国連特別報告者のケナタッチ氏が公開書簡で伝えましたが、
菅義偉官房長官の反応が、中身のない感情的反発だったことを、
6月9日エントリでお話しました。
菅義偉の反応は内容がないだけでなく、
国連特別報告者の立場や、公開書簡の意義も
まともに理解していないと思われます。
以下の記事に出ているので、簡単に見ておくことにします。
「菅官房長官、国連特別報告者を「個人」呼ばわり、「質問」に抗議」
(はてなブックマーク)
ケナタッチ氏の公開書簡に対する菅義偉の見解は、
5月22日の記者会見で表明されています。
「平成29年5月22日(月)午前-内閣官房長官記者会見」
菅義偉は国連特別報告者を「個人の資格」などと言っています。
おそらく「国連と無関係の個人」という意味でしょう。
これは特別報告者に対する無理解というものだと思います。
菅官房長官:「特別報告者」という立場ですけども、
個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場であって、
国連の立場を反映するものではない。
国連特別報告者は、国連人権理事会がその目的を
実行するために任命する、各分野の専門家です。
そして任命された報告者は、国連に報告義務を負います。
国連特別報告者は国連人権理事会の立場で、
国連の活動をしているということです。
国連と無関係の「個人の資格」ではないです。
国連人権理事会に任命され、報告義務を負い、
個別テーマまたは個々の国について、人権に関する助言を行う、
独立した立場の人権の専門家のことを言う。
ケナタッチ氏はプライバシーの権利に関する特別報告者だ。
「プライバシーの権利」は、「世界人権宣言」12条と
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」
(日本では「自由権規約」と和訳されきた)17条で定義されており、
国連人権理事会に報告する任務(マンデート)を
ケナタッチ氏は果たす立場である。
個人が国連の名前を使って、国連と無関係に活動したら、
それこそ大問題になると思います。
この意味でも国連と無関係の「個人の資格」で
公開書簡を政府に送るなど、無理なことだと言えます。
東京新聞:「共謀罪」書簡の国連特別報告者 日本政府の抗議に反論:国際(TOKYO Web)政府は「個人の立場」とか言ってるけど、個人が国連の名をかたって書簡を出したらそれはそれで問題。それとこの人「日本のプライバシーについて30年にわたって研究した」人だそうで、政府はそんな人に抗議したんだ…
2017/05/23 23:00
菅義偉は国連特別報告者からの公開書簡を
「一方的」と決めつけ、「抗議した」とも言っています。
菅官房長官:直接説明する機会が得られることもなくですね、
公開書簡の形で一方的に発出したんです。
さらには当書簡の内容は明らかに不適切なものでありますので、
外務省は、強く抗議を行ったということであります。
これも言いがかりと言ってよいものです。
公開書簡は「対話」と呼んだほうがよい性質のものです。
「一方的」ではないし「抗議」する性質のものでもないです。
これは、得た情報をもとに評価し、その正確性を相手に確かめたり、
説明や協議する機会を得たりする、双方向の公明正大なプロセスだ。
指摘に誤りがあれば正し、日本が批准している
自由権規約17条などに適合していないなら、
その助言に沿って日本が法案を正せばよいだけの話だ。
「抗議」をする性質のものではない。
菅義偉は「直接説明する機会が得られることもなく」
などと言っていますが、「対話」なのだから、
ケナタッチ氏の質問に答えればいいだけのことです。
直接説明する機会ならいくらでもあります。
外務省が本当に菅義偉が言うような「抗議」をしたのか、
したとしてどんな内容の「抗議」だったのかは、まったく不明です。
(「抗議」が実際にあったら、いまごろはその内容が
どこかで公開されていそうに思います。)
外務省は、本当に「抗議」を行ったのか、
また、誰に、どのように「抗議」を行ったのか
(こうした質問は会見で記者からも出た)、
特別報告者の指摘を認めたものもあるのかどうか、
会見の内容からは全く不明である。
もし、本当に単に「抗議」を行ったのだとしたら、恥ずかしい事件である。
日本政府は「国際組織犯罪防止条約」に批准するための
国内法整備として共謀罪の制定を進めていると説明しています。
この条約は2000年11月に国連総会で採択されたものです。
「組織的な犯罪の共謀罪に関するQ&A」
菅義偉も記者会見で、国連の定めた条約に
参加するためだと言っています。
国連の活動のためにやっていることだとしているので、
当の国連から批判が来ると都合が悪いのでしょう。
それで菅義偉は「あれは国連と関係ない個人が
勝手にやっているものだ」ということにして、
「国連と無関係」と一方的に決めつけてやり過ごそうとした、
ということではないかと、わたしは想像します。