2017年06月15日

toujyouka016.jpg 国連報告者の資格と立場

ジョセフ・ケナタッチ氏からの共謀罪に関する
公開書簡があったことに関して、国連特別報告者の資格や立場を
ひたすら懐疑する人たちも結構いるようです。

つぎのエントリもそうした国連特別報告者の
資格や立場を懐疑的に考えているひとつです。

「国連特別報告者の意見は国連の意見に非ず」

 
このかたの解釈によると、国連特別報告者は国連から
肩書きだけもらっているだけの個人であり、
その見解は国連の正式な見解ではないとなります。

特別報告者は、国連からの報酬を貰わずに、
個人の資格で報告することができるという立ち位置のようだ。
要するに名誉職だな。国連も金がないので、
善意かつ自己負担で報告書を作成する方に『国連特別報告者』という
肩書をプレゼントするということなのだろう。
まとめると、特別報告者の意見が
国連の正式な意見と見做すというは無理があるね。

まあ、個々の特別報告者についての言及はいいだろう。
繰り返しになるが、肝心なことは特別報告者の提出する報告書が
国連の意見ではないという事実だ。


国連特別報告者の資格や立場の解釈については、
少し事件がありまして、つぎの記事にそれが出ています。

「安倍首相と国連事務総長の会談で発表が食い違う  慰安婦問題と「共謀罪」法案めぐり」

5月27日に安倍晋三首相とグテーレス国連事務総長との
懇談があったのですが、そのときグテーレス氏が
「国連特別報告の主張は、必ずしも国連の総意を
反映するものではない」と言ったと、日本の外務省が伝えています。

「安倍総理大臣とグテーレス国連事務総長との懇談」

安倍総理から、国際組織犯罪防止条約の締結に向けた
日本の取組につき説明しました。
この関連で、先方は、人権理事会の特別報告者は、
国連とは別の個人の資格で活動しており、その主張は、
必ずしも国連の総意を反映するものではない旨述べました。

この日本の外務省の記事は、最初にご紹介のエントリの解釈、
「特別報告者の意見が国連の正式な意見と見做す
というは無理があるね」や「特別報告者の提出する報告書が
国連の意見ではないという事実」に近いと言えます。


同じ懇談について、国連はこのような発表をしています。
これを見ると「国連特別報告者は国連人権理事会に
直接報告する独立した専門家」としています。

日本の外務省の記事にある「国連とは別の個人の資格」とか、
「必ずしも国連の総意を反映するものではない」とは、
グテーレスは言っていないということです。

「Note to Correspondents: In response to questions on the meeting
between the Secretary-General and Prime Minister Abe of Japan」


Regarding the report of Special Rapporteurs,
the Secretary-General told the Prime Minister
that Special Rapporteurs are experts that are independent
and report directly to the Human Rights Council.

(特別報告者について、事務総長は安倍首相に対し、
国連人権理事会に直接報告する独立した専門家であると述べた)

この見解は6月10日エントリでご紹介した、
まさのあつこ氏の記事の見解と同様のものとなっています。
国連人権理事会から任命され、国連人権理事会に対して
報告義務があるのですから、国連人権理事会と
無関係の個人ということはないでしょう。

「菅官房長官、国連特別報告者を「個人」呼ばわり、「質問」に抗議」

国連人権理事会に任命され、報告義務を負い、
個別テーマまたは個々の国について、人権に関する助言を行う、
独立した立場の人権の専門家のことを言う。

ケナタッチ氏はプライバシーの権利に関する特別報告者だ。
「プライバシーの権利」は、「世界人権宣言」12条と
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」
(日本では「自由権規約」と和訳されきた)17条で定義されており、
国連人権理事会に報告する任務(マンデート)を
ケナタッチ氏は果たす立場である。


国連特別報告者の資格や立場については、
「国連人権理事会に報告義務がある独立した専門家」
という、国連の公式サイトやまさのあつこ氏の
認識が適切だろうと思います。

国連特別報告者の活動は、国連人権理事会の業務として
行なっていることであり、受けた報告にもとづいて
国連人権理事会はなんらかの判断をくだすことがある、
ということだと思います。

「国連の正式な見解とはかならずしもみなせない」という、
最初のサイトのかたや、日本の外務省の解釈は、
国連特別報告者の主旨を適切に理解しておらず、
曲解になるのではないかと、わたしは思います。


最初のエントリは、国際連合広報センター
サイトを引用していて、これを参照しています。
ここに「個人の資格で務め」と書いてあるので、
最初のエントリのかたは、「国連特別報告者の見解は
国連とは必ずしも関係ない」と考えたようです。

「特別報告者と作業部会」

人権に関する特別報告者と作業部会は人権擁護の
最前線に立つ(www.ohchr.org/EN/HRBodies/SP[別窓])。
人権侵害を調査し、「特別手続き」に従って
個々のケースや緊急事態に介入する。人権専門家は独立している。
個人の資格で務め、任期は最高6年であるが、報酬は受けない。
そうした専門家の数は年々増えている。


