2016年11月03日

toujyouka016.jpg 配偶者控除の廃止が見送り(2)

10月12日の朝日新聞に、配偶者控除の廃止が
見送りになったという記事がありました。

「配偶者控除、存続へ 「103万円の壁」引き上げ検討」
「配偶者控除 存続へ 財務省 対象年収引き上げ案」(全文)
(はてなブックマーク)

「配偶者控除、苦肉の妥協策 都議選気にする与党に配慮」
「配偶者控除 苦肉の妥協策 「103万円の壁」引き上げ 課税最低限は維持」(全文)
(はてなブックマーク)

 
内容は10月9日エントリでお話したこととほぼ同様です。
専業主婦世帯の反発を気にする政府与党や、
税収を減らしたくない財務省など、
さまざまな利害が交錯して、配偶者控除の廃止が
来年度に先送りになったというものです。

見出しにある「苦肉の妥協策」は、控除が適用される
配偶者の年収の限度を103万円から引き上げるというものです。
どこが「妥協策」なのだろうという疑問はありますが、
この策で落ち着くことになりそうです。


配偶者控除の年収の限度を引き上げるという
状況の後退と言える策が出てきたのは、
アベノミクスの影響で時給が上がったことで、
パートの労働時間が短くなりすぎたので、
もう少し働いて欲しいという企業の要求をくむためです。

一方、配偶者控除の範囲拡大は、人手不足に悩む企業の望みでもある。
アベノミクス効果で時給が上がり、年収制限のために
いままでより労働時間を短くするパート労働者が増えているためだ。

「妻は専業主婦で家庭を支える」という家族イデオロギーと、
人手不足だからもっと働いて欲しいという
企業利益とがぶつかり合ったということです。
自分に正直でも自分の中の利益どうしが
対立することもあるということのようです。

かくして信奉する家族イデオロギーを維持しつつ、
目先の利益もある程度得られるようにすることになったのでしょう。
対立する要求どうしを調整したという意味でなら、
「苦肉の妥協策」と言えるかもしれないです。

本当に人手不足だからもっと働いて欲しいなら、
配偶者控除自体を廃止することが本来なのはもちろんです。
家族イデオロギーを手放さないで
もうしわけ程度の改変でお茶を濁すところに、
虫のよさを感じると言わざるをえないです。


財務省の方針では、所得税を払う必要が出てくる
「課税最低限」は、103万円に据え置くことになっています。
「課税最低限」を配偶者控除といっしょに引き上げないのは、
税収を減らしたくないからだろうと思われます。

配偶者の年収が103万円超になると所得税を納める
必要が生じる「課税最低限」は、据え置く方針だ。

配偶者控除の引き上げでさえ税収が減るというので、
所得制限を設けることにこだわるくらいです。
課税最低限は引き上げると所得制限などのかたちで
埋め合わせられないので、据え置きを主張するのでしょう。

この場合、103万円の壁は存在し続けるとも言えます。
配偶者控除の適用年収の限界が引き上げられても、
所得税が免除されないので、年収を103万円以下に抑える人が
減らない可能性もあることになります。


>配偶者控除の議論についての雑感

配偶者控除というと「専業主婦優遇」という面が強調されがちです。
それ以上に「高所得層優遇」という面が強い
ということは、あまり認識されないようです。

「高所得者の配偶者控除」

配偶者控除の廃止が議論になっても、
「高所得者に有利な制度」という格差問題として
語られることは、ほとんどないと思います。
「女性の就労」「専業主婦の囲い込み」という
ジェンダー問題として語られることがほとんどだと思います。


配偶者控除の利用率は、次のように高所得層ほど多いです。
年収が200-300万円では1割程度ですが、
年収が1000-1500万円だと6割以上です。

「配偶者控除、高所得者ほど恩恵 財務省」

年収200-300万円: 11.2%
年収500-600万円: 33.7%
年収1000-1500万円: 61.0%

配偶者控除の控除額も高所得層ほど高額になります。
控除額は税率によって定められるので、
税率が高い高所得層ほど大きくなるからです。

下の図でピンクは住民税からの控除、水色は所得税からの控除です。
住民税の控除は年収に関係なく一定ですが、
所得税の控除は高所得層ほど大きくなることが一目瞭然です。

「自民党の子ども政策--選択と集中」

自民党の子ども・家庭政策 子ども(中学生)


中には配偶者控除を貧困層、低所得層の福祉のように
思っていて、配偶者控除の廃止に反対するために、
貧困女性を登場させる記事も書かれることがあります。
実際は高所得層がさらに優遇されるための制度であり、
低所得層にも適用されるのは「おこぼれ」と言っていいでしょう。

高所得層は片働きでも家計が支えられるので、
妻が専業主婦という世帯が多くても、それは必然と言えます。
そうした世帯の「女性の就労」なんて
無理して促進する必要はないと、わたしは思います。

このように考えると、配偶者控除を「女性の就労」という
文脈で語るのは、かならずしも妥当でないと言えます。
配偶者控除は「金持ち優遇の仕組みを
どうやってより公平にするか」という観点で
もっと議論したほうがいいと、わたしは思います。

posted by たんぽぽ at 22:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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