2008年03月08日

toujyouka016.jpg ユダヤ陰謀論者たち

このところ、あちこちのブログでお目にかかる反米主義者や、
いわゆる「リベ平」のかたたちの一部に見られる、
「反ユダヤ主義」を批判されているウェブログがありますよ。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080131/1201781124
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080125/1201204697
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080112/1200165144

ここでは、陰謀論を信じ込む心理として、
偶然を受け入れず必然を探そうとして、ものごとにはなんでも、
主体の意志があるとする「主体主義」と、複雑さを受け入れず、
わかりやすさを求める、「単純化」があるとしています。
「すべてはユダヤのしわざだった」は、これらの両方を、
いっぺんにクリアしますから、たしかに都合がよさそうです。

 
批判の対象に上がっているのは、つぎのエントリです。
最初のふたつは、「核ミサイルで放射線帯が二重」のかたで、
3つめのは、「降圧剤でがんになる」のかただったりします。
http://310inkyo.jugem.jp/?eid=631
http://310inkyo.jugem.jp/?eid=635
http://henrryd6.blog24.fc2.com/blog-entry-357.html
http://interceptor.blog13.fc2.com/blog-entry-1481.html

「放射線帯が二重」のかたの明治維新観は、すさまじいものがあります。
明治維新の立役者たちは、日本を欧米諸国の植民地に
したくなかったから、事態を理解できない幕府を倒して、
大急ぎで近代国家を作ったのでは、なかったのでしょうか?
それを、「日本をなんとしても欧米支配させたい連中」と
いうのですから、倒錯もはなはだしいと言えます。

しかも欧米諸国は、「元々とくに争いもなかった我が国に対し
内戦が起こるように仕向けた上、幕府軍、討幕軍双方に
武器を売りつけてボロ儲け」したのだそうです。
全部の欧米列強が、裏でつながっているとでも、思っているようです。

帝国主義時代の欧米列強は、基本的に「単独戦」であり、
他国と同盟するもしないも、きわめて打算的な理由によります。
イギリスが、反幕府側の藩にてこ入れしたから、
これに対抗しようとして、フランスは幕府の援助をしたのであって、
英仏は、ここでは、利害が対立していたと言えるでしょう。
もともと日本にあった対立が、べつべつの国に、
それぞれ利用されたというのが、実際に近いくらいだと思います。


降圧剤のかたは、「この300年間の世界を牛耳って来たのは
明らかにユダヤ権力」などと書いております
すくなくとも300年間は、ユダヤ人は、社会的強者であり続けたと
思っているようすですが、第二次世界大戦の前後まで、
ユダヤ人は差別を受けていたことは、どうお考えなのでしょうか?
(「ポグロム」「ゲットー」なんて、なんのことかわからないんだったり。
「ドレフュス事件」も、聞いたことないかな...?)

最初にご紹介したブログでも、アメリカでは1950年代まで、
ユダヤ人は、大学教授になりにくかったことが、指摘されています。
ほかにも、ファインマンの自伝をご覧になると、
ユダヤ人は、大学に入学できる人数に制限があったことや、
サークルでも、ユダヤ系の学生は入れてもらえず、
ユダヤ人だけでサークルを作っていたことが出てきたりします。

4つめのリンクの、「厚かましい馬鹿」と言われているかたは、
『ヴェニスの商人』に出てくるシャイロックを引き合いに出しています。
シェイクスピアの時代は、金融業はいやしいとされていて、
だからキリスト教徒たちは、これをユダヤ人にやらせていたのでした。
それで、キリスト教徒たちは、「金貸しをやるユダヤはきたない」とか、
言うのですから、盗人たけだけしいことでもあったのでした。
(ここも、「現在を無自覚的に過去に投影」があるのかな...?)


はじめのウェブログは、『Living, Loving, Thinking』というタイトル。
書いていらっしゃるのは、SUMITAさまというハンドルです。
社会学・社会理論専攻だそうで、それでむずかしいことが書いてあるみたい。

ところで、たんぽぽも、ビリー・ジョエルを書いているんですけど、
「ユダヤの手先」ということになるんでしょうか?(笑)
http://taraxacum.hp.infoseek.co.jp/teardrops/introduction/assailant.html

posted by たんぽぽ at 23:00 | Comment(5) | TrackBack(1) | 疑似科学(にせ科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
ユダヤ陰謀論とは直接関係ないですが、歴史を「謎解きミステリー」にしてしまう傾向が
最近とても強いような気がします。
「〜〜は実は〜〜だった」みたいな。
これが邪馬台国や聖徳太子などのように、古代の話なら無害な歴史ロマンですむのですが、
近代史にまで持ち越まれると、しばしば「陰謀論」と結びつきやすくなりますね。
共産主義はユダヤの陰謀、維新はフリーメーソンの陰謀だみたいに。
こういう「謎解き」というのには、お手軽で好奇心が満たされやすいという「利点」があるんでしょう。
たかだか、1つや2つの「新事実」でこれまでの歴史研究のすべてがひっくり返るわけでもないのに。
ところで「ぬぬぬ」のほう、なんだかにぎわってますね
Posted by かつ at 2008年03月09日 20:54
「ぬぬぬ?」の記事には、公開直後にコメントがいっぱいついてましたが、私がこれを批判したことがあります。
http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-558.html

