2017年01月01日

toujyouka016.jpg 米大統領選の警告と教訓

アメリカ合衆国のトランプ政権が、
経済をいよいよ深刻な状況にしかねないという警告を発している
記事がふたつあるので、見てみたいと思います。

ひとつはスティグリッツのインタビュー記事、
もうひとつはピケティのコラムです。
どちらもよくご存知、著名な経済学者です。
両方の記事とも同様の分析や主張をしているので、
いっしょに見てみようということです。

「スティグリッツ氏警告「トランプは危険人物」」
(はてなブックマーク)

「(ピケティコラム@ルモンド)米大統領選の教訓 グローバル化、変える時」
「ピケティ・コラム 米大統領選の教訓 グローバル化変える時」(全文)

 
ここでの要点は、
−−−−
1. トランプは有権者の経済に対する不満を利用して、
守れない政策を公約にして票を集めた
大衆迎合主義(ポピュリスト)であること、
2. 有権者の不満は歴代政権が作り出した経済格差にあること、
3. トランプが公約する政策は格差を、かえって拡大しかねない
−−−−
ということになるでしょう。

守れない公約に関しては、次のようにあからさまに矛盾した
政策を同時に掲げていることがあります。
減税によって歳入を減らしつつ、歳出を増やす
なんてことはできるはずのないことです。

――ドナルド・トランプ次期大統領が掲げる政策をどうとらえていますか。

同氏の主張には根本的な問題がある。
歳出を増やす一方で、全所得層への減税を実施し、
米国政府の予算を均衡化すると言うが、三つを同時に行うことはできない。
守れない公約をするという意味で、彼はポピュリスト(大衆迎合主義者)の
レッテルを張られてきた。公約の多くを破ることになるだろう。

日本でも「小さな政府主義者」が減税を公約にして
有権者の支持を集めることはよくあります。
減税を標榜するのは、手っ取り早く票を集めるには、
いつでも好都合ということです。
だれでも自分が払う税金は安くしてほしいと思っているし、
生活が苦しいならなおさらだからです。


アメリカ合衆国における有権者の不満は、
経済格差、地域格差が広がったことによります。

米国人の下位90%は、収入が伸び悩んでいる。
その点から見ると、米経済は悲惨な状況にある。
トランプは、有権者の経済に対する不満を利用した。
もっとも、その問題を解決するには最悪の人物だ。彼は格差を拡大する。
富裕層に必要なのは減税でなく、累進課税の強化だ。
まずはっきりさせておこう。ドナルド・トランプ氏が勝った要因は、
何をおいても経済格差と地域格差が爆発的に拡大したことにある。
何十年も前から米国で進むこの事態に、
歴代の政権はしっかり対処してこなかった。

スティグリッツの記事で「米国人の下位90%は、
収入が伸び悩んでいる」とありますが、
このような「中間層の不満」がトランプ支持に
向かっていることは、むかしご紹介したこちらの
インタビュー記事にも出ていました。

「「日本の非正規雇用はアメリカから見てもヒドイ!」
アベノミクス失速でも安倍首相は捨て身で憲法改正に挑むはず」

―中間層をしっかり育てないと、長期的な国の展望、国力の維持はできないですよね。

ファクラー それはアメリカも同じです。
ちゃんと働いているのに(自分たちを)中流と感じられない人たちが
イライラしてきて、大統領選で共和党のドナルド・トランプを支持してしまう。
日本でいえばネット右翼と同じで、どこかで怒りたい、誰かのせいにしたい。
それらは根本的には経済政策が問題なのだと思います。

―中流層から富を奪って下流に叩き落とし、
その結果、不満を持った人たちが彼らの「支持者」になる…。

これは日本も他人ごとではないです。
日本で格差が広がっていることは、貧困率の増大などが示しています。
そしてアベノミクスで生活がよくなったと感じていない
「中間層」は少なくないからです。


