結婚や離婚にともなう改姓をベルギーの人たちに
理解してもらうのに苦労した、という記事の続きです。
「前夫と死別→ベルギーで国際結婚。夫婦別姓が「生きやすい」理由」
この記事著者は、日本の戸籍をベルギーの人たちに
理解してもらうことにも苦労しています。
戸籍はほとんど日本独特の身分登録制度です。
似たような身分登録制度を持つ国はないです。
結婚や離婚で改姓すること以上に、
外国人が理解することは難しいことだと思います。
記事作者が経験したことは、ベルギー人でなくても、
どこの国の人であっても、似たような事態に
なるのではないかと、わたしは思います。
国際結婚することになると、たいていどこの国でも、
国籍証明、出生証明、独身証明などの正式文書が必要となるはずだ。
これらは、戸籍の写しを基に、在外公館で作成してもらったり、
それを日本国外務省に送ってアポスティーユという
証明を取りつけたりしなければならない。
その手続きはものすごく煩雑だ。
どの証明書の裏にも、元となった同じ「戸籍謄本・抄本」が
付けられて割り印が押されるのだが、
「戸籍」という制度のないベルギーの行政の担当者は、
これにもかなりの疑問の目を投げかけた。
「いくら私に日本語が読めなくても、
どれもすべて同じ紙が添付されていることくらいわかりますよ、
同じ紙から、異なる証明書が作成できるわけはありませんよね。
私はだまされません!」と。
たくさんある証明書はどれも同じ
「戸籍謄本・抄本」がつけられることになります。
ベルギーの行政の担当者は、いくつもの証明書に
同じ書類が添付されていることに気がついて、
「私はだまされません」と言っています。
ベルギーの担当者は、なにか同じ書類の「使い回し」を
しているとでも、思ったのかもしれないです。
それに加えて、記事著者は何回も名字を変えているので、
なおさらベルギーの担当者は怪しんだのかもしれないです。
こうしたお話を聞くと、日本の戸籍というのは、
国際的に見ると理解が困難なローカルな制度だ、
ということを、あらためて思うことになります。
記事著者はだまそうとしたのでないことはもちろんです。
どうやってベルギーの行政担当の人の
誤解を解いたのかは、記述がないのでわからないです。
かなり苦労したことだけは予想できます。
戸籍の記述自体が、戸籍に関する常識のない外国人には、
ひどくわかりにくいものとなっています。
手続きは無事に済んだが、新しくできた戸籍謄本を見て、私は茫然とした。
私の戸籍には、こんな風に書かれていたからだ。昭和x年x月x日xx市で出生同月x日父届出x月x日同市長から送付入籍
平成x年x月x日国籍ベルギー王国A(※現夫)と
同国の方式により婚姻同月x日証書提出
同年x月x日在ベルギー大使から送付
x県x市x番地B(※前夫)戸籍から入籍
平成x年x月x日婚姻前の氏に復する届出
同年x月x日在ベルギー大使から送付
x市x番地C(旧姓の自分)戸籍から入籍
戸籍制度をきちんとわかっている人向けの、独特な表現となっている。
「結婚した」ことや「死別した」ことは、
戸籍謄本には書かれていないので、翻訳して海外の政府に
提出しても、意味がなかなか通じない。
現在は戸籍がデジタル化されて多少見やすくなったが、
「海外でわかってもらえなさそう」なところは変わらない。
戸籍が必要になるたび、今もびくびくしている。
こうして見ると、戸籍というのは、日本のローカルな
社会にいる、ローカルな社会通念やカチカン
共有できる人たちだけで理解できればいい、
というスタンスだと言えます。
日本の家族制度や日本人の家族観自体が、
日本のローカルな社会やローカルなカチカンに
閉じこっているように思います。
戸籍のローカル性は、その表れであるとも言えます。
国際結婚をするかたもいるので、外国人が読んでも
わかるように戸籍の記述を改めようということは、
まったく検討されていないと思います。
わたしはそんな動きがあるなんて、聞いたことがないです。
国際結婚はもともと念頭にないのかもしれないです。
「日本人たるもの、日本人と結婚するのが当然」
という意識で、家族や婚姻に関する
制度の設計をしているのではないかとも思います。
そもそも日本人と国際結婚した外国人は、
日本の戸籍が作成されないです。
これも外国人を日本の家族制度や結婚制度から
排除しているうちと言えるでしょう。
国際結婚した日本人が配偶者の名字を名乗ると、
カタカナの名字になります。
そうなると「どちらの国のかたですか?」などと
訊かれることがあると、記事に指摘があります。
これも「日本人なら日本人らしい名字のはず。
カタカタの名字は日本人のはずがない」という、
日本の社会通念やカチカンのローカル性や
閉鎖性の表れであると言えます。
名前を聞かれる局面で、カタカナ姓といえば、
だいたい「は?」と聞き返されて、その上、「どちらの
国の方ですか?」などと余計な質問を招いたりする。
国際結婚の場合、原則は夫婦別姓になります。
外国人配偶者に戸籍が作られないことや、
日本人が名字をカタカナ表記することの困難さといった
実用的な面もあって、その結果論だと言えます。
それでもこれも見かたによっては、
日本人の結婚は夫婦同姓と決めて、そこから外国人を
締め出しているとも考えられると思います。
そうだとすると「ガイジンを国に入れない夫婦別姓」は、
日本に存在していると言えそうです。
現在の法律では、国際結婚の場合でも、
6ヶ月以内なら夫婦同姓にできます。
6ヶ月を過ぎても、家庭裁判所の認可が必要になりますが、
夫婦同姓にすることができます。
これによって国際結婚は夫婦別姓と夫婦同姓の
いずれも選択できて、日本人どうしの結婚より
名字の選択がかえって広くなるという
いささか皮肉な事態になっていると言えます。
「夫婦別姓はだめ?もう一度法廷へ」
わたしが想像するに、「べつの証明書から
作成された書類を提出させること」という
規則があるのかもしれないです。
それで同じ証明書から作られた
書類だとすぐわかったので、
「これは受け付けられない」と
不備を出したことも考えられます。
実際に、ベルギーの行政の担当者の対応に
問題がなかったのかどうかは、
わたしにはわからないです。
記事では、このあとくだんの担当者に
著者がどんな対応をしたかまでは、
書いていないからです。
言いたいことは、「日本の戸籍は
外国人にはわかりにくい」であって、
ベルギー側の対応の是非ではないので、
あえて触れなかったのでしょう。