夫婦別姓訴訟の原告団が、きゅうに日本会議に接近したことと、
それに懸念を示す人が出てきたことについてです。
「サイボウズ青野社長の「別姓訴訟」、日本会議への接近に戸惑う人たち」
(はてなブックマーク)
なにがあったのかというと、原告団の担当弁護士のかたが、
今回の夫婦別姓訴訟で目指しているものが、
日本会議の提案内容に近いことを示し、
さらに日本会議に訴訟への協力を要請したのでした。
こうした危惧は、青野氏側が「夫婦別姓」反対である
日本会議にアプローチしたことでさらに濃くなる。
「日本会議の提案内容が実現される訴訟です。ご協力ください」
この訴訟の担当弁護士・作花知志氏が日本会議に向けたメッセージである。
それに対して日本会議は、協力をお断わりしたのでした。
実質的に無視黙殺と言っていい返信です。
これだけ親和性を強調したにもかかわらず、日本会議の返答は冷淡なものだった。
「具体的に夫婦別姓問題に取り組んでいるものではありません」
「この度のお申し出につきましてご辞退申し上げる次第です」
今回のことは、原告団やその支援者たちにとっては、
「こちらからは反対派に歩み寄った」というパフォーマンスないし
アリバイ作りには、なっていると思います。
日本会議が原告団の案に対して、積極的な賛同や協力を
しないところを見せて、「推進派からいくら歩み寄っても、
反対派は絶対に賛成しない」「反対派は自分たちの主張に
近い案を推進派から提示されても賛同しない」という
ところを示すということです。
戸籍に旧姓も記載できるようにするという
今回の訴訟の原告団が目指している案は、
「通称使用で解決するべきだ」という日本会議を含めた
選択的夫婦別姓の多くの反対派の主張に近いです。
原告団の目指す案に対して、日本会議が積極的な
賛成や協力をしないのは、おかしなお話になります。
自分たちの主張が受け入れられたのですから、
本来なら賛成するところだからです。
原告団が法制審議会のA案やB案に近い案など、
従来の選択的夫婦別姓の推進派の案に近いものを
主張していれば、日本会議も理由を述べた上で
「自分たちの考えは違う」と反論して、
協力できない旨を伝えたのだろうと思います。
今回の原告団の案は、「自分たちの考えとは違う」と
言えるほど、日本会議もつらの皮は厚くなかったのでしょう。
考えが違うことの理由づけがどうやってもできないので、
実質無回答の返信をするよりなかった、
ということではないかと、わたしは想像します。
選択的夫婦別姓の反対派は初期のころから
「通称使用でじゅうぶんだ」という主張を続けていましたが、
通称使用を認めるための法案や制度の整備を
まったくしてこなかったのでした。
自民党・安倍政権は、住民票やマイナンバーに
旧姓を併記できるようにする法案を準備しています。
これは2016年から検討を始めたもので、
ごく最近になってからようやく着手したものです。
「住民票の旧姓併記を検討」
「住民票に旧姓併記の法案」
選択的夫婦別姓法案の法制審議会の答申書は
1996年ですが、それから20年のあいだずっと、
ほとんどなにもしなかったということです。
選択的夫婦別姓の反対派は「通称使用で解決するべきだ」と
主張するだけで、具体的な法整備をしないのは、
彼ら反対派はじつは通称使用さえも認めたくない
ということではないかとも思います。
反対派が「通称使用でじゅうぶんだ」と言っているのは
「反対ばかりでない、対案も考えている」と主張するための
アリバイ作りにすぎないということです。
結婚改姓すると仕事の上で不利益があることは、
ほとんどの選択的夫婦別姓の反対派も認めているようです。
それで職業上の不利益に対しては、解決策を考えて
おかなければならないと思ったのでしょう。
日本会議のコメント「具体的に夫婦別姓問題に
取り組んでいるものではありません」は、
わたしに言わせれば「なにをかいわんや」です。
1996年の法制審議会の答申書以来、
選択的夫婦別姓が実現しそうになるたびに、
日本会議は大規模な反対運動を展開してきたのは、
いったいなんなのかと思います。
「日本会議・別姓反対小史」
「日本会議・別姓反対小史(2)」
「日本会議・別姓反対小史(3)」
結婚した夫婦が、別姓を選ぶことができる「選択的夫婦別姓」。
この20年、男女平等の機運が高まる中、政府が法案を国会に
提出しようとするたびに、日本会議は大規模な反対運動を繰り広げてきた。
2001年に「第二ラウンドの闘い」と言って、
「日本女性の会」を作ったのは、なんなのかと思います。
選択的夫婦別姓の推進派議員の事務所に、
大量の攻撃的なファックスを送ったり、
54000の署名を180万といつわって
喧伝したのは、なんだったのでしょうか?
