2018年12月11日

toujyouka016.jpg 結婚改姓を喜ぶ女性はいないらしい

12月9日ふたつのエントリでお話した論文ですが、
既婚女性を対象に、結婚改姓についての感慨を
聞いたことについて、少し触れています。
今回はこれを見てみたいと思います。

「夫婦別姓は何故「嫌われる」のか?」

多数派ではあろうが,改姓についてはひとそれぞれ思い入れがある.
ここで,筆者がかつて 既婚女性を対象に行った
インタビュー調査の結果をいくつか紹介しておきたい.


 
これを見るかぎり、実際に結婚改姓したかたは
「女である以上、結婚したら名字を変えるのは
なかば宿命的」と思っているかたが多い感じです。
「改姓したくないけれど、そうせざるをえないから改姓した」
というかたが多いということです。

改姓にあたっての感慨を尋ねたところ,
やはり多いのは「そういうものだと思った」
「特に 何とも思わなかった」というものであったが,
やはり当然のように女性が改姓しなければ
ならないことに疑問を感じていた人もいた.
そして非常に多かったのが「改姓はとても面倒だった」という意見である.

結婚改姓に対する不満ももちろんあって、
女性が改姓しなければならないことに
疑問を感じているかたもやはりいます。
不満がない人でもせいぜいが「なんとも思わない」です。

「改姓はとても面倒だった」という意見が
多いことは、注目するところだと思います。
これは結婚改姓を「そういうものだと思った」
「とくになんとも思わなかった」と思っていても
面倒だったかたは多いということだと思います。

具体的になにが面倒かは、各種の名義変更の手続きや、
職場の関係者や友人知人に、名字が変わったことを
周知させる手間だろうと思います。
精神論をいくら振り回しても、結婚改姓の負担が
軽減されはしないということでしょう。


さらに注目するところは、結婚改姓を喜んだとか
肯定しているかたが、いなかったことです。
結婚はまだだいぶ先で、現実問題になっていないであろう
20歳前後のかたが、改姓に多少の憧れを持つくらいです。
すでに結婚している女性で、改姓したことに格別の
思い入れがあるかたはいないということです。

一方,「是非変えたいと思った」
「それこそ結婚の証だと思った」という程の
強い思い入れも見られなかった.
この点,学生など20歳前後の場合,とりわけ女性は
ロマンチック・ラブ概念が先行しているため,
改姓に一種の憧れもあるようだが,実際に婚姻を経験している
女性たちにはそれ程の思い入れもなかったようである.

「女性は結婚改姓にあこがれている」というのは、
とくに選択的夫婦別姓の反対派(非共存派)の男性が
ときどき思っていることがあります。
彼らの考えるような結婚改姓を望む女性は、
現実にはほとんどないことになりそうです。

「女性に結婚改姓の希望がある?」
「竹田恒泰の結婚改姓幻想」
「田母神俊雄の思い込み」


結婚改姓を「それこそ結婚の証だと思った」と
思った女性もいなかったのでした。
これは「結婚改姓で気持ちの整理になる」とか
「結婚改姓によって結婚に責任を持つ」と考える女性も、
現実にはほとんどいないということだと思います。

「気持ちの整理」とか「結婚に責任」といった意見も、
さきの「女性は結婚改姓にあこがれる」と同様、
選択的夫婦別姓の反対派の男性にありがちです。

「改姓で結婚の責任?改姓してないのに?」

これらは女性に結婚改姓させることを
正当化するために、選択的夫婦別姓に反対する男性が
考え出した言説、ということになりそうです。
あるいは「女性にはこうあってほしい」という、
自分の願望をしめしているだけだと思います。


インタビューでは改姓が嬉しかったという
女性もいるのですが、存在としては例外的です。
そして理由は、自分の生来の名字がめずらしいので、
不便をきたしているからです。
平凡な苗字の男性と結婚して、自分も平凡な苗字に
なれたのが嬉しかったということです。

例外的に改姓が嬉しかったといっていたのは,
本来の苗字がきわめて珍しく,個人の特定性が高く
出自までもが簡単に判ってしまうようなパターンの場合であった.
たまたま結婚相手の 苗字が非常に多い苗字だったため,
平凡な名前になれて嬉しかったといっていた.
たしかに, 他人の戸籍を買うといった犯罪の域に
踏み入れない限り,改姓というのは容易ではない.
一般的な方法としては婚姻か養子縁組しかないであろう.

一般にめずらしい苗字の人は、平凡な名前のほうが
いいと考えることが多いようです。
他人に覚えてもらえない、ハンコが見つからないなど、
めずらしい苗字は日常的に不便なことが多いからです。

インタビューのケースでは、めずらしい苗字のせいで
出自までわかるという、のっぴきならない事態でした。
結婚改姓することで日常的な不便さが減るという、
きわめて特殊な状況だったということです。

選択的夫婦別姓の反対派(非共存派)が信じているように、
結婚改姓自体に憧れているのでもないし
(相手の男性の名字もめずらしければ、
改姓のモチベーションは弱くなるでしょう)、
「気持ちの整理」とか「結婚に責任」と
いったことでもないということです。



付記1:

既婚女性に結婚改姓の感慨について聞いたインタビューは、
参考文献を見ると出典が次のようになっています。

18) 公益財団法人アジア女性交流・研究フォーラムの助成金を得,
2013年から2014年にかけて,東京および九州の
既婚女性を対象に行った機縁法による半構造化インタビュー.
代表研究者笹川あゆみ, 他2名との共同研究.
詳細はKFAW調査研究報告書2014‒1
『夫婦間の性別役割分業はなぜ変わらないのか─
既婚女性へのインタビュー調査から探る─』,
公益財団法人アジア女性交流・研究フォーラム,2015年を参照.

以下がその論文ですが、結婚改姓についての
インタビューは、残念ながら触れられていなかったです。
(どんな人たちを対象にインタビューをしたかは示されている。)

「夫婦間の性別役割分業はなぜ変わらないのか ―既婚女性(1)へのインタビュー調査から探る―」

既婚女性を対象にした結婚改姓のインタビューについて、
直接的なデータが示されている論文を
もしご存知でしたら、教えていただけたらと思います。



付記2:

「出自を隠すために夫婦別姓を利用しようとしている」と主張する
選択的夫婦別姓の反対派(非共存派)が結構います。

このインタビューには、名字で自分の出自までわかるので、
結婚改姓が嬉しかったという女性が登場します。
つまり実際には結婚改姓、すなわち夫婦同姓を
出自を隠すことに利用しているということです。

posted by たんぽぽ at 23:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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