そんなことだろうと思った、というかたは多いでしょう。
これも毎年秋に行なわれる「年中行事」になっていると思います。
「配偶者控除、廃止見送り…年収制限を緩和」
「配偶者控除、廃止見送り 政府与党方針 年収制限を緩和」(全文)
(はてなブックマーク)
「配偶者控除の廃止見送り 政府・与党方針 年収制限緩和を検討」
「配偶者控除の廃止見送り 年収制限緩和を検討」(全文)
「配偶者控除、存続し要件拡大 世帯主の年収で制限」
「夫婦控除 解散風に散る」
「「女性活躍」はウソですか」
「配偶者控除、廃止見送り=適用範囲の拡大検討−政府・与党」
安倍政権は、配偶者控除の廃止を公約に掲げています。
ところが2014年、2015年と、配偶者控除の廃止を先送りしたのでした。
「配偶者控除の廃止が先送り」
「配偶者控除の廃止が先送り」
今年がその2016年ですが、9月に安倍首相が配偶者控除の
見直しを検討するよう指示をしたのでした。
それでも結局、今年も先送りが決まったということです。
「首相、配偶者控除の見直し指示 政府税調が検討へ」
(はてなブックマーク)
代わりに検討しているのが、配偶者控除の条件緩和です。
現行では控除を受けられる年収の上限が103万円ですが、
これを150万円に引き上げる案で落ち着きそうです。
https://flic.kr/p/MYmbUW
17年度の税制改正では配偶者控除を残して
妻の年収要件を「150万円以下」などに引き上げる仕組みを軸に検討する。
パート従業員などとして働く女性の労働時間を増やしてもらう狙いだ。
ただ、年収要件を引き上げても女性からみて
働く時間を抑えた方が得になるケースは残るため、
「働き方改革」の趣旨にそぐわないとの批判が出る可能性もある。
配偶者控除を受けるために、年収を抑えて働いている人が
現在より多く働けるようにという考えによります。
それでも控除を受けられる条件が緩和されることで
「専業主婦への囲い込み」をなくすという
本来の目標とは逆行することになりそうです。
配偶者控除の廃止に抵抗を続ける既得権益者たちは、
「家族の助け合い」とか「家族のあり方」とか
いい加減聞き飽きたキーワードを並べるあの人たちです。
自民党内に多いと思われる抵抗勢力で、
おそらく最もスタンダードな既得権益者と思います。
https://flic.kr/p/M4LKCP
菅義偉官房長官は6日午前の記者会見で、配偶者控除について
「配偶者の労働意欲を抑制するとの指摘がある一方で、
家族の助け合いや家庭における子育てへの配偶者の貢献を
積極的に評価すべきだとの声があることも事実だ」と指摘。
そのうえで「家族のあり方に関する国民の価値観に深くかかわることで、
幅広く丁寧な国民的議論が必要だ」との考えを示した。
ここで菅義偉が「積極的に評価すべき」と言っているのは、
「夫が働き妻が専業主婦」という、高度経済成長期に定着した
彼らが宗教のように奉じている「家族思想信仰」です。
かかる家族観に対する「信仰」が女性のライフスタイルを制限し、
労働力率の向上を大きく阻んできたことは言うまでもないです。
労働力の不足が眼に見えているのに、この期におよんで
まだ「信仰」を維持することが大事というのは、
どれだけ現状が見えていないのかと思います。
配偶者控除で妻の年収制限が緩和された場合、
夫の年収の上限に制限がかかる可能性が高いです。
これは控除の適用範囲が広がることによる、
税収の減少を埋め合わせるためという財務省の主張です。
https://flic.kr/p/MYmbUW
財務省は税制改正の前後で税収が変わらないようにする
税収中立の方針を掲げる。
年収要件の引き上げで控除の対象者が増えれば
税収の落ち込みは避けられないため、夫の年収が一定以上の
高所得世帯を対象から外して財源を確保する考えだ。
「税収中立」などと言っていますが、
ようは自分たちの権力を維持したいということです。
税収が多ければ、自分たちが自由に裁量できる
予算が増えると、彼らは考えるからです。
それで税収が減る政策には、やたら神経をとがらせることになります。
財務省が消費税増税のような緊縮財政にこだわるのも、
こうした理由によることになります。
「財務省の緊縮財政の目的」
>夫婦控除
配偶者控除を廃止する代わりとして、政府・与党のあいだでは、
はじめは「夫婦控除」の導入を検討していました。
これは専業主婦世帯だけでなく、共稼ぎ世帯でも受けられます。
ただし法律婚夫婦のみが対象であり、
事実婚夫婦や同性結婚のカップルは適用対象外です。