「個人の資格」に近い意味の記述として、
国連のサイトとまさのあつこ氏の記事には、
「独立した専門家」という表現があります。

これは国連特別報告者はきわめて専門的な業務なので、
外部の専門家を任命したほうが、適切に業務を
行なえるということではないかと思います。
専門的な業務のために外部の専門家を任命するのは、
国連以外の組織でも珍しくなく、行なわれることはあるでしょう。

もうひとつ、国連特別報告者の業務内容の性質から、
なにかに拘束されたりバイアスをかけられたりせず、
自由で公平な活動を維持するために、
「独立した資格」としていることも考えられます。


国連特別報告者が「独立した資格」となっているのは、
その業務の専門性と、自由で公平な活動を保証するため
というのが、わたしの考えていることです。

最初のエントリのかたが考えている、
「肩書きをプレゼントする」などという奇特な動機では、
少なくともないだろうと思います。



付記:

「たまごどん」は国連広報センターのサイトを引用して、
調べるという姿勢があるので、わからないというだけで
少しも調べようとしない菊池誠よりはましだと思います。

posted by たんぽぽ at 22:32 | Comment(2) | TrackBack(0) | 法律一般・訴訟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - 国連報告者の資格と立場 web拍手
この記事へのコメント
>国連特別報告者の主旨を適切に理解しておらず、
>曲解になるのではないか

まったくその通りですね。

独立した立場でありながら、組織的には国際人権委員会の直下に所属(ダイレクトレポート)、いうことでしょうから。

つまり、任されてこのような勧告を行っており、国連を代弁する立場である、ということを言っているのではないでしょうか。

そもそも、個人の立場で勝手に国連のレターヘッド使うかって?

第一、在ジュネーブ日本政府代表部の職員が、ぺら1枚で抗議したそうですから。ジョセフ・ケナタッチには回答をしなくてはならない、と、日本政府は、彼の立場をじゅうじゅう理解しているわけでしょう。

まあこれまでも国連の色々な勧告は無視してきた日本ですけどね。

ごまかし、うやむや、得意の戦術で、国民をけむに巻いていく。

それにしても肩書をプレゼント、って、あまりの邪推っぷりに椅子からずり落ちそうになりました。
Posted by うがんざき at 2017年06月16日 09:52
うがんざきさま、こちらにコメントありがとうございます。

>つまり、任されてこのような勧告を行っており

“mandate”ですからね。「委託」という意味もあります。
権限を託しているということだと思います。

>個人の立場で勝手に国連のレターヘッド使うかって?

それはわたしも思ったです。
個人の立場の人が国連の肩書きを使ったら、
それこそ大問題になるだろうと思います。


>ジョセフ・ケナタッチには回答をしなくてはならない、と、
>日本政府は、彼の立場をじゅうじゅう理解しているわけでしょう。

本気でわからないとは、さすがに考えにくいですね。

「国連であって個人」みたいな、よくわからない
解釈を考えたのも、特別報告者が人権理事会から
委託されていることは否定できないので、
そこをなんとかごまかすためだったのかもしれないです。

菅義偉の記者会見も、「キレた」というより
「国内向けの説明」だったのかもしれないです。
どうせケナタッチや人権理事会は聞いてないよと。


>まあこれまでも国連の色々な勧告は無視してきた日本ですけどね。

国連特別報告者を日本が邪険に扱うのは、
これが最初ではないのですよね。
表現の自由のデイヴィット・ケイのこともあります。
https://news.yahoo.co.jp/byline/itokazuko/20151120-00051621/

国連の各種委員会の勧告を、日本がろくに守らないのは、
このような話題にくわしいからでしたら、
よくご存知のことになっていますね。
「シャラップ上田」なんて象徴的でした。
http://taraxacum.seesaa.net/article/365778956.html

国連ではないですが、国際司法裁判所で行なった
「くじら裁判」もひどかったです。
この裁判で日本は国際法規を守る模範国であることを
示そうと思っていたのだから失笑です。
http://taraxacum.seesaa.net/article/432112472.html


こうして日本は国際社会から「ならず者」と
思われていくことになるのでしょう。

日本のマスコミはこのような、国際社会における
日本の実態をほとんど取り上げないので、
日本の世論の多くは、日本は国際法規をふつうに守っていると
なんとなく思うことになるのでしょう。


>それにしても肩書をプレゼント、って、あまりの邪推っぷりに

その発言のかたについては、中国や韓国が同じことをしたとき、
同じことを言えるかだと思います。
たとえば文在寅が菅義偉と同じことを言ったとき、
「そうそう、あれは肩書きをプレゼントしたものだしね」
と言えるなら、筋は通っています。
Posted by たんぽぽ at 2017年06月16日 21:42
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック