2018年04月30日

mar0006.gif新しい夫婦別姓訴訟・とまどい

1月に夫婦別姓訴訟を起こしたサイボウズ社長の
青野慶久氏とその支援者たちの動きに、懸念を示すかたがいます。

「サイボウズ青野社長の「別姓訴訟」、日本会議への接近に戸惑う人たち」
(はてなブックマーク)

なにを懸念しているのかというと、大きくふたつあって、
訴訟で目指している内容と、一部支援者の日本会議への接近です。

ここでは訴訟で目指している内容を見たいと思います。
わたしもブログではっきり言ってこなかったので、
この機会にくわしく見ておくことにします。

 
訴訟の対象になっているターゲットは「戸籍法」です。
(青野氏らが提訴したものと、岡山のものと両方です。)
婚姻によって氏を変更したものは、
戸籍法上の届け出によって、旧姓を戸籍上の氏として
用いることができるようにする、というものです。

民法の夫婦同氏規定はそのままです。
婚姻の際は、いままで通り夫婦のどちらかの氏を
選ぶことになり、民法上は夫婦同氏となります。
この意味で「民法改正」とは言えないです。

「選択的夫婦別姓訴訟で実現したいことへのご理解とご支援のお願い」
今回の訴訟のコンセプト
旧姓を使い続けたい人が、不利益なく使い続けられる。
かつ、社会が負担する変更コストを最小限に抑える。

ゴール
戸籍法に、「婚姻により氏を変えた者は,戸籍法上の届出により,
旧姓を戸籍法上の氏として用いることができる。」の条文を追加する

「もうひとつの夫婦別姓訴訟」
「夫婦別姓 事実婚2人が提訴へ 戸籍法規定で」
戸籍法の規定で外国人と結婚した場合は夫婦別姓を選べるのに、
日本人同士だと夫婦同姓しか認められないのは
法の下の平等に反して違憲だとして、岡山県に住む日本人で
事実婚の夫婦が来年1月にも、慰謝料など約220万円の
支払いを国に求める訴訟を岡山地裁に起こす。

民法の夫婦同姓の規定を巡って最高裁は2015年に
合憲と判断したが、戸籍法の規定に着目した提訴は初めて。


選択的夫婦別姓の導入に関して、1992年に法制審議会が
3つの案を作って検討しましたが、今回の訴訟で目指す内容は
このうちのC案とほぼ同様です。

C案はターゲットは戸籍法ですが、そのために改正される
民法の条文があるので、この意味では「民法改正」でしょう。
青野慶久氏らの夫婦別姓訴訟も、戸籍法に新しい条文を
追加するとしていますが、それにともなって必要になる
民法の条文も改正されるのかもしれないです。

A案: 夫婦別姓、子どもの苗字は夫婦のどちらかに統一
(法制審議会が主張する案)
B案: 夫婦別姓、子どもの苗字は出生ごとに決める
(野党提出案)
C案: 民法上は夫婦同姓。戸籍に旧姓を記載できる。
(いわゆる旧姓の通称使用案)


1992年の「婚姻制度等に関する民法改正要網試案」の
一部を以下に引用しておきます。
(『夫婦別姓への招待』(有斐閣出版)の
274-280ページに、実子や養子の苗字の扱いなど、
もっと詳しいことが載せられています。)

[A案]
1 夫婦の氏(750条関係)

(1) 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、
夫又は妻の氏を称するものとする。
ただし、この定めをしないこととすることもできるものとする。
(以下、この定めをして夫又は妻の氏を称する夫婦を
「同氏夫婦」といい、この定めをしないで、
それぞれ婚姻前の氏を称する夫婦を「別氏夫婦」という。)

(2)別氏夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻のいずれかの氏を、
子が称する氏として定めなければならないものとする。

(3)別氏夫婦は、婚姻後、戸籍法の定めるところにより
届け出ることにとって、夫又は妻の氏を
称することができるものとする。
[B案]
1 夫婦の氏(750条関係)

(1) 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、
夫又は妻の氏を称するものとする。
(以下、この定めをして夫又は妻の氏を称する夫婦を
「同氏夫婦」といい、この定めをしないで、
それぞれ婚姻前の氏を称する夫婦を「別氏夫婦」という。)

2 実子の氏(790条、791条関係)
(2)別氏夫婦の子の氏

別氏夫婦の子は、その出生時における父母の協議により
定められた父又は母の氏を称するものとする。
[C案]
1 夫婦の氏(750条関係)

(1)夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、
夫又は妻の氏を称するものとする。

(2)婚姻により氏を改めた夫又は妻は、相手方の同意を得て、
婚姻の届出と同時に戸籍法の定めるところにより
届け出ることによって、婚姻前の氏を自己の呼称と
することができるものとする。

(3) (2)により婚姻前の氏を自己の呼称とする夫又は妻は、
戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、
その呼称を廃止することができるものとする。


C案はダイバーシティやジェンダー平等の観点から
ふじゅうぶんであることや、あえて戸籍上の氏と異なる
民法上の氏を決めさせる意義が薄いことから、
当初から批判が多く、ほとんど検討されなかったのでした。

