嫌がらせや脅迫レベルの大量のはがきが送りつけられた、
という事件が起きています。
「灘、麻布…名門校に右派、安倍首相“お友達”政治家らが“圧力”」
(はてなブックマーク)
これらの中学校が歴史の授業に「学び舎」が出版する
『ともに学ぶ人間の歴史』を使っていることによります。
なぜ脅迫同然の「抗議」が来たのかというと、
学び舎の歴史教科書は従軍慰安婦問題に触れている、
ただひとつの中学生の教科書だからです。
採用している学校には、「反日教育」とか「極左」と
いったことが書かれた「抗議」が送られてきます。
抗議の焦点は、この教科書が慰安婦問題に言及していること。
文面には「将来の日本を担っていく若者たちを養成する
有名エリート校がなぜ採択したのでしょうか」
「反日教育をする目的はなんですか」「OBとして募金に一切応じない」
「『反日極左』の教科書」などと書かれている。
ようするにこのような「抗議」をする人たちは、
ミギのほうの人たちということです。
安倍晋三首相の「おともだち」も送り主の中いるようです。
でも意外性はないでしょう。
OBを名乗る送り主もいますが「抗議」を受けた
中学校の教員によると、匿名なので本当にOBなのか
確かめようがないとのことです。
OBならちゃんと名前を名乗ってほしいと思います。
匿名を条件に取材に応じた私立中学校の教員は言う。
「『OB』と書かれているものは、すべて匿名。
本当にわが校のOBなのか確認することもできなかった」
学び舎の教科書にだけ従軍慰安婦の記述がある
ということは、学び舎の教科書は他社の教科書よりも
それだけ記述がくわしいということです。
記述がくわしいのは、それだけレベルが高いということです。
「有名エリート校がなぜ採択したのでしょうか」などと
「抗議」のはがきでは訊いています。
その答えは「有名エリート校にふさわしい
レベルの教科書だから」ということになります。
こんなのすぐにわかることだと思います。
さいわいにして学校はどこも「抗議」の影響を受けず、
学び舎の教科書を使い続けるとしていることです。
これはこれで当然のことだと思います。
抗議ハガキは、次の採択で学校関係者が尻込みをするよう、
圧力をかけたかったと思われるが、学校側は冷静だ。
本誌の調査で「抗議があった」と回答した7校のすべてが、
次の歴史教科書の採択に「影響することはない」と回答している。
「採択した教科書は4年間使用することが原則ですが、
教師から要望があれば1年間で変更できます。
昨年度に使用して学び舎の教科書に問題はなかったですし、
抗議があったから変更したと思われたくはないので、
変更することはありません。私たちは、生徒にいちばん適した
教科書を使って、授業をすることが第一ですから」
学校の教師としては(とくに進学校の教師は)、
生徒たちを入学試験に合格させる必要があります。
そのためには正統な歴史を教える必要があるということです。
でないと生徒たちは試験問題が解けなくなるからです。
学び舎の教科書を使う学校に「反日極左」などと
抗議する人たちが信じている歴史を教えたら、
生徒たちは入学試験に合格しなくなるでしょう。
「抗議」のはがきを送った人たちは、
自分たちが信じている歴史は、学術の世界では
とても受け入れられない「とんでも」歴史であることを
素直に認める必要があると思います。
入学試験に合格するということは、
それだけ必死になってやる必要があることです。
学術にのっとった歴史を教えるのは必然です。
学術にのっとった事実でも、入学試験に出ないことを
勉強する余裕なんてほとんどないです。
ましてや「とんでも」歴史を教えるなんて、
害にしかならないことをやっている余裕など、
なおさらないということです。
学び舎の歴史教科書の件は、
「学術に対するイデオロギーの挑戦」という意味で、
かなりきわだっていると思います。
「入学試験に合格する」という差し迫った事情があるので、
なおさら学術に忠実にならざるをえなくなり、
イデオロギーなど相手にしていられないことになります。
付記1:
学び舎の歴史教科書は、慰安婦問題に言及している
といっても、全体の中ではごく一部のようです。
他社の教科書に出てこないのだから、
本来中学生が学習するには「ハイレベル」な内容なのでしょう。
少ししか分量しかなくてもとうぜんと言えます。
この程度の記述でも、ミギの人たちは気に入らないようです。
日本政府による公式見解も掲載してあって、
ミギの人たちがよく主張する「両論併記」にもかかわらずです。
(彼らが内容を把握して「抗議」しているか怪しいです。
産経新聞の報道から情報を得ていると想像する。)
学び舎の教科書で慰安婦問題に言及しているのも、
日本の戦後史を扱った項目の一部分にすぎない。
資料として、旧日本軍の関与の下で慰安婦の募集や移送が本人の意思に
反して行われたことを公式に認めて謝罪した1993年の「河野談話」を紹介。
同じページのコラムで、世界各地の戦時下の
人権侵害について触れられているだけだ。
日本政府による「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような
資料は発見されていない」との公式見解も掲載されている
(「社会科教員らが作った『学び舎』教科書の中身とは?」参照)。
付記2:
ブックマークを見ても、「入学試験を受ける立場」に立った
見解がないようなので、それを少し書いてみたしだいです。
付記3:
学び舎の歴史教科書についてはこちらもご覧ください。
有名校で採用されることがとてもご不満な産経新聞の記事。
「灘、筑駒、麻布など有名校がなぜ?
唯一慰安婦記述の中学歴史教科書「学び舎」、30校超で採択」
実際に教科書をご覧になったかたのエントリ。
学び舎の歴史教科書はやはり「よくできる子」向けのようです。
「教科書展示会@名古屋市鶴舞中央図書館を見てきたが、
中学歴史教科書は学び舎版が圧倒的に優れていると感じた」
歴史修正主義者の信じている歴史を教えたら、
入学試験に合格しなくなるというエントリ。
(コメント欄も合わせて参照。わたしもコメントしています。)
「「おべんきょうはすきかな?」」