労働生産性の向上をもたらすということは、
いろいろなところで言われています。
それを定量的に示した論文があるので見てみたいと思います。
「労働生産性と男女共同参画―なぜ日本企業はダメなのか、
女性人材活用を有効にするために企業は何をすべきか、国は何をすべきか」
「労働生産性と男女共同参画―なぜ日本企業はダメなのか、
女性人材活用を有効にするために企業は何をすべきか、国は何をすべきか」(PDF本文)
この研究は、企業をワークライフバランスの
導入の程度によって、6つの潜在クラスにわけています。
1. ほとんどなにもしない
2. 育児介護支援無影響
3. 育児介護支援失敗
4. 育児介護支援成功
5. 全般的WLB推進型
6. 柔軟な職場環境推進型
これらの潜在クラスは、以下の7つの項目で分類しています。
a. 法を上回る育児休業制度
b. 法を上回る介護休業制度
c. フレックスタイム勤務制度
d. 裁量労働性
e. 在宅勤務制度
f. 短時間勤務制度
g. WLBの取り組み
1.から6.までの潜在クラスの、項目a.からf.までの確率は
以下のようになっています。

潜在クラス2は、a.とb.で「影響なし」の確率が高いです。
潜在クラス3は、a.とb.で「マイナスの影響」の確率が高いです。
2と3はa.とb.以外の確率は同じ傾向になっています。
潜在クラス4はa.とb.で「プラスの影響」の確率が高いです。
またg.で「有」の確率が、2と3よりはるかに高いです。。
潜在クラス5はa.からg.のすべてで、
「有」の確率が「無」の確率を上回っています。
潜在クラス6はc.からf.の4項目で「有」の確率が高く、
a. b. f.の3項目で「有」の確率が低いです。
1.から6.までの潜在クラスの分布は次のようになっています。
いちばん多いのが「ほとんどなにもしない」で66.4%、
全体の3分の2という圧倒的多数です。
イギリスでいちばん多いのは5.の「全般的WLB推進型」です。

労働環境によって生産性がどう向上するかを調べるために、
正社員の労働1時間あたりの売り上げ総利益の
トービット回帰分析を行ないます。
論文では、労働者ひとりあたりの売り上げ総利益も
表に載せていますが、ほぼ同じような傾向になります。
ここで女性の登用の程度や従業員規模などを
変数に入れるかで、以下の4つのモデルを使っています。
モデル1. 「管理職の女性割合」を説明変数に含めない
モデル2. 「管理職の女性割合」を説明変数に含む
モデル3. モデル2.に「管理職の女性割合」と
「女性正社員の大卒度」の交互作用効果を加える
モデル4. モデル3.に「正社員数300以上」というダミー変数、
およびこのダミー変数と潜在クラスの交互作用効果を加える


非正規雇用の寄与はどうするかですが、
労働時間のデータが欠けていることが多く、
直接カウントできないので、統計的手法で補正をかけています。
(「非正規雇用者割合」をトービット分析の説明変数に入れる。)
ここではワークライフバランスの整備が、
労働生産性にどのように影響するかを見ることにします。
上の表のうち6.の部分です。
潜在クラス1.「ほとんどなにもしない」を基準にして、
2.から6.までの潜在クラスにおける
労働生産性がどれだけ変化するかです。

5.の「全般的WLB推進型」が、生産性の向上が
もっとも顕著であることは明らかです。
モデル1から3で0.4以上、モデル4でも0.349です。
ついで6.の「柔軟な職場環境推進型」が、
モデル1から3で0.2以上であり、
生産性の向上が大きくなっています。
2.は多少生産性が向上する程度、
3.と4.はモデル1から3においてほとんどゼロで、
WLB支援をほとんどなにもしない場合と比べて、
生産性の変化はほとんどないことになります。
かくして全般的なワークライフバランスを整備することは、
生産性を大きく向上させることが、示されたと言えます。
前にブラック労働やサービス残業をなくすと、
生産性が下がるのではないか、などと言っている
ツイートがあったのでした。
そのときわたしがツイートで反証したのですが、
わたしのつたないツイートなど見なくても、
定量的に反証している研究があったということです。
「とある科学ライターのサービス残業・ブラック企業擁護についてのわたしのコメント」
ブラック労働やサービス残業は、
ワークライフバランスの整備とは対極的です。
ブラック労働やサービス残業が温存されるから
労働生産性が低いのであり、生産性を高めるためには、
これらをなくすのがよいことがわかるからです。