選択的夫婦別姓法案の議論は、もっぱらA案とB案の
どちらを採るかの問題になっていました。

「サイボウズ青野社長の「別姓訴訟」、日本会議への接近に戸惑う人たち」

今回の訴訟の主張のように、現行の制度を維持しつつ、
婚姻によって氏を改める者の社会生活上の不利益を
回避することができるとのメリットがあるとされた。

しかしながら法制審議会でこの案は「多様な価値観の許容、
人格的利益の保護、実質的な男女不平等の解消という
別氏制の理念に応えておらず、制度として不徹底」
「夫婦の氏を定めなければならない根拠が薄弱」
「氏と異なる呼称の制度を設けることは
混乱を招く」と批判され、支持されなかった。

つまり、「夫婦別姓」の問題が内在するのは、
単に社会的利便性、不利益を回避するだけでない。
根底にある「人権」の問題を格に据えなければならないのである。


青野慶久氏らの夫婦別姓訴訟も、目標はC案に近いです。

1. よって法制審議会がC案を発表したときに出てきた批判は
(ダイバーシティ、ジェンダー平等の観点からふじゅうぶんなど)、
ほとんどすべて当てはまると考えてよいでしょう。

2. これに加えて、法制審議会が発表した当初から、
ほとんど検討に値しないとしてきたC案に近いものを、
なぜゆえいまさらのように訴訟の目標にするのか、
という批判があると思います。

彼らの主張は、婚姻の際に夫婦どちらかの姓を選択する
という民法は変えず、戸籍法に「婚姻により氏を変えた者で
婚姻の前に称していた氏を称しようとする者は、
婚姻の年月日を届出に記載して、その旨を届け出なければならない」
という一文を加える、と言うものだ。

これにより、望む人は婚姻後も元の氏を戸籍名として
使い続けることが可能であり、これまでの訴訟とは
違う「ニュー別姓訴訟」だと主張する。

しかし、実はこの「ニュー」こそ「オールド」な案で、
戸籍実務研究者の間では過去においてその可能性が議論され、
1996年の法制審議会でも類似のケースは「C案」として
俎上にのぼるものの、批判が多く答申内容にはならなかった。


3. もうひとつ批判することがあるとしたら、
原告団はC案に近いものを目指す訴訟を
「新しい夫婦別姓訴訟」と銘打っていることでしょう。
22年前にほとんど取りざたされなかった案の
二番煎じのどこが「新しい」のか、ということです。

「新しい夫婦別姓訴訟へのご質問への回答です」

4. 原告団が勝訴してC案に近い法案が導入されたとしても、
そこで「固定化」を起こして、より望ましいかたちである、
A案やB案を目指す動きが止まるのではないか、
という懸念があるかもしれないです。

「差別」をしている側は、大抵その認識はない。
問題を指摘し、説明し、説得に至るには時間とコストがかかる。
だからと言ってそれを避けて、とりあえず保守派の人も
納得行くような形だけの「夫婦別姓」としても、
差別は逆に固定化される危険性がある。


原告団やその支持者たちにも考えはあると思います。

1. ダイバーシティやジェンダー平等の観点から
問題が残っていても、旧姓を戸籍に記載できて、
旧姓を呼称の氏とできることで解決や改善することは多いです。
なにもしないよりはましなのはたしかでしょう。

2. 2015年に夫婦別姓訴訟が最高裁大法廷で敗訴して、
まだ時間があまり経っていないです。
敗訴したばかりの訴訟と同じ内容で提訴しても、
勝算はほとんどないと考えられます。

ほかのアプローチを考えた結果、
国際結婚で認められる夫婦別姓が、日本人どうしの結婚で
認められないことに注目して、戸籍法をターゲットとした、
ということになるのでしょう。。


3. これは原告団やその支援者はどう説明するかと思います。
むかし捨てられたものをよく調べたら、いまの基準で
画期的なものがあった、とするのでしょうか?

「22年前のC案の焼き直し」なんて言うよりは、
「新しい」と銘打って、いままでだれも考えなかった
画期的な内容だと主張したほうが、
訴える力はあることはあきらかですが。

4.は未来のお話なので、なんとも言えないです。
C案に近いものが施行されたことで、
それが夫婦別姓に対する抵抗を減らすことになって、
A案やB案に近いものが、比較的近い将来
実現することも考えられることです。

一度に完成されたものを実現させることが困難から、
小さく区切ってできることから実現させるという戦略です。






posted by たんぽぽ at 23:38 | Comment(2) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
大変ご無沙汰しております。
二つの訴訟は二律背反、というわけでもないですし(両方とも違憲判決が出れば、民法でも選択可能、戸籍法でも選択可能、というような法設計も(多分しないとは思いますが)法制度的には可能なわけで)、仲良くエールを送りながらやってほしい(多くの方はそうしてますが)と思います。
私も両方支持します。厳しい訴訟ですが、両者頑張っていただき、両者ともに違憲を勝ち取って欲しいです。
Posted by 魚 at 2018年05月01日 08:35
魚さま、すごいおひさしぶりです。
こちらにコメントありがとうございます。

青野氏たちの訴訟には、最初から懸念を持っていた人たちは
いたようですが、日本会議への接近(?)で、
その不信感がいよいよ強まったという感じです。

わたしが心配している最悪の事態は、
ここで選択的夫婦別姓を求める動きが、
分裂するのではないか、ということです。

わたしも、青野氏たちの考えかたも、
それに異を唱えるかたちの考えも、どちらも理解はできるので、
分裂だけは避けてほしいと思っていますが。
Posted by たんぽぽ at 2018年05月01日 23:01
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