第二次男女共同参画基本計画で選択的夫婦別姓に
関する記述を後退させたのは、なんなのでしょう?
民主党政権時代の2010年に、5000人規模の
夫婦別姓反対の集会を開いたのは、なんだったのでしょう?
皇室にジェンダー平等が波及してほしくないから、
日本会議は選択的夫婦別姓の実現の阻止に、
血道をあげてきたのではなかったのでしょうか?
「差別のための夫婦別姓反対」
『日本会議』(集英社新書)でも書いたが、安倍首相や日本会議系人士がなぜあれほど「夫婦別姓」を拒絶するかについては、日本会議事務総長の椛島有三氏が内輪の機関誌で理由を告白している。夫婦別姓で男女同価値、男女同権を認めることで、女性天皇や女系天皇の容認論に繋がるのがこわいのだという。 pic.twitter.com/aABGDPavZx
— 山崎 雅弘 (@mas__yamazaki) 2018年1月12日
どう見ても、日本会議は選択的夫婦別姓の実現に
反対することを、優先順位の高い課題として、
取り組み続けてきたとしか、言いようがないと思います。
青野氏の訴訟が不十分だ、と思われる方も、ぜひここは、相乗効果を狙って、青野氏の訴訟を最大限活用して、運動を拡大していってほしい、と切に思います。私も青野氏の案で十分だとは思いませんが、でも、青野氏を最大限応援します。もちろん、もう一方の訴訟も最大限応援します。
まぁ、これまでさんざん「通称拡大で十分」とかいう、まったく理由にもなっていない理由で反対されてきたことを考えれば、懸念も理解はできるのですけどね。
もし、そんな民法改正ではLGBTまで対応できない、という理由で、選択的夫婦別姓問題の人がLGBTの方々から運動に反対されたら、それはおかしいですよね。この場合、親和性の高い活動ですし、両者、最大限の相乗効果を狙って行くべきだと思いますし、実際皆さん、そうされているかと思います。それと同じ状況だと考えればよいのではないでしょうか?
原告団が日本会議に接近したのは、彼らを説得したり
協力を得たりしようと、本気で思っているからでは
ないだろうとは、わたしも思っています。
日本会議を含めた選択的夫婦別姓の反対派が
どういう人たちかくらい、原告団のかたたちも
じゅうぶんすぎるくらい把握していると思います。
日本会議への接近は「戦略」ということだと思いますが、
なんのための「戦略」なのか、なにをしたいがための
「戦略」なのか、という疑問は残るのですが。
日本会議への接近で、原告団に懸念を示した人たちは、
最初から原告団に対して不信感はあったようです。
ここで原告団が日本会議に接近したことで、
その不信感がより確信に近づいたのでしょう。
15年前にネットの選択的夫婦別姓の市民団体が、
異様に自民党にすり寄ったことや、
自分たちの方針に批判的な人たちを排除したことを、
連想させるものが、わたしにはあります。
それゆえ原告団の動きに不信感を持つ人が出てくるのは、
それはそれで理解できることではあるのですが。
ここで青野氏たちの訴訟を応援しないのは、
選択的夫婦別姓の実現という観点から見れば、
かなりの愚策だと、わたしも思います。
訴訟で目指しているのはふじゅうぶんな
内容ではありますが、それでも裁判で勝利することと、
一定の前進をすることは大事だと思います。
さしあたってわたしが心配なのは、
原告団およびその支持者、支援者と、原告団に不信を
持つ人たちとのあいだの対立が激化することです。
おたがいリソースを浪費した挙句裁判で敗訴したら、
それこそ最悪の事態であり、もとも子もないことになるからです。
それだけはなんとか避けたいところです。