ワークライフバランスの導入や、女性の人材登用と
労働生産性との関係を定量的に示す論文です。
「労働生産性と男女共同参画―なぜ日本企業はダメなのか、
女性人材活用を有効にするために企業は何をすべきか、国は何をすべきか」(PDF本文)
正社員週労働時間1時間あたりの売り上げ総利益の
トービット分析の表を見ていきます。
モデル1. 「管理職の女性割合」を説明変数に含めない
モデル2. 「管理職の女性割合」を説明変数に含む
モデル3. モデル2.に「管理職の女性割合」と
「女性正社員の大卒度」の交互作用効果を加える
モデル4. モデル3.に「正社員数300以上」というダミー変数、
およびこのダミー変数と潜在クラスの交互作用効果を加える
今回は、1.正社員の女性割合、2.管理職の女性割合の
ふたつの項目について見てみたいと思います。
注目するのは、正社員の女性割合が、マイナスの係数であることです。
正社員の女性が多いほど、労働生産性が低いという
衝撃の事実となっているということです。
B正社員の女性割合は負の係数を持つが、
理由として、女性の賃金が男性より低いことと、
生産性の低い企業ほど女性を雇用することを挙げています。
発見のBは、次のモデル2の分析とも関連するのだが、注釈を要する。
浅野・川口(Asano and Kawaguchi 2007, 川口2007)は、
女性の男性と比べた相対生産性、は同一企業内では、
男性と比べた相対賃金とほぼ同様に低く、
また生産性の低い企業ほど女性を雇用する傾向があるので、こ
の選択バイアスを考慮しないと、男性と比べた相対生産性は
相対賃金以上に低くでる傾向があることを報告している。
賃金のジェンダー格差については、総務省の『就業構造基本調査』の
2012年度版にもとづいた、何度も示している図があります。
「男女&雇用形態別年収分布」
正規・非正規の年収曲線。雇用形態の差と同時に,正社員のジェンダー差にも注目。これ,調査法の学生さんに計算させたんだけど,憤りの感想が多かった。 pic.twitter.com/XC6tgbqBwN
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2013年12月23日
女性が生産性の低い部門に回されている指摘もほかにあります。
低賃金のポジションは労働生産性が低く、
女性はそこに回されることが多いということです。
これは正規雇用、非正規雇用の賃金格差が顕著で、
女性が非正規雇用に回されることが大きいですが、
正規雇用にかぎっても、賃金のジェンダー格差は大きく、
女性が生産性の低い部門に回される傾向はあるでしょう。
「賃金格差と低い労働生産性」
「日本はどうして賃金が上がらないのか」
日本の労働生産性の低さは、失業率が他の欧米諸国に比べて
低いためだとよく解説されるが、果たしてそうだろうか。
終身雇用制と年功序列が完全にはなくならず、
さらに正規雇用と非正規雇用が固定化したため、
低賃金の労働力が生産性の低い分野に流入した。
日本は若者や女性を虐げ、外国人労働者を排除してきたため、
時代の変化とグローバル化に完全に乗り遅れてしまった。
1.正社員の女性割合は、大きなマイナスの係数ですが、
2.管理職の女性割合は、きわめて大きなプラスの係数と
なっているというきわだった特徴があります。
これは正社員の女性割合に比べて、管理職の女性割合が高いと
労働生産性が高くなることを示しています。
(論文中では4.と5.の2通りの書きかたをしていますが、
同じ内容を表しています。)
実は、発見Bに関連するより重要な発見は管理職の女性割合を
説明変数に加えたモデル2の結果である。
表8のモデル2の結果は、C正社員の女性割合を一定とすると、
管理職の女性割合が大きい企業ほど1人当たりの生産性・競争力が高くなり、
D管理職の女性割合を一定とすると、正社員の女性割合が大きいほど、
1人当たりの生産性・競争力は低くなる、ことを示している
ようは、女性の管理職登用の機会に開かれていると、
労働生産性が高くなる、ということです。
ここに女性の管理職割合を高める意義があることになります。