ようは「家族思想信仰」の維持と強化のためのものです。
あの自民党内の「家族のきずな」を守る特命委員会が
このようにするよう提唱したのでした。
「夫婦控除で家族のきずな?」
控除の適用範囲が広がるので、大幅な税収減になります。
それで財務省が上述と同じ理由で、夫婦控除には所得制限を
設ける必要があると、主張してきたのでした。
夫婦控除は夫婦であれば共働きでも控除が受けられる制度。
配偶者控除よりも対象が増えて大幅な減収になるため、
財務省などは税収をなるべく維持するには
年収による対象制限が不可欠としていた。
これに公明党が猛反発することになります。
支持層に専業主婦世帯が多いので、選挙に悪影響が出るという
きわめて即物的な理由です。
これに真っ先に反発したのが公明党だ。
専業主婦世帯の支持者が反発するのを懸念。
同党がとりわけ重視する来夏の東京都議選に加え、
来年1月の衆院解散節が浮上したことで、幹部内で「負担が増える世帯が
多くなれば選挙に影響が出る」と慎重論が拡大した。
専業主婦世帯は、夫が高収入の世帯ほど多いです。
夫の収入が少ないと専業主婦の妻を養えないし、
控除を受けるより妻も働いたほうが家計が多くなるので、
夫婦共稼ぎが多くなるという、自明の理由によります。
現行の配偶者控除も適用されるのは、夫が高収入の世帯ほど多いです。
配偶者控除は貧困世帯の経済支援ではなく、
高収入世帯の優遇・特権と言ったほうがいいものです。
「高所得者の配偶者控除」
年収200-300万円: 11.2%
年収500-600万円: 33.7%
年収1000-1500万円: 61.0%
配偶者控除に所得制限がかかったり、廃止されて別の制度と
置き換わると、高収入世帯ほどもともとの適用率が高いので、
適用が外されて税負担が増える世帯も多いことになります。
かくしてさまざまな利害や思惑が対立・交錯することになり、
現行の配偶者控除の条件を少し緩和する、というところで
落ち着くことになったもののようです。
わかりやすい解説ありがとうございます。
この件についてはどうしても納得できないことが多かったので助かりました。
どうもテレビのニュースでは、低所得層や主婦パートの例ばかりが引き合いに出されていて、どうにもわからなかったのですよ。
そもそも女性のキャリアをどうにかするための話だったはずなのに、なんでパート従業員ばかりがクローズアップされるのか。女性のキャリアってパート従業員しかないのかな、と。
まぁ現状、女性の多くは妊娠出産子育てでキャリアが消えてなくなるので、そういう話しになるのかも知れませんけど、それならなんで女性のそうした現状に対する改善策も併せて話題にならないんだろう。
女性の社会進出って、本当なら公明党がもっと訴えてこそ効果があるはずのものだと思うんですけどね。ウーマンパワーをウリにするなら、それこそが本筋でしょうに。
>わかりやすい解説ありがとうございます
つたないエントリをご評価、ありがとうです。
>どうもテレビのニュースでは、
>低所得層や主婦パートの例ばかりが引き合いに出されていて
配偶者控除が低所得者の福祉のように思われていますよね。
それで配偶者控除の廃止が、低所得者の負担増のように語られて、
再分配に反するかのように思われていると思います。
実際は配偶者控除の恩恵を受けているのは、
かなりの高所得者層に多いのですよね。
配偶者控除を廃止しても、生活の苦労の少ない人の
さらなる贅沢がなくなるだけとも言えます。
それゆえ配偶者控除を廃止して、低所得層に有利な別の制度を
導入したほうが、むしろ再分配になると思います。
>女性のキャリアをどうにかするための話だったはずなのに、
>なんでパート従業員ばかりがクローズアップされるのか
「配偶者控除=パートの女性の利益」という意識でしょう。
直接の当事者ではあるので、ある程度はパート労働者に
焦点が集まるのは、やむをえないとは思いますが。
>女性のキャリアってパート従業員しかないのかな、
「女性労働者=パート」と認識しているようでは偏っていますね。
配偶者控除の存在が、女性労働者をパートにしている面もあるのだし、
そうしたところを語る必要もあるというものです。
女性は出産や育児で仕事を辞めるのが当たり前という状況に、
この社会が慣れすぎているのもあるのでしょう。
>本当なら公明党がもっと訴えてこそ効果があるはずのものだと
公明党は高所得層の専業主婦を支持層にしている
というのは、わたしもちょっと意外でした。
意外なところに意外な抵抗勢力です。