アメリカ合衆国において格差が広がったのは、
歴代政権が市場の自由化、規制緩和、グローバル化を
推進し続けてきたことにあります。

市場を自由化、神聖化する動きはレーガン政権で始まり、
ブッシュ親子に引き継がれた。
クリントン政権、そしてオバマ政権も、
ともすればこの流れに身を任せることしかできなかった。
それどころか、クリントン政権下の金融と貿易の規制緩和は、
事態を悪化させる結果となった。
──教授はグローバル化の弊害も指摘されています。
自由貿易協定で、米製造業の雇用が減少したそうですね。

貿易協定が経済に打撃を与えた理由の一つは、
政府が失業者の転職を支援してこなかったことにある。
共和党がノーと言い続けてきた。
皮肉にも国民を苦境にさらしてきたのは共和党なのだ。
今回共和党が勝利したことを、多くの人々が奇妙に感じている。

トランプの政策はこのような規制緩和をさらに推し進め、
格差拡大をさらに招きかねないということです。

何より悲惨なのは、トランプ氏の政策によって、
不平等が生じる傾向がひたすら強まることだ。
現政権が苦労して低所得層にあてがった
オバマケア(皆保険制度)を廃止し、企業の利益にかかる
連邦法人税率を35%から15%に引き下げるという。


ようは格差拡大によって不満を増大させた有権者が、
さらに格差拡大をもたらす政権を支持するという
矛盾する事態に陥っているということです。

「今回共和党が勝利したことを、多くの人々が奇妙に感じている」と、
スティグリッツの記事にはありますが、
このように有権者が「自縄自縛」的な政策を支持することは、
残念ながらどこにでもあると思います。

それにしても、福祉の削減と法人税の減税、
すなわち貧困層に厳しく大企業にやさしいというのは、
格差拡大を推進する為政者の「王道」のようですね。


ピケティのコラムでは、民主党ないしクリントンが、
本来得るべき有権者層の支持を得られなかったと指摘しています。

さらに、金融業界との親密ぶりで
ヒラリー・クリントン氏に向けられた疑惑のまなざし、
民主党とメディアのエリートたちの無能ぶりがダメ押しとなった。
民主党執行部は予備選でバーニー・サンダース氏に
投じられた票から教訓を引き出せなかった。

本選の得票数はクリントン氏が辛うじて上回っている。
しかし最若年層と低所得層の投票率が低すぎ、
勝敗を左右する州を制するには至らなかった。


極端な政治勢力や危険な政治勢力を台頭させないために、
ほかの政治勢力は経済政策だけは力を入れておけと、
ヒトラー・ナチスがいかに支持を集めたかを引き合いにして、
お話したことが、わたしはあります。

「経済政策と支持の確保」

きょうび、ヒトラー・ナチスの危険性は
じゅうぶん理解されているので、これと類似の政治勢力が
台頭してくれば、警戒する市民は多いだろうと思います。

21世紀の現在において台頭の現実味があるのは、
格差拡大を招く「小さな政府主義」や
「大衆迎合主義」だろうと思います。
これらについてはまだまだじゅうぶん危険性が認識されず、
警戒もふじゅうぶんだと思います。

実際、「小さな政府主義」や「大衆迎合主義」は、
日本を含めて世界中いたるところに蔓延し、
いつでも支持を集められる潜在力があると思います。


ピケティのコラムでは、トランプ主義を台頭させないためには、
規制緩和、グローバル化からの方向修正だ、
それがアメリカ大統領選挙の教訓だとして、結んでいます。

今こそグローバリゼーションの議論を政治が変えるべき時なのだ。
貿易は善であろう。
しかし公正で持続可能な発展のためには、公共事業や社会基盤、
教育や医療の制度もまた必要なので、公正な税制が欠かせない。
それなしでは、トランピズム(トランプ主義)が
いたるところで勝利するだろう。

posted by たんぽぽ at 18:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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