参院選の直前に書かれた、選択的夫婦別姓についての、
ブルームバーグの記事を見てみます。
「「変われない日本」、参院選で占う選択的夫婦別姓の行方」
「Women in Japan Fight for Their Identity − Starting With Their Name」
日本語の記事には選択的夫婦別姓が実現しない
理由のひとつとして、推進派と反対派の
イデオロギーのぶつけ合いがあるとしています。
そのせいで結婚改姓の不利益である、
アイデンティティの喪失の問題や
職業上のキャリアといったことについての議論が、
じゅうぶんなされていないとしています。
メルボルン大学アジア研究所の豊田悦子上級講師は、
夫婦別姓が実現しない理由の一つとして、
賛成派と反対派の「イデオロギーのぶつけ合い」があるとし、
望まない改姓から生まれるアイデンティティーの喪失、
仕事上での不都合について実質的な
議論がされていないと分析する。
内閣府に設置された男女共同参画局に
民法や家族法の専門家が少ないため、
関係者が問題を十分に理解していない点も指摘した。
これをご覧のみなさんはいかがお考えでしょうか?
この分析は、わたしは同意できないです。
推進派はなぜ選択的夫婦別姓が必要で、
結婚改姓によってどんな不利益があるのかという、
ここで言う「実質的な議論」を、たくさんしています。
ネットを調べただけでも、たくさん見つかるでしょう。
推進派は自分から選択的夫婦別姓の
お話をするときは、アイデンティティや
職業上のキャリア、改姓手続きの負担など、
「実質的な議論」をするということです。
イデオロギーの議論はもっぱら
反対派(非共存派)からしかけてくるものです。
推進派はイデオロギーの議論には、
ほとんど興味がないことが通常です。
結婚改姓したくないのは、
自分の生活や尊厳のために必要だからであり、
イデオロギーのためではないです。
それゆえ選択的夫婦別姓の議論も、
自分の生活や尊厳に関係する「実質的な議論」をしたいと、
推進派は考えるからです。
それでも反対派から議論をしかける以上、
無視するわけにはいかないです。
それゆえ推進派も不本意ながら、
イデオロギーの問題についてあれこれ調べて、
反論することになります。
イデオロギーの議論をしてほしくないなら、
反対派にイデオロギーの議論をしないよう
要請することだと思います。
反対派がイデオロギーの議論をしなければ、
推進派が自分からイデオロギーの
議論をすることはないからです。
イデオロギーのぶつけあいになることが、
選択的夫婦別姓が実現しない理由に
なっているのだとしたら、
「イデオロギーの議論をしかける」という
反対派の戦略は、功を奏していることになります。
反対派(非共存派)としては、
どんな手段を使っても、選択的夫婦別姓の実現を
阻止できればいいと言えます。
「まともな議論をさせない」というやりかたで、
実現を阻止できるなら、その戦略を取るのは、
妥当性があることになります。
「イデオロギーのぶつけ合い」なんて、
推進派と非共存派の両方から
イデオロギーの議論をしかけていると
思わせるような、「どっちもどっち」的な
評価をするのは、わたしは感心できないです。
「どっちもどっち」は一般に加害者や、
根拠のとぼしい主張をする側を
不当に有利に扱うことになります。
選択的夫婦別姓問題においては、
それは反対派(非共存派)です。
非共存派としては、イデオロギー論争を
しかけることで、まともな議論の妨害をしたあげく、
その責任の一部を推進派に転嫁できることになります。
自分からしかけたイデオロギー論争なのに、
相手がそんなイデオロギーの議論を
するのが悪いと言うのですから、
「盗人たけだけしい」というものです。
かくしてこのやりかたはうまくいくのだと、
非共存派は味をしめるようになり、
さらに自信を持ってイデオロギー論争を
しかけて、選択的夫婦別姓の議論を
不毛なものにしていくことでしょう。