配偶者控除の話題とは直接関係がないのですが。
旧姓使用、なぜ認められなかった 判決読み解くと…
http://digital.asahi.com/articles/ASJBC4TCTJBCUTIL02Z.html?_requesturl=articles%2FASJBC4TCTJBCUTIL02Z.html&rm=901
こちらの記事は女性教員が結婚後、勤務先の学校で旧姓の使用が禁じられたことに対する裁判の判決について扱っています。
判決はタイトルの通り、旧姓使用が認められなかったのですが、判決後の記者会見で原告は訴えます「自分が築いてきた実績と名前を切り離したくない」と。
この判決に従うということは、女性にとっては結婚そのものがキャリアの断絶を意味することになりかねない。これでは結婚も、延いては出産もどんどん減っていくでしょうね。
>旧姓使用、なぜ認められなかった 判決読み解くと…
>http://www.asahi.com/articles/ASJBC4TCTJBCUTIL02Z.html
こちらはご紹介ありがとうございます。
(しばらくツイッターから離れていたので、
ぜんぜん知らないできていました。)
最高裁は「旧姓使用が認められているから、
選択的夫婦別姓の導入は不要」として、さらに今回の地裁の判決は、
「旧姓使用は認められていないから、戸籍姓を使え」ですか。
これらは矛盾していて、しかも結婚改姓をさせられる
本人がもっとも不利になるというものです。
どちらも因習を押し付けるために、
無責任な主張をしているという感じです。
むかし「関口裁判」と言われている、
旧姓を通称使用できないことに対する訴訟があったのでした。
これはいまから30年近く前なのですが、
このときでさえ2審で和解だったのですよね。
「関口裁判(職場での通称使用を求める裁判)」
http://isfmc.info/htdocs/?page_id=43
30年近く経っているのに、進歩しないどころか後退さえしています。
安倍政権や最高裁判決が、かかる因習・反動的な
雰囲気を作っているのかもしれないです。
>女性にとっては結婚そのものがキャリアの断絶を意味することになりかねない。
>これでは結婚も、延いては出産もどんどん減っていくでしょうね
こんな調子だから、「少子化対策は本気出ない」とか
「少子化に本気で危機感を持っていない」と、
わたしは思いたくなるということです。
選択的夫婦別姓を認めるなんて、
少子化問題と関係ないと思っているのかもしれないです。
たとえば100人の人間がいたとして、平均収入に満たない70人のうちさらに下層の35人に対して優遇措置を与え、平均以下上層35人と同等レベルまで引き上げれば、当然、平均収入は向上しますよね。
そうすれば平均値が上がるから平均以上の数を減らして同時に格差を是正することになる。
でも、現状では平均以上の30人に対しての優遇措置しか取られていない。ほぼ同数への優遇のように見えますが、実際にはすでにエリートである上層に対する優遇の場合には、平均以下がそのまま残っているため、差が埋まるどころか開く一方になる。
小学生でもわかりそうな理屈なんだと思うんですけど、なんでやらないのかなぁ? マイナンバーとかクソみたいな庶民いじめの制度を導入している場合じゃないだろうに。
>なんでやらないのかなぁ?
配偶者控除に関しては、高所得層優遇ということが
(利用率と控除額の両方において)、
あまり周知されていないことがあると思います。
むしろ配偶者控除の廃止に反対するために
貧困層の女性を登場させたりするくらいです。
低所得層は利用率、控除額の両方で、高所得層と比べて
ずっと小規模なのですが、なぜか彼女たちが、
控除の重要な受益者のように語られるのですよね。
このあたりは、平均的な庶民がみんな
『クレヨンしんちゃん』の野上ひろしのような暮らしをしている
という「家族幻想」も手伝っていると思います。
そういう暮らしができるのは、現在では一部の高所得層だけ
ということを認識できていないのでしょう。
「信仰としての家族思想(2)」
http://taraxacum.seesaa.net/article/410992216.html
そうでなければ、「オンナコドモのことはくだらない」
とする日本社会が、配偶者控除の話題で
専業主婦優遇を前面に出すことはないと思います。
「家族幻想」によるバイアスがなければ、
ジェンダー問題でもあることをそっちのけにして、
高所得者優遇、格差問題という側面を強調しそうです。