ママがいいに決まっている」「生後3-4ヶ月で保育園に
預けるのは、赤ちゃんにとって幸せだろうか」という
主旨のことを言って、少し話題になりました。
「萩生田氏「赤ちゃんはママがいいに決まっている」」
(はてなブックマーク)
発言は5月27日、宮崎県連の会合のときです。
0〜3歳の赤ちゃんに、パパとママどっちが好きかと聞けば、
はっきりとした統計はありませんけど、
どう考えたってママがいいに決まっているんですよ。
しかしみなさんよく考えて頂きたい。
0歳の赤ちゃんは生後3〜4カ月で赤の他人様に
預けられることが本当に幸せなのでしょうか。
子育てのほんのひととき、親子が一緒にすごすことが
本当の幸せだと私は思います。
なにを根拠にこんなことを言うのかと思います。
育児は母親の仕事だと思っている人の
典型的なステレオタイプだと思います。
「はっきりとした統計はありませんけど」なんて、
自分で言っているなら世話ないです。
赤ちゃんが母親が好きなように見えるとしたら、
「育児は女の仕事」とされているゆえに、
母親が赤ちゃんを世話することが多いので、
母親と接する赤ちゃんが多いからだろうと思います。
ふだん接する機会が多い人に懐くということです。
よって父親と接する機会が多い赤ちゃんは
父親が好きになるし、保育士さんと接する機会が多ければ、
保育士が好きになるだろうと思います。
萩生田光一の認識は「母性神話」「三歳児神話」の
影響を受けているものと思います。
「子どもは3歳くらいまでは、母親が直接育てたほうがいい。
でないと子どもにとって悪影響」というものです。
「所沢市長が三歳児神話」
「所沢市長が三歳児神話(2)」
3年前の2015年にも、埼玉県の所沢市長が同じような
主旨の発言をして、話題になったことがありました。
信者の絶えることがない、根が深い「神話」だと思います。
「埼玉・所沢「育休退園」母親ら提訴!市長「子どもは保育園より母親といたいはず」」
所沢市長は「子どもが保育園にいたいと思っているかどうかというと、そうではない。
子どもに聞けば、お母さんと過ごしたいと言うだろう」と話す。
「母性神話」「三歳児神話」に根拠がないことの検証は、
たとえば以下のサイトで研究の報告があります。
この研究は、3歳までの子どもの母親が就労していることと、
子どもが「キレる」といった問題行動を起こすことに
関連があるかを調査しています。
「3歳児神話を検証するII〜育児の現場から〜」
一つはまさに3歳児神話の中核的なところで、
0、1、2、3歳未満だったときの母親の就労と14歳までの子どもの
問題行動傾向との関連を縦断的に検討します。
以上のように子どもが3歳以前での母親の就労復帰が、
「キレる系」の問題行動や仰うつ傾向の発達を
積極的に進めるということはありませんし、
むしろ「キレる系」の問題行動では小さい段階では不思議なことに
それは緩和するような方向に作用している様相が示唆されたわけです。
3歳未満での母親の就労は、日本のサンプルについて見ても
児童期、思春期の問題行動や親子関係の良好さとは
関連しないことが一つ明らかになりました。
さらに乳幼児期についてはむしろ問題行動の発達を
抑制する効果を持つ可能性が示唆されました。
母親が就労していることと子どもが問題行動を
起こすことに関係はないばかりか、むしろ母親の就労は
子どもの問題行動を緩和する可能性さえ
考えられることが示されています。
「母性神話」「3歳児神話」の発端は、ジョン・ケネルと
マーシャル・クラウスによる「母と子のきずな」という研究です。
これは産まれたばかりの子が母親のあとを付いて行くので、
出産直後の母子を引き離したら悪影響なことが当たり前の
山羊のケースの研究がもとになっています。
母児別室で新生児期を過ごした子どもと母親の愛着関係が
機能不全を起す、ということが暗黙の了解のもとに一人歩きしている。
その一つの理由は、クラウス、ケネルがその研究論文の考察の部分で、
「出産直後にヤギの子どもを母ヤギから数時間引き離すと、
そのあと母ヤギのところにその子ヤギを連れて行っても、
育児行動をしないどころか、けっとばしたり、つきとばしたりする」
ということを引き合いにだしたことにある。
たしかにヤギはそうだろう。しかしヤギは離巣性の動物であり、
生まれた直後から歩いてそばにいる親(通常母親)の
あとをついて移動する動物なのである。
出生直後に母子のあいだにお互いを認識することは、
子ヤギにとっては死活問題であり、進化の過程で出生直後の
強い母子愛着関係を結ぶようになってきた、と考えるべきなのである。
この山羊の母子関係を人間に当てはめたものが、
現在信じられている「母性神話」「3歳児神話」です。
日本で育児を語る人も、これらの神話にもとづいた
認識を披露することが少なくないです。
「母性神話」「3歳児神話」は当初から根拠薄弱と
されていたのですが、それにもかかわらず
広く信じられた背景には「育児は母親の仕事」という
家族イデオロギーがあったのでした。
「行間を読む 8 <根強い「きずな」幻想>」
また、ボンディング研究がなぜこれほど
「熱心に広く受け入れられたか最も有効な理由」として、
女性には女性のふさわしい役割があるとする考え方が
社会に根強く存在していたことを挙げています。
とりわけ、ピューリタンの教義では、「女性は家にいて家庭を守る
高潔な『守護天使』」であり、「女性の居場所は家であり、
行い正しい子どもを育てるのが役目」というものです。
そういう考え方の広がりは、アメリカの母乳推進運動の背景にある、
伝統主義的なキリスト教徒家族運動とも重なり合うものでしょう。
人間の子どもを育てるのは、とても負担がかかります。
早熟で産まれるし、年数もかかるからです
よって女親ひとりで育てることはとても困難であり、
周囲の人たちの協力が必要になります。
「性別役割分担は合理的?(3)」
人間には閉経後のメスが長く生きる
「おばあさん」がいますが、これは自分の子育ての
知識を伝えられる「おばあさん」が育児に協力すると、
女親の子育ての負担が減って有利になるからだ、
という「おばあさん仮説」があります。
「おばあさん仮説、閉経、繁殖」
「「おばあちゃん」こそが人類進化のカギ?!──おばあちゃんの科学。」
人間の子育ては負担がかかるという
生物学的特徴があるので、父親や年長の兄弟姉妹、
おじ、おばなどの身内が育児に協力する必要があります。
よって父親、男性も育児に参加するほうが、
人間の生理的特徴にはかなっていることになります。
また近所の親どうしが子育てに協力して、
おたがいの負担を減らすという特徴もあります。
それゆえ保育所を立てて、子どもを一箇所に集めて
共同で育てることは、人間の生理的特徴には
むしろかなっていることになります。
「「人間とは何か」京大霊長類研シンポジウムレポート(前)」
人間の♂はチンプの♂よりも子育てに協力的である。
年長の兄弟姉妹や伯父伯母などが協力して
子育てをするのが人間の特徴といえるが、
自らの生殖能力を失った後に孫の面倒をみる「おばあさん」は、
協力して子育てをすることが人間にとって
生理的な行動であるということを意味しているとすらいえる。
「おばあさん」の存在こそ、人間の子育てのあり方をよく表している。
また、♀同士もよく集まって協力することが
チンプに比べて人間の大きな特徴ともいえる。
このような人間の生理的特徴を考えれば、
「赤ちゃんにとってパパよりママがいいとは
決まっていない」し、「生後3-4ヶ月の赤ちゃん
赤の他人に預けられても、べつに不幸でない」
ということになるでしょう。