主張する人が、ツイッターにいました。
この人はわたしに直接リプライをしてきました。
「性的メディアの利用で性暴力が抑制される」という主張です。
わたしのブログでも前に議論になりましたし、
「なんだまたか」という感じなのですが、
この言説を信じる人は、後を絶たないようです。
(イギリスで)ポルノ規制をしたら強姦が増えたのが良く分かる表と、携帯フィルタリングをしたら少年による強姦が色んな都道府県で増えた見出し(?)です。
— 酪農家従業員 (@4ign10rainee) 2018年8月29日
WJを読む年の男子がWJを読む事で性欲発散して強姦する事がないなら、私ならどんどん読ませたいですけどねぇ…(WJがネットでも同じ)。 pic.twitter.com/jqtXPTWISd
なぜか「表」と言っていますが、添付しているのは「図」です。
このふたつの図を見ても、イギリスで性的メディアの
規制によって性犯罪が増えた根拠には、ならないと思います。
スコットランドで児童ポルノが規制されたのは
1982年ですが、イギリスで強姦件数が
急増したのは1985年ですから、あきらかにずれています。
翌年の1983年は1982年より強姦件数が減っているくらいです。
イングランドで児童ポルノが規制されたのは
1988年ですが、前後を見ても1988年を境に
強姦件数が急に増えたとは言えないです。
1989年、1990年と増加が鈍化しているくらいです。
2001年にイギリスは児童ポルノを
サイバー犯罪とする条約を採択しています。
この時点では国内法はまだ改正していないと思われます。
それでなぜ強姦件数に影響が出るのかと思います。
イギリスの強姦件数の年次推移と、児童ポルノの規制とは、
ご多聞にもれず「疑似相関」ということです。
正確には少しずつずれているところがあるので、
「疑似相関」にすらなっていないと言えます。
イギリスでは2003年に性犯罪法が定められました。
これは人身取り引きの規制に関する規定もありますが、
児童売春や児童ポルノの規制も想定しています。
「イギリスの人身取引に対する法制度」
「2003年性犯罪法」
第57条 「イギリス国内への人身取引」
第58条 「イギリス国内における人身取引」
第59条 「イギリス国外への人身取引」
第60条 「第57条~第59条:解釈と司法権」 (注18)
該当する犯罪とは、「2003年性犯罪法」第1部及び
「1998年刑事司法(児童)(北アイルランド) (注19)命令」
附則1で挙げられた性犯罪の規定、並びに児童の猥褻な
写真の撮影を禁じた「1978年児童保護法
(Protection of Children Act 1978 c.37)」第1条第1項a号
及び「1978年児童保護 (注20)(北アイルランド)命令」の違反をいう。
第57条から第60条までの規定において、「該当する犯罪」として
掲げられたものの中で、特に人身取引犯罪の訴追に
関わることが想定される犯罪は以下の通りである。
第48条 「児童を売春又はポルノに従事させること」
第49条 「児童売春及び児童ポルノを管理すること」
第50条 「児童売春及び児童ポルノの手筈を整え、便宜を図ること」
第51条 「第48条~第50条:解釈」 (注21)
(以上4か条の要旨) 18歳未満の児童を売春業又は
ポルノグラフィーに従事させること、
児童売春及び児童ポルノを管理すること、
児童売春及び児童ポルノの手筈を整え、便宜を図ることを犯罪とする。
ふたつの図を作った人の理屈なら、2003年以降の
イギリスは強姦件数が急に増えるはずです。
ところが実際のイギリスの強姦件数の年次推移を見ても、
2003年以降急増したとは言えないです。
そのせいか最初のツイートの人が示した図には、
2003年の性犯罪法は書き込まれていないです。
「性的メディアを規制すると性犯罪が増える」と主張する人は、
このような都合が悪いことは伏せるものようです。
性的メディアの視聴と、性暴力の攻撃性や肯定される程度との
関係についての研究には、大きく2種類あります。
個人レベルの心理学的研究と、集団レベルの統計学的研究です。
「性的メディアの規制で性犯罪が増える」と
主張する人が示す「根拠」は、いつも最初のツイートの人が
示した図のような、集団レベルの研究です。
そしてそれはいつも「疑似相関」だとわかります。
個人レベルの心理学的研究はないのかと思います。
性的メディアを視聴することで、どのように心理が変化して、
性暴力の抑止につながるかという、直接的な根拠です。
個人レベルの心理学的研究は「性的メディアの視聴で
性暴力の抑止になる」という言説には否定的です。
性的メディアは性暴力の容認や肯定をもたらしたり、
誘発や助長をする可能性があると考えられています。
『性犯罪の行動科学』(北大路書房)という本で
ていねいにその研究結果がしめされています。
「ポルノと性暴力との関係」
1. ポルノを観ると攻撃行動が増える
2. ポルノの視聴が多いほど性暴力を支持するようになる
3. 小児わいせつにおいては、ポルノの視聴が多いほど再犯性が高くなる
次の大渕憲一氏の論文も、性的メディアを視聴することで、
性行為に関して攻撃性が増したり、「レイプ神話」を信じる
傾向が高まると結論しています。
「ポルノと性暴力との関係(4)」
アダルトビデオの影響を受けた男性が、
性行為の際、女性が望まないプレイや危険なプレイをしたがる
ということは結構たくさんあって、問題になっています。
「AVの影響を受ける男性」
「AVの弊害・風俗嬢の実体験」
学術的な研究など参照するまでもなく、
性的メディアの視聴の影響で、性暴力に肯定的になったり
性行為が攻撃的になると考えられる事例は、
(はなはだ残念ながら)身近にたくさんあるのでした。
どんなメディアでも、視聴することによって、
人は多かれ少なかれそれに感化されます。
それを考えれば、性的メディアを観ることで、
性暴力の容認や肯定の度合いが高まるというのは、
当然のことだと言えるでしょう。
なぜに性的メディアだけ「視聴すれば性暴力の
抑止につながる」「規制すれば性暴力が増える」なんて、
感化と逆の効果があると信じていられるのかと思います。