そしたら、そのあとに「SOBA」と「ミニーマニア」がコメントしてたんですね。それで、最近sumitaさんの記事が再発掘されて、「kojitakenの日記」から「ぬぬぬ」にまたリンクを張ったら、そのあとに「錦鯉」ってやつが反応してる。ちょっとカス記事をかまい過ぎましたかね。

どっかでは、陰謀論批判に対して、また「隠れ体制派」とかいうレッテルを張ろうとしてムズムズしてる人もいるみたいだし、皆さん本当におヒマです。
Posted by kojitaken at 2008年03月09日 22:25
かつさま、コメントどうもありがとうです。

古代でも、それなりに困ることは、あるみたいだけどね。(笑)
http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/chubun/ohno/tondemo.htm

それはともかく、「じつはなんとかだった」というシナリオは、
意識が高くなった気分になれる、という効果はあるんでしょうね...
陰謀論も、そういう心理効果はあるという点でも、同種と言えると思います。

「ぬぬぬ?」は、コメント欄で、感心されちゃってますね。(笑)
このかたは、「水からの伝言」の議論からは
まったくはずれていたので、ダメージを受けていないし、
すさんだ雰囲気がないので、会話しやすいのかもしれないです。



kojitakenさま、コメントどうもありがとうです。

なんだか、エントリが話題になると、コメントが入りますね。
わたしのこのエントリも、見つかったら、だれかがなにかを言うのかな...?
Posted by たんぽぽ at 2008年03月09日 23:42
>http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/chubun/ohno/tondemo.htm
おお、これはまたおもしろいものを
専門の研究者にとっては、もちろん嘆かわしく頭の痛いことでしょうね。

http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/chubun/ohno/yukiguni.htm
>(3)通説や常識をやたらと「先入観」呼ばわりしたるのはトンデモ「研究」の特徴の一つです。
  通説や常識は「ただ疑えばよい」というものではありません。
>(4)固定観念を去ることは大切です。しかし固定観念を去ったからといって、
  それで自説が正しいという証明にはなりません。

このへんの言葉は、「私は権威を信じない」と言ったオーツ氏に聞かせてあげたいところです。まあ、無駄かもしれないけど。

歴史研究とか民俗学とかは、昔から各地各地にアマチュア郷土史家みたいな人がいて、
広い裾野を作りながら大学の研究者らと協力していたものです。
柳田の「遠野物語」もその成果ですね。
今でも、むろんそういう真面目な人もいるんでしょうけど、なにごともお手軽な世の中なので、
お手軽に「大発見」した気になる人もいるのでしょう。
アカデミズムの権威失墜というのも良し悪しですね。
Posted by かつ at 2008年03月10日 01:40
そのサイト、おもしろいでしょ?(笑)

じつは、こういうページもありまして...
オーツ氏をはじめ、あっちのほうや、そっちのほうにいる、
とんでもない人たちの言いそうなことは、ことごとく想定されていたりします。
(そのまんまって感じのばっかりじゃないかってね...(笑))
http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/chubun/ohno/qanda.htm

歴史研究を意識して書かれているけれど、
どんなとんでも信者にもあてはまる、一般的なことですよね。
(というか、自然科学系のとんでもを見て、
歴史研究にもあてはまると考えて、書いたのかもしれないけど...)


>昔から各地各地にアマチュア郷土史家みたいな人がいて、

そういえば、さきのサイト、郷土史だと、
しろうとでも、史料の手に入りやすい地元のかたで、
プロ並みのお仕事をなさることもあると、書いてあったと思いましたよ。
Posted by たんぽぽ at 2008年03月10日 23:36

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ハイリスク・ノータリン
Excerpt: ちょっと前の擬似科学・陰謀論をめぐる議論では、こんなにもいるのかと呆れたくらい芋づる式に現れた陰謀論たちに絡まれたり陰口を叩かれたりして、そのたびに苦笑していたものだ。 たとえば、こんなブログもあっ..
Weblog: kojitakenの日記
Tracked: 2008-03-12 00:49