このようなセックスに恋愛感情はなく、
むしろ恋愛感情が性衝動のじゃまになるくらいです。
セックスに恋愛感情が重要になる女性とは、ここでも対照的です。
女性は一般に望まない相手とのセックスをしたがらない、
それは不快であり警戒することだ、ということを前にお話しました。
性衝動が起きるための生物学的条件を見れば、
これがなぜなのかは、おのずとわかってくると思います。
「女性にとって性を売ること」
一般に女性にとって、男性から望まない性的接触をさせられるのは、
不快で恐ろしいことであり、警戒することです。
「仕事のため」にそれを要求されるのは、当然忌避したいことです。
「なにをわかりきったことを」と思うかもしれないですが、
わからない男性は珍しくないみたいです。
「望まない男性」は、女性がセックスしてよいと考える
生物学的条件のうち3.を満たさないからです。
相手によっては2.も満たさないでしょう。
不特定の女性相手に性的接触を迫る男性なんて、
たいてい2.を満たさないと思います。
満たさない条件がひとつないしふたつあるのですから、
女性は妊娠、出産という自分のからだに負担がかかる
可能性のあるセックスに消極的になるし、それを強いられることに対して
不快や恐怖を覚えることになるということです。
知らない男性から「一目惚れしたから」と連絡先を教えてもらっても、
ほとんどの女性は返事をしないだろうと思います。
見ず知らずの人では、性衝動を起こす生物学的条件の
2.と3.についての情報がないですから、応じてもだいじょうぶか
わかるはずないので、お断わりするということです。
「一目惚れをした女性にアドレスを渡して返事をもらえない理由」
「知らない人から連絡先渡された事ありますか?」
知らない相手なのに連絡先を教えるなんて、
ナンパまがいと思われることもあるでしょう。
そういうナンパまがいのことをする男であれば、
そもそも2.が期待できないとも思われるでしょう。
ナンパされることは女性には危険がともなうことが多いです。
これは男性の性衝動は、女性に負担が大きくかかることを
無理強いするという性質上、暴力的になるということだと思います。
「ナンパ失敗、腹いせで女性に切りつける 51歳男逮捕 早朝の新宿駅前」
ナンパされて拉致されて殺される事だってあるのに、断ったら罵倒されしかも「ナンパされるだけいい」って言われなきゃいけないとは恐ろしい世の中ですな。
— さがみ (@salamipasta) 2013年7月11日
ナンパをお断わりする女性が、たいてい丁重なのは、
男性からの性的接触は暴力的ということを、
経験的にとてもよく知っているということにもなります。
謝辞:
7月31日エントリのコメント欄で、次の記事をご紹介してくださった
ritiarnoさま、ありがとうございます。
「愛とセックスの関係 〜男女の違い〜」
無理強いするという性質上、暴力的になるということだと思います。
性衝動の生物学的性差を理解せず、相手の女性の立場を考えなかったことが原因と見られる事件が最近ありましたね。
若手男性俳優T・Yのことです。
Tは不起訴処分となったため犯人扱いするのは良くないかもしれませんが、行為について「合意の上だった」と言っており、被害女性の警戒や不快感を認識できていなかった可能性があります。
それにしても、世間は芸能人の性犯罪には厳しいのですね。
前回も書き込んだと思いますが、一部の人々は被害者叩きをする割に、性犯罪加害者もしくはその可能性がある人が公務員・芸能人・障害者・外国人などの場合、
(このカテゴリーに未成年者や高齢者が含まれることもある)
そうでない人が加害者の場合と比べて厳しく糾弾する傾向がある気がします。
T・Yの場合、被害者を悪くいうコメントもありますが、本人が芸能人であること、身内に大物芸能人がいること、一部で障害のある可能性が指摘されていることから、かなり厳しい視線が注がれているのかもしれません。
(障害について正式に公表されているわけでないため、障害の有無は分かりません)
もちろん、被害女性が嫌がっているのにTが勝手に合意の上と思って及んだのであれば、糾弾されるのは当然のことだと思いますが。
お笑いタレントY・Kの芸能界復帰についてもそうです。
彼も結局不起訴になり、一部では被害者叩きもあるものの「不起訴イコール無実じゃない!」「芸能界は犯罪に甘すぎる!」というコメントが多かったです。
不起訴になったのだからと彼をかばった芸能人へのネット上での怒りはすさまじいものもありました。
性犯罪に厳しいのは大いに結構ですが、加害者側の属性によって態度を変えないでほしいですね・・・。
>若手男性俳優T・Yのことです
わたしは情報を追えていなくて、じゅうぶん状況を
把握できていなくて恐縮だけど、だいぶ話題になっていますね。
>性衝動の生物学的性差を理解せず、相手の女性の立場を
>考えなかったことが原因と見られる事件が最近ありましたね。
性犯罪とは、そういうものですね。
女性の立場を考えず、男性の要求だけでなされます。
>行為について「合意の上だった」と言っており、
>被害女性の警戒や不快感を認識できていなかった可能性があります