12月25日エントリで見たように、女性の大卒度は
労働生産性にほとんど影響しないし、また上述のように
女性は生産性の低い部門に回されることが多いです。
管理職に登用されるくらいの女性なら、
このような扱われかたをされることはなく、
男性と同等かそれ以上の役職を請け負うでしょうから、
それで生産性が高まるということかもしれないです。
女性にも管理職の機会が開かれている企業なら、
そもそもから女性も男性と同様の生産性の高い部門に回され、
責任ある仕事を任されている、ということです。
管理職の女性割合は全体ではきわめて少ないです。
よって女性にも管理職の機会が開かれ、生産性を高めている企業は
全体のほんのごく一部ということになっています。
本調査での管理職の女性割合は平均で 2.4%に過ぎず、
標本中管理職の女性割合が 10%を超える企業は 7%、
20%を超える企業は2.7%にすぎないことを合わせて理解する必要がある。
つまり、ごく少数の企業が女性に管理職昇進への
比較的大きな機会を開き、それにより生産性・競争力を高めているが、
平均的には大卒女性の人材活用を行っていない企業が
大多数という結論になる。
表9のモデル2では1.女性正社員の割合は係数が-0.652、
2.女性管理職の割合は係数が1.788で、絶対値で約3倍となっています。
これは女性正社員が3%増えた場合、女性管理職が1%以上増えると
労働生産性が高まることを示しています。
また管理職者の女性割合の正の係数(1.788)の大きさが、
女性正社員の女性割合の負の係数(-0.652)の、
絶対値で約 3 倍という事実も注目に値する。
これは正社員の女性割合が、例えば 22%から25%に、
3%増えたとき、管理職の女性割合が1%増えれば、
企業のパフォーマンスは変わらないが、
管理職の女性割合が0%増加なら、企業のパフォーマンスは下がり、
逆に2%増加なら企業のパフォーマンスは上がることを意味する。
現状は約7割の女性が出産や育児で離職を余儀なくされ、
管理職への昇進の機会がなくなることが多いことです。
この数値から考えると、正社員の女性割合が10%増えても、
管理職の女性割合が3%しか増えないことになります。
上述のモデル2の結果によると、労働生産性への寄与は
正社員:管理職は1:3ですから、離職しない女性に
男性と同等の管理職への機会があっても、
生産性への寄与がちょうど相殺されることになります。
問題はわが国では約70%の女性が結婚・育児離職し、
その大部分が管理職昇進機会を失うことである。
この状態では、仮に離職しない女性に男性と同等の昇進機会が与えられても、
結婚・育児離職前の正社員の女性割合が 10%増えても、
管理職の女性割合は 3%しか増えず、企業のパフォーマンスは変わらない。
また実際には今回の企業標本では正社員の女性割合が
22%であるのに対し管理職の女性割合は 2.4%であることから
分るように、離職しない女性でもその管理職昇進機会は
男性よりはるかに少ないと考えられる
さらに調査対象の企業は、女性管理職の割合は、
女性正社員の割合の10分の1程度です。
よって女性の登用が労働生産性に寄与せず、女性正社員の割合が
生産性にマイナスの寄与を与えることになると考えられます。
日本の企業社会は、依然として男性中心であり、
女性労働者は生産性の低い部門にまわされたり、
出産や育児で離職を余儀なくされることが多いです。
「出産でパートに回される」
「ジェンダー別の正社員の割合」
女性は,家庭生活と正社員勤務の両立が難しい。男性は正社員でないと,結婚は難しいってことさね。 pic.twitter.com/HhHE3Ul2qu
— 舞田敏彦 (@tmaita77) 2016年8月18日
このように女性を労働市場の周辺部に置くために、
女性労働者の雇用が労働生産性に寄与しないという現状が、
改めてはっきりしたことになります。
ごく少数の企業だけが、女性にも管理職への機会が
開かれている程度に、女性労働者を男性労働者と
同等に扱うので、女性の雇用が労働生産性に寄与する
という状況になっているということです。