例によって加害男性に甘く、加害男性の主張を採用しやすい
日本の性犯罪に対する警察や司法の姿勢がまた出たのかもしれないです。
こんなこともありましたが。
「「強姦罪に問われた27歳男性に逆転無罪の判決」の判決文内容の紹介:2014年9月」
http://togetter.com/li/722737
T.Yに関しては、弁護士がすさまじいようでもあります。
https://twitter.com/_500yen/status/774311443701243904
>世間は芸能人の性犯罪には厳しいのですね
>性犯罪に厳しいのは大いに結構ですが、
>加害者側の属性によって態度を変えないでほしいですね・・・。
そういう人(男性)は、性犯罪を気に入らない人を攻撃する
「材料」くらいに思っているのではないかと想像します。
そしてそういう人(男性)は、たいていは自分や自分と
同じカテゴリの男性の性欲や性暴力には甘いのが相場です。
なので、性犯罪に厳しい態度を取っていても、
本気で「性犯罪許すまじ」と思っていない可能性が高いと思います。
慰安婦否定派なのに、気に入らない国で性犯罪が多いことを
異様に攻撃したり、自分たちに対しては「女の性を買うのは
男のサガだから仕方ない」などと言いながら、
ヨーロッパの国で移民の性犯罪率が高いのを
異様に問題視する、というのと同じだろうと思います。
彼らは性犯罪をていよく利用しているのであって、
本気で性犯罪をなくそうとか、性犯罪被害者のことを
考えているのではない、ということではないかと思います。
男女の生殖戦略についてきちんと理解するためには、生物学の基礎知識(特に有性生殖システム、生態学、進化学)だけではなく、(ヒトは文化的に生きる動物であるため)文化人類学や社会学にも通じている必要があり、心理学なども知っていることが望ましいですが、日本の高校・大学教育の範囲ではなかなか学びにくい内容であるため、結論部分だけを高校くらいで性教育の一環として簡潔に教えても良いのではと思います。
解法などは知らずとも、解だけは知っておいてほしいというわけです。
日本では性教育については第二次性徴について教える程度で、避妊方法、性病、性犯罪については不十分で、これらについても教えておくことが望ましいと考えますが、男女の性戦略の違いについても知っておくと、たんぽぽさんがこちらで書かれているように、性風俗産業に従事する女性がいかに大きな苦痛や葛藤に苛まれるか、望まぬ性交で女性が心身にいかに大きなダメージを負ってしまうかについて類推しやすくなり、性犯罪やその被害者に対する二次的加害への抑止効果が期待できます。
男性はこのあたりの理解で躓いてしまう人が多いため、仮に性犯罪の実行犯にならずとも、二次的加害者になってしまう危険性は高く、また性犯罪は事件の深刻さの程度から被害者の心のダメージの大きさを推定するのが困難で(心療内科医によると、性犯罪被害者の心理的損傷の程度は経験による相場のようなものを想定しがたく、個別に真摯な態度で当たらなくてはならないらしい)、女性同士であっても理解が難しい面もあり、二次的加害者になってしまう危険性は女性にも少なからずあると言わざるを得ません。
二次的加害者の存在は被害者の暗数化を助長するばかりではなく、適切な治療を受ける機会を減らしてしまったり、治療効果をも引き下げてしまう(被害者は社会に対して強い不信感を持っていることが少なくなく、治療者は患者との信頼関係構築に手を焼いてしまう)ため、適切な性教育を施すことによっても、こうした社会状況が少しでも改善できれば良いと思います。
>私が書いたYAHOO!知恵ノートをブログで紹介いただき、とても嬉しく思います
こちらこそ、興味深い記事をご紹介くださり、ありがとうございます。
前にご紹介いただいたときも、とても興味を持ったのですが、
自分のブログで話題にする機会を逸したのでした。
>男女の生殖戦略についてきちんと理解するためには
人間の場合は、文化的な要素が大きいですからね。
それが生物学的要素にさまざまなかたちで補正をかけて、
かなり複雑になると思います。
>結論部分だけを高校くらいで性教育の一環として簡潔に教えても良いのではと思います。
まともにやると、かなり専門的かつ分量が多くなって、
一般の高校生向きではなくなりますね。
結論だけ教えて、なぜそうなるかは、それぞれの専門分野に入って
知ってもらうというかたちが現実的そうですね。
>男女の性戦略の違いについても知っておくと、
>性風俗産業に従事する女性がいかに大きな苦痛や葛藤に苛まれるか
これだけでかなり理解できるようになりますね。
わたしもこれくらいのエントリを書くことができたわけですし。
>男性はこのあたりの理解で躓いてしまう人が多いため、
>仮に性犯罪の実行犯にならずとも、二次的加害者になってしまう危険性は高く
>女性同士であっても理解が難しい面もあり、
>二次的加害者になってしまう危険性は女性にも少なからずあると
このあたりはわたしも思うところです。
>二次的加害者の存在は被害者の暗数化を助長するばかりではなく
>適切な性教育を施すことによっても、こうした社会状況が少しでも改善できれば
二次加害者を減らす意味でも性教育は大事、